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白き目覚め  作者: バトレボ
第二章 神域と血
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影を喰らうもの

第二章クライマックスです

その存在は、明らかに“語られてはならなかった”。


けれど、そこに現れた。


その影は、語りを知らず、名を持たず、形も曖昧なまま——それでも、確かな“飢え”だけは、異様なほど濃く漂わせていた。


「……な、なんだ……この、気色悪い……」


カズハが眉をひそめ、霧の中から漂う気配に目を細める。


「これは……“語られていない”のに……感じる。空気が汚れていく……」


テンは震える拳を握りしめながら、立ち上がっていた。

その視線の先、黒くゆらめく影が、地に伏した男のひとりに触れた。


——ズズッ……。


触れた瞬間、男の身体が“解けて”いくようにして影に吸い込まれた。

悲鳴をあげる間もなく、肉体も、声も、記憶もすべて——ただ“語り”という因果に変換され、影の一部へと組み込まれていく。


「や、やめろ……うわああああっ……!」


逃げようとした別の排斥者も、影の裾に触れた途端、霧の中に沈んだ。


そして影は、彼らの“語られた物語”を取り込み、形を変えた。


——黒い人の形をした“何か”が、霧の中から立ち上がる。


「……あれ、は……!」


ユウイチが息を呑む。

それは、さっきまで村を蔑み、信仰を嘲り、暴力を振るっていた“人間たち”の姿を写し取ったかのような存在だった。


「語られぬ物が……語りを吸って変わった……?」


カズハが震える声で呟く。

その正体を、彼女たちはまだ知らない。

だが、あれは“物語を喰らう”——そして、“物語を装って人を殺す”。


「ユウイチ、シラハ様、下がってください!」


カズハが叫び、テンが二人を庇うように前へ出る。


「俺が、時間を稼ぐ!」


そう叫ぶテンの背に、わずかに光が灯る。

だが、敵の数は多すぎた。

黒い人型の異形たちは、静かに、音もなく、迫ってくる。


「——撤退します!」


カズハの判断は早かった。

ユウイチとシラハを抱えるようにして、三人は霧の山道を下る。

テンは殿を務め、鋭く振り返るたび、歯を食いしばって後退した。



白蛇村では、村の者たちが異様な気配にざわめいていた。


村の一角では、トウゲが村の様子を見下ろしながら、ひとりニヤニヤと笑っていた。


「……ふん、暴れた連中を抑えてやれば、恩も売れるし、見返りも引き出せる。これで白蛇村の力を借りた代償として——いや、取り分として……」


だが次の瞬間、彼の表情が凍りついた。


山の霧が裂け、その奥から“黒い人影”たちがにじり出てきたのだ。


「な、なんだ……あれは……!? あれはもう……人じゃない……っ!」


声にならぬ声で呟きながら、トウゲは後退する。

その目には、明らかな“恐怖”が宿っていた。


その瞬間——


「神域——展開する」


白蛇の静かな声が社を震わせる。

霧が渦を巻き、空気が変わる。

神域の輪郭が広がり、村を包み込むように、力が地を走る。


村人たちは息を飲み、狼狽える。


「な、なんだ!? この空気……胸が締めつけられるような……」

「でも、なぜか……安心するような気も……」


そんな混乱の中、村へたどり着いたカズハが声を上げた。


「落ち着いてください! これは白蛇さまの力です! この神域が、村を守っています!」


その声に、村人たちの視線がカズハに集中する。


「敵はすぐそこです! 交戦準備! 村の周囲を包囲し、女性と子供たちは社の奥へ!」


カズハが指示を飛ばし、村人たちが動き始めたその瞬間だった。


——ズッ。


何かが“歪んで”現れる音。

次の瞬間、黒い異形の一体が、まるで“語り”に反応したかのように、カズハの背後へ瞬間移動する。


「——危ない!!」


テンの声と共に、彼の身体がカズハに飛び込む。


刹那、黒い爪がカズハを貫こうと迫った——が、

テンがその身で受け止め、地面に倒れ込んだ。


「……テン!!」


ユウイチとシラハが駆け寄る中、カズハは息を呑む。

テンの背から血が滲み、地に赤が広がっていた。


「……カズハ様……無事で、よかった……」


テンの微笑に、カズハは拳を握りしめる。

その瞳の奥、炎が燃え始めていた。


そして空より白き閃光。


白蛇が、最初に現れた異形めがけて、空を裂くごとく突撃していた。

神域が輝きを増し、戦の幕が、いま静かに、だが確実に開いた。


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