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第三章 団体客

その日も、無表情を貼りつけたままホールに立っていた。

銀のトレイ、磨き上げられたグラス、水差し。

すべてが日常の一部。心を殺して、動作だけを繰り返す。


「ネフィル、6番テーブルへ」


控えめな声で天使が指示を飛ばした。

一礼し、水差しを持って歩き出す。


6番テーブル。

そこには、見慣れない雰囲気を纏った団体の客たちが座っていた。

装飾の少ない、動きやすそうな服装。目の色も肌の色もバラバラで、どの種族かもはっきりと分からない。


…旅人?


用心深く距離を詰め、丁寧に水を注ぎながら耳を澄ませた。

だが、彼らの会話はすべて聞き慣れない言語だった。

発音のリズムも、音の響きも、この大陸のものではない。


言葉が、分からない。


困惑を覚えながらも、注文を聞くために端末を差し出す。

彼らはそれを受け取り、メニューを静かに確認しながら、

次々に天使の料理"以外"を選んでいく。


一人、また一人と注文を完了し、最後の人物が画面を僕に返した時、

手が、かすかに震えた。


……誰も、頼まなかった。


初めてだった。

この園で、そんな注文を受けたことはなかった。


呆然とした瞬間


足元のタイルに引っかかり、バランスを崩す。


「――っ」


トレイが傾き、水差しが宙を舞った。

透明な水が、テーブルの手前に座っていた男性客の胸元を濡らす。


「あっ……!」


慌てて謝ろうとしたが、言葉が出てこない。

焦って視線を上げると、こっちを見ていた。


琥珀色の瞳。その中にあったのは、怒りではなく、驚きと、わずかな哀しみ。


「......?」


男が何か言葉を発した。けれど、意味が分からない。

ただ、彼の声にはどこか、優しさのようなものが混じっていた。


次の瞬間、隣にいた別の仲間がすっとハンカチを差し出し、濡れた服を拭くように合図を送る。

誰も怒っていない。誰も、責めない。

ただ、戸惑っているのは、僕の方だった。


……なんで。どうして……怖くない?


何度も頭を下げながら後ずさる。



そして、その日を境に、園の運命が少しずつ動き始めるー

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