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異世界でも野球やろうぜ!?  作者: ウエス 端
vs. ノウ=キーン王国
9/120

第9話 情報と分析

 2回表、反撃開始!


 といきたいところだったが、あえなく3者三振で終わった。


 オレも2回裏は3人で抑え、今は3回表が始まったところだが……。


 下位打線だし、はっきり言って反撃の糸口を掴めそうにない。

 せいぜい粘って球数を投げさせてほしい、期待するのはそれだけだ。



 しかも3回裏の相手の攻撃は9番から。


 また相手の上位打線に回ってしまうのだ。


 どういう配球でいこうかな。

 カーブ以外の変化球を解禁しようか……でもピアーズがまだ対応しきれてないしなぁ。



「あの、キュータロウ殿。ちょっといいですかな?」


 この試合の監督であるドネリー将軍の声だ。


 いったいなんだよ。

 正直なところ、オレはいろいろ考えることが多いから余計な話はしたくないんだけどな。



「なんですか、監督」


「参考になるかわかりませんが……相手の1番打者ジャクリーンについての情報です」


「……どういう内容なんですか?」


「彼女は、恐らく魔力で身体能力を強化しています」


「えっ? でも球場内では魔法は使えないから、身体強化魔法も使えないはずじゃ」


 監督は説明が長くなるのに備えてか、少し腰を浮かして座り直してから話を再開した。



「はい、魔法は使っていません。彼女は、体内の魔力を直接、筋力や体力に変換していると思います」


「そんなことできるって何故わかるんですか」


「戦場では、魔道士部隊を無力化するために、魔法が使えなくなる結界に誘い込むというのはよくある戦術です。そこで対策として、さっき言ったような能力を独自に開発し実戦で使っている魔道士たちがいます」


「だから彼女は、あんな華奢な身体で痛烈な打球を打てたり速く走れたわけか。それって、誰でも無制限に能力増強できるんですか?」


「いえ、それ相応の魔力と実力が必要です。できても大半は、普段の身体能力に毛が生えた程度しか強化できません。要は緊急対応でしかないのです」


「でも、ジャクリーンは違う感じだと思います」


「彼女はノウ=キーン王国最強と謡われる魔道士ですからな、かなり強化しているのでしょう」


「弱点とかはないんですか」


「あります。強い集中力が必要なので、長い時間はもたないのです」


「なるほど。打席で時間が経過したら強化が弱まるってわけだ」


「仰る通りです。彼女がどれくらいもたせられるのかはわかりませんが」


「ありがとうございます、助かりました」


 監督は長い説明を終えると、ヤカンに入れてある水をコップに入れてグイと飲み干した。


 もう話は終わりかと思っていたが、呼び止められたのでもう一度監督の方に向き直した。


「あとひとつだけ。さっきとは別件ですが、観客席に他国のスパイがいるようです」


「なんだって! それはどいつですか」


「えっと、あの男と、もう少し離れたところの……」


「なんでわかるんですか」


「詳しく話すと長くなるのですが、なんとなく経験でわかるのです」


「もう、この野球の試合のことが知れ渡っているのか」


「野球のことというよりは、先日の戦場でウチが一方的な内容で勝利したことで、どんな戦術をとったのか探りに来たということだと思います」


「そういうことか。それにしても動くのが早い」


「大陸全土が戦国時代ですからな、どこも他国の動向に敏感なのです」


 兵士になりすましていれば球場に入れてしまうというのは厄介だな。


 今回はベンチ入りメンバーに選ばれてないが、そんな奴らでも選ばれたりするのだろうか。


 しかし弱った。

 先のことを考えると、ここであまり手の内を敵国に晒したくない。


 でも舐めプして勝てる相手じゃないし、どうしたもんか。



「あの、監督にキュータロウさん、ちょっといいですか」


「あ、はい。どうなされました姫」


 監督のこの発言で、ベンチの雰囲気が騒然としたものに一変してしまった。


「姫……だと?」


「そういえば、前からセシリーって、セシリア姫に似てると思ってたんだよなー」


「じゃあ、ここにいるのは本物?」


 あーもう、余計なこと言うからベンチ内が混乱してるじゃないか。


 どうしよう、監督の孫娘じゃなくて、実は王女だって潔くバラしてしまおうか。

 いや、ピアーズが鋭い目つきでこっちを睨んでるし、なんとかごまかさないと。



「あ、あの! お爺さまは、わたしのことを小さい時から姫って呼んでるんです!」


「じ、実はそうなのだ。おお、姫! 今日もかわいいよ姫!」


「もう、お爺さまったら! みんなが見ている前で恥ずかしいです」



「なーんだ、ジジイが孫を猫可愛がりしてただけか」


「そりゃそうだよな、よく考えたらセシリア姫がこんな前線までお越しになるはずがない」


 良かった、セシリーの機転でうまく事を収めることができた。



「で、何の用事だったのさ、セシリー」


「あの、スコアを見直していたんですが……、キュータロウさんの投球で、外側のボールばかり打たれているんです」


 なんと、その通りだ。


 ヒットを打たれたのはもちろん、打ち取ったのもアウトコースばかりじゃないか。

 逆にインコースはほとんど見逃している。


「ありがとう、とても役に立ったよ」


「どういたしまして! お役に立てて嬉しいです」



 まさか、野球を始めて3週間ほどの連中が、相手の投球から狙い球を絞って打ってくるなんて思いもしなかった。


 なぜアウトコースなのかは今のところ不明だが、それならば対応した配球をするまでさ。


 そうこうしているうちに3回表の攻撃が終わってしまった。


 裏の守備では、ここまでもらった情報を生かして抑え込んでいくぞ。

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