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異世界でも野球やろうぜ!?  作者: ウエス 端
vs. ミキシリング共和国
83/120

第83話 逆方向

「ストライク!」


 9回裏共和国側の攻撃も既にツーアウト。


 現在絶好調のオレは続けてアウトを取り、今打席にいるバッターもツーストライクと追い込んでいる。


 最後に渾身のストレート!


「ストライク! バッターアウト!」


 ふう、この回も3人で終わらせることができた。


 そしてここからは延長戦に突入しタイブレークとなる。


 ランナー1、2塁の状況から攻撃が始まるので点が取りやすくなる筈だが……。


 しかし相手ピッチャーは10メートルの身長で投げ下ろす巨人族ゼラス。


 あり得ない高角度でストライクゾーンに入ってくるストレートに大苦戦中だ。


 とはいえ、この回の打順は9番スコット、そしてオレから上位打線に繋がる好打順。


 なんとしてでもここで決着をつけたい。


 懸念があるとすればオレが敬遠されること。

 スコットに送りバントしてもらっても、共和国側は空いた1塁に歩かせるかもしれない。


 もちろん後続の打者が打ってくれればいいのだが簡単にはいかないだろう。


 ベンチで共にバッターボックスに立つ準備をしているスコットの表情は……自信が無さそうにしか見えないが、ちょっと話してみよう。


「なあ〜スコット、あれ打てそうか?」


「いや、全く。キュータロウこそ何か策はあるのか?」


「うーん。ボールの角度に合わせてアッパースイングでかち上げる」


「それが簡単にできりゃあ苦労しねーっての!」


 スコットはオレの無策ぶりに呆れてバッターボックスへ向かう。

 だが途中で彼のこの打席にかける思いを話してくれた。


「でもなあ、できるだけいい形でキュータロウに回してみせる! さっきは代打で打てなかったし、俺にも意地はあるんだ!」

 

 左打席に入ったスコットはすぐに構えると、自分を奮い立たせるかのように気合十分で声出しをした。


「さあ来いやー!」


 ここは余計なことは言わずにスコットに任せたほうが良さそうだ。


 そしてオレは自分が打つための準備をする。


 一方のゼラスは投げる前の所作を含めてルーティンのように同じ投球モーションを守っている。


 セットポジションから少し左足を踏み込み、ほぼ立ち投げで、指先で摘むように持ったボールをビュッと投げ降ろした。


 上から落ちてくる初球を、スコットはおりゃ! と大根切りで打ちにいく。


「ストライク!」


 だがあえなく空振りでワンストライク。


 必死さは伝わるが、さすがに落ちてくるボールに点で当てにいく形になってしまう。

 加速するように落ちてくるボールは、打者の手前に来る頃には想像以上にスピード感があるのだ。


「ムダムダ、そんなへっぴり腰の大根切りでは当たんねえべ〜!」


 クソッ、ゼラスの野郎、そんな嘲笑うようなこと言わなくてもいいだろうが。


 しかしスコットはめげずに打席で構える。


 ゼラスは気に留めることもなく2球目を続けて投げ降ろす。


 ここでスコットはバントの構え。

 送りバントではなく自分も生きるつもりか?


 ゼラスは巨人族故に動きが緩慢なので、ピッチャーの足元に上手く転がせば面白い。


 だからファーストとサードが突っ込んでくる……と思ったが動きはない。


 そしてあっという間にボールが打者の手元に落ちてきた。


 ガシャーン!


 ボールは方向が変わっただけでそのままバックネットへ突き刺さった。


 スコットが構えていたバットは大きく弾かれ、彼は踏ん張りきれずに尻もちをついている。


「スコットー! 大丈夫かー?」


「ちょっと滑っただけだ。大したことねーよ」


 滑っただけでああはならないだろうけど、野暮なことは言うまい。


 それにしても、バントをボールの角度と球威で封じ込めるとは。

 あれじゃボールを転がすのもままならない。

 だからバントシフトは無用というわけだ。 


 そしてゼラスは、まさに見下ろしながら自慢げに高笑いする。


「俺っちのボールにゃあよぉ〜、そんな小細工は通用しねえっぺよ!」


 なんか腹立つなあ。

 だけど当のスコットは怒りもせず、かと言って諦めてはいない表情で期待が持てる。


 ゼラスは相手バッターに無頓着な様子で、続けて3球目のストレートを投げ下ろした。


「今度こそっ!」


 スコットは再びバントの構えだ。

 でもさっきとは違い腰をしっかりと落としている。


 そしてボールがバットに当たる瞬間に、今度はボールへ向かって足を伸ばして飛び上がっていく。


「おりゃああああ!」


 スコットの掛け声の大きさとは裏腹に、プッシュバントの小フライがゼラスの足元に飛んでいった。


 バントなんて成功しないと油断していた内野手たちはまだ動いておらず、ピッチャーのゼラスも焦ったのか自分の足元を転がる小さなボールを掴みそこねている。


 そこにショートが慌てて突っ込んで打球を捌き、急いでファーストへと送球したのだが。


「セーフ!」


 スコットの足が駆け抜けるのが一瞬早かった。


「いよっしゃあ!」


 これでノーアウト満塁!

 オレは、いやウチのベンチの連中も点が入ったかのような声を思わず出してしまった。


 それは単にチャンスが広がっただけでなく、塁が埋まったことでオレの敬遠が無くなったからだ。


 だからこそスコットの勝利への執念、無駄にはしない。


 オレはこの試合で初めて左打席に立つ。

 なんだか久しぶりに家に帰ったかのような気分で、やはり左打ちの方がしっくりくる。


 対する共和国側の空気は非常にピリピリムードで、ベンチから伝令が出て話し合っている。


 そして彼らが選んだのは内外野ともかなりの前進守備をするというものだった。


 確かにゼラスのボールの威力は凄まじいが、外野にまともに飛ばせない前提とか舐められたものだ。


 まあ、それだけ彼のボールに自信があるのだろう。


 でも持ち球はたぶんストレートのみ。

 ボールを持つには大きすぎる手で変化球まで上手くコントロールできるとは思えない。


 オレはバッターボックスの一番後ろで構える。

 あとはパワー負けしないコンタクトができるかどうかだ。


 初球はタイミングを測りつつ軌道を確認。


 角度はもちろん真上とかではなく、たぶん30度くらい。

 数学で習った三角関数を思い出しつつ計算したので合ってるはず……たぶん。


 だけど実際に打席に立つと上から落ちてくるくらいに思えるんだよな。


 それに一番後ろに立っても、ボールは頭上から左の脇腹へ向かってまっすぐ通過したのだ。


「ストライク!」


 ボールはキャッチャーが上向きに構えたミットにズドンと沈み込んだ。


 これでストライクだもんな。

 打ち方がわからなくて当然だ。


 と愚痴っても仕方がない。

 30度以上の角度のストレート……そういえば打撃で長打が出やすいバレルゾーンも20〜30度くらいだったけ。


 つまりそのままの角度で打ち返せれば……ってそれができれば苦労はしない。


 だから問題はどこで捉えるか。

 あの球威を打ち返すにはかなり強くスイングしないといけないので、打つポイントは自然と前になる。


 でもそれじゃあ、頭上のボールを見上げながら打つことになって、大根切りでもアッパースイングでも捉えにくいというジレンマに陥るのだ。


「さあ、次も行くべ〜!」


 おっと、ゼラスが2球目を投げてくる。


 悩む前にボールが手元に来るまでのタイミングを測っておかないと。


 ゼラスの投球タイミングはほぼ一定であり、これが唯一の弱点と言ってもいい。


「ストライク!」


 うーん。


 ボールの位置的に丁度いいのは身体の近くまで来たときなんだよなあ、やっぱり。


 どうしよう……いや、やり方によってはそれでも強くボールを引っ叩けるはず。


 オレはバッターボックス内で少しベースから離れつつ、いつも通りにバットを構えた。

 それから肩を開かないように注意、と。


 ゼラスはポンポンとストライクを2つ取って余裕が出たのか、自慢と嫌味を一度に言ってきた。


「勇者キュータロウっつってもよぉ〜、いざやってみたら大したことねえっぺよ。いや、俺っちが凄すぎて手が出ねえんだっぺな。シシシッ!」


 この野郎!

 まあいい、今のうちだけだ、言わせておこう。


 そしてゼラスはセットポジションから自信満々で3球目をビュッと投げ降ろした。


 さっき測ったタイミング通りに、ボールが身体の近く、右の肩口から入ってくるタイミングで動き出す。


 バシィッーン!


 真ん中高めをアッパー気味に振り抜いたバットからレフト方向へ強い打球が上がった。


 バレルゾーンよりちょっと高いか?

 でもそこそこいい角度でスタンドへ向かっていく。


 オレがやったのはボールを丁度いい高さまで引き付けて、外角を打つつもりで逆方向へ強い打球を飛ばす広角打法。

 だからベースから離れて立った。


 強烈な球威だったけど真芯に当てたのでなんとか飛ばすことができた。


 前進守備の外野の頭を越えていったので、あとはファウルゾーンへ切れなければヒットは確定。


 振り遅れじゃないからたぶん切れないと思うけど、相手の野手たちの目はそれを祈るような目つきだ。


 だけど悪いな、やっぱりそのままレフトスタンド最前列にボールが飛び込んだ。


 満塁ホームラン!

 9−5で一挙に4点リードだ。


 意気揚々とベースを回っていく……といきたかったが、大きく落胆した相手野手たちを見て、さすがにはしゃぐのを遠慮した。


 あとはオレが10回裏を抑えるだけ。

 これで勝負は決まりかな。

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