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異世界でも野球やろうぜ!?  作者: ウエス 端
vs. ミキシリング共和国
78/120

第78話 代打を送る

 ミキシリング共和国との試合はすでに終盤の8回表まで進んでいる。


 スコアは3−5で2点ビハインド。

 この回は少なくとも同点、できれば逆転までいきたいところだ。


 しかしマウンドにいるのは変則尻尾投法のリザードマン・レイノックス。


 尻尾のしなりが球威抜群のボールを生み出し、尚且つ身体の回転から遅れてリリースされるのでタイミングが取りづらい。


 それにボールに巻きつけた尻尾の先端が鋭い回転を与えて、切れ味鋭い変化球も投げてくる。


 対するウチの攻撃だが。

 9番センター・コナーから始まり、次は1番オレに回ってくる。


 だから、是が非でもオレの前にランナーを出すべく勝負に出た。


 ウチのチーム内で一番の守備力を持つが打撃が苦手なコナーに代打を送るのである。

 送り出すのは控え一塁手で左の好打者、そして伝令役でお馴染みのスコット。


 球審ロボットに代打を申告している間、7回表にレイノックスと対戦したキャッチャーのサーマンからボールの見極め方についてスコットへ助言をしてもらい、あとは結果が出るのを祈るだけ。


 オレもヘルメットをかぶり、ネクストバッターズサークルへ歩いていく。


 そしてレイノックスはプレートを踏む前にグラブを左手から右手に付け替えた。

 つまり尻尾は左側から出てくるということだ。


 まあ左打者相手だから当然か。

 しかし、まさか異世界で両手投げ投手みたいなのを見れるとは夢にも思わなかった。


 そしてスコットが左打席に入って構えたところでプレー再開。


 お互いの緊張感が感じられる中で初球はどう来る?


 レイノックスは尻尾を強くしならせてから一瞬で豪球を弾き出し、あっという間にキャッチャーミットへズバーン! と叩きつけるように収まった。


「ストライク!」


 うーん、ストレートでちょっと甘かったけど見逃しか。


 サーマンは一体どんなアドバイスを……いやオレが口出すのはやめておこう。

 一度に違うアドバイスをもらっても、当のスコットが混乱するだけだ。


 スコットは黙って構え直す。

 レイノックスも余計な挑発など言ってこない。


 ここでランナーが出るか出ないかは影響が大きいことがわかっているのだ。


 さて次は……。


「ファール!」


 高速で切れ味鋭いカーブだった。

 スコットはよくバットに当てられたもんだ。


 その後はシンカー、カーブと続けて来たのを辛うじてファール。


 こうやって改めて見ると、レイノックスは細かいコントロールは無く、ボールの威力とキレ、そして変則投法でのタイミングの取りづらさで勝負するタイプのようだ。


「ファール!」


 外寄りのストレートもカットして3塁側スタンドへ。


 なんとか反射的についていけてる。

 とにかくなんでもいいから出塁してくれれば、オレがまずは1点を返すことができるのだ。

 この調子で頼んだぜスコット!


 一方のレイノックスは……帽子を一旦脱いで額の汗を拭いながら、オレの方へ向かってボソッと呟いた。


「思ったよりも粘りますね……さすがはキュータロウ殿のチームメイト。少々見くびっていたようで、失礼しました」


 それから帽子をかぶり直すと、今度は強い視線を向けて自信ありげに言い放った。


「お詫びと言ってはなんですが……出し惜しみせずに全力で相手いたしましょう」


 なんだよ、それじゃここまで手を抜いてたみたいじゃん。

 ハッタリかまして混乱させる意図かもしれないし、オレは反応せずにやり過ごし、スコットにも『気にするな』と目で合図した。


 セットポジションについたレイノックスは、今までどおりの投球モーション……いや、尻尾をスリークォーター、それどころかサイドに近い角度まで下ろしてきた。


 あれじゃスコットは背中からボールが来る感じになる。

 そして彼の背中目掛けて強烈な回転がかかった速いボールが向かってくる。


「スコット、危な……」


 オレが叫ぶ直前にボールはギュン! と水平にベースの対角線側へと曲がっていく。


 ボールは少し浮き上がりつつ真横にスライドしながらベースの端をかすめてキャッチャーミットにバシッと収まった。


「ストライク! バッターアウト!」


 スイングもできずに立ち尽くすスコット。

 しかし、初見ではそれも仕方のないボールだった。


 レイノックスは左手を控えめに突き上げ、静かにガッツポーズしている。

 嬉しさを隠し切れないくらい、よっぽど快心のボールだったのだろう。


 あれは、どう見てもスイーパーだった。

 一応説明すると、ベースの対角線をなぞるように大きく横滑りして曲がっていくスライダーってところだ。


 それが背中側から急に現れて急激に曲がっていくのだから、事前に軌道が読めていないと厳しい。


「……スマン、キュータロウ」


「気にするなスコット。あれは初見じゃ無理だ。ところでそれまでのボールの出処は見えてたのか?」


「見えたっていうか、サーマンから聞いたとおりにしただけだ。奴の尻尾から飛び出したボールが一瞬浮いたり曲がったりするのを見て瞬間的に球種を判断して、あとは反射的に食らいついていくって感じでなんとか」


「なるほど、ありがとう」


 やっぱり厄介な相手だよ、レイノックスは。


 それにスイーパー以外にも変化球を隠してそうだし、どうやって対応すべきか頭が痛いぜ。

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