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異世界でも野球やろうぜ!?  作者: ウエス 端
vs. ミキシリング共和国
73/120

第73話 誓いの接吻

―――6回裏共和国側の攻撃中。2点を取って3−3の同点に追いついた直後のベンチ内にて―――


「きゃあ〜〜〜! 早速同点に追いつくなんて〜、やればできるじゃな〜い! メイソンしょうぐ〜ん! (ギュッ!)」


「おほぉ! マリリンさん、気持ち良すぎ……じゃなくて、この回は必ず甘い球が来るから逃さず強振しろと指示を出していますから」


「この調子で〜、キュータロウを2度と立ち直れないくらいに〜、ボコボコにしちゃってよね!」


「あ、はい、それはもちろん……あおおおっ!」



 チクショー、自分に腹が立つ。


 オレはプレー中に突如として白昼夢を見るという奇妙な現象に取り憑かれてしまい、2点を失って3−3の同点に追いつかれてしまった。


「タイム!」


 ウチのベンチから伝令が出てきた。

 1試合3回しか使えない貴重な伝令も、これで2回目を使わせてしまった。


 そして伝令役のスコットから監督のセシリアの心配が伝えられた。


「キュータロウさん。ベンチから見ても貴方の行動の異様さが目に付きます。何が起きているのか包み隠さず話してください。これがセシリア姫からの伝言だ」


「すまないみんな。信じてもらえるかわからないけど……オレはさっきからプレー中に白昼夢を見て、気がついた時には既に甘いボールを投げたりフォアボールを出したりしている」


 マウンドに集まった野手たちがどよめく。

 というか信じられないというのが本音だろう。


 ここでファーストを守る近衛師団長ピアーズが強めの声だが冷静な言い回しで一言発した。


「キュータロウ。それなら、もっと早く相談してほしかったぞ」


 それはその通りだが。

 オレはそうしなかった理由を並べた。


「だって、夢だとか確証が持てなかったし、それにだな……恥ずかしいだろ」


「しかし、自分でもおかしいとは思っていたのだろう? それを一人でなんとかしようとしたんじゃないのか?」


「キュータロウ。確かに僕たちは実力で君に遠く及ばないけど、話してくれるだけでも何かヒントが掴めたかもしれないのに」


「結局、俺たちのことを信用しきれてねーってこったな」


 ピアーズに続いて、キャッチャーのサーマンとセカンドのエドモンドからも厳しい指摘を聞かされた。


「……すまない」


 謝るしかできない情けないオレを見て助け舟でも出してやろうと思ったのか、ピアーズは強めの口調ではあるが自分なりの考えを説明した。


「まあ過ぎたことを言っても仕方あるまい。恐らくそれは5回裏に代打に出てきたサキュバスの女が関わってると思う」


「どういうこと? 他の亜人種より色っぽいってだけじゃないのか?」


「俺も詳しくはないのだが……奴らはターゲットとして目をつけた相手の夢を操作できる能力を持つと言われている。故に好きなように白昼夢を見させることも可能ではないかと」


「だとしたら、そんなの防ぎようがないじゃん」


「ソロソロ伝令ハ、ベンチヘト戻ッテクダサイ」


 球審ロボットから注意を受けてしまった。

 そろそろプレー再開せねばと思うが、結局は何も対策できていない。


 どうやれば打ち破れるのか。

 打開策が見えないオレにピアーズが問いかける。


「ちなみにどんな夢を見たのだ?」


「その……なんというか、ちょっとエッチだったり、可愛らしい子に甘えられたり」


「おぉ〜! キュータロウが色ボケしちまうとはな〜、ケケケ!」


「茶化してやるなエドモンド。それでお前は夢の中で恥ずかしがったり戸惑ったりで弄ばれていると」


「……まあ、そんなとこだ」


「そうなると、女のそういう一面に慣れるのが一番いいのだが……そんな時間はない。ただ、一つ言えるのは、どんな白昼夢を見せられようとも、それはあのサキュバスが考えたものだということだ」


 そんなのわかってるって。

 伝令のスコットも、野手陣たちもそれぞれの持ち場へと戻っていく。


 そして次の打者は……身長3メートルのオーガ・ドーラだ。


 女子選手か……。

 また白昼夢で苦しめられそうだ。


「キュータロウさま。今回もどうぞよろしくお願いいたしますわ」


 どうにも、彼女のオーガとしての迫力とお嬢様口調のギャップには慣れないなあ。


 それはいいとして、打席で腰を深く落としてドッシリと構える彼女に、なかなか隙を見いだせない。


 どういう攻め方をしようかな。


 その前に今度はどんな白昼夢を見せられるのか。

 こういうのって気合とか精神力で跳ね返せないのかと思うんだが、さっきはわかってても結局術中にハマってしまった。


 おっと、いつまでも投げない訳にはいかない。

 初球は内角低め!


「ストライク!」


 自分で言うのも何だが、糸を引くようなストレートが決まった。


 今のところはなんともないな。

 マリリンの奴、白昼夢を仕掛けるネタがもう尽きたのかも。


 そうだとすれば押しまくるだけだ。

 2球目は、外角に逃げていくカーブ。


「ボール!」


 反応も無いか。

 長い腕だからあれでも届くだろうし、振ってくるかと考えたんだが……。


 まあいい、夢が襲って来る前に決着をつけてやる。

 次は内角を抉るフロントドアのスライダー!


「ストライク!」


 ドーラは目線で球筋を追いつつも、全く振らないどころか微動だにせず見送った。


 これでワンボールツーストライクと追い込んだけど狙いがイマイチ読めん。


 いや、もしかしたら……白昼夢で甘い球が来るからそれを打てと指示が出ているのかも。

 それならばここまでの状況に説明がつく。


 だとすればさっさと仕留めるに限る。

 次の4球目は、外角ストライクゾーンから落とすチェンジアップで勝負だ。


 ドーラの長い腕なら丁度いいコースだけど、だからこそ食いつくはず。


「うりゃああああ!」


 渾身のストレートかのように雄叫びを上げて腕を振り切る。


 外角やや低めに勢いよく伸びていくボールは、ベースの手前でブレーキがかかって落ちていく。


 ブオンッ! と、ドーラのバットが風圧をまき散らしつつ空を切って三振だ!


 ふう、ようやくワンアウト。

 しかしドーラの様子がおかしい。


「キュータロウさま。このわたくしを1度ならず2度までも三振で抑え込むとは。同じ相手に2度敗れた以上、一族の掟により責任を取っていただきます」


 な、何をいきなり訳がわからんことを!

 ドーラはマウンドへ駆けてくると、オレが戸惑っているのも構わずに抱き抱えられてしまった。


 そして身長の割には小さく整った顔を近づけてくる。


「キュータロウさま……誓いの接吻を」


 めちゃくちゃな展開だけど、こんな美人に迫られて悪い気は……いやいや、これも白昼夢に違いない。


 これまでのように惑わされては相手の思うつぼだ。

 オレは積極的に打って出ることにした。


「わかった。それじゃあ責任取ってやるよ!」


 オレはドーラの両頬に手を添えて自分の方に引き寄せる。


「えっ!? いや、あの、本気にしないでよ〜ちょっと!」

 

 積極的だったドーラの態度が急に変わった。

 直後に目の前がぱっと開けたようにキャッチャーミットとドーラの姿が目に入ってきた。


 って、投球動作の途中かよ!

 サイン通りのコースに投げないと……えーい!


 腕を振り切って投げたボールはキャッチャーミットへ向かって伸びていく。


 そしてベースの手前でブレーキがかかって……いやあまり落ちない!


「もらいましたわ〜!」


 バシィーンッ!


 真芯に捉えて振り切った打球音を残し、ボールはあっという間にバックスクリーン奥に飛び込んだ。


「やりましたわ〜! 勇者キュータロウさまからホームランをかまして差し上げたのです!」


 試合に勝ったかのような大はしゃぎでベースを回るドーラ。


 遂に3−5と逆転されてしまったのだが、オレに悲壮感は無かった。


 今回は駄目だったが、なんとなく白昼夢を破れそうな気がする。


 『どんな白昼夢を見せられようとも、それはあのサキュバスが考えたものだ』って、ピアーズはいいヒントをくれたよ。


 このままでは終わらんぜ。

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