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異世界でも野球やろうぜ!?  作者: ウエス 端
vs. ミキシリング共和国
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第57話 インサイドアウト

「ストライク!」


 共和国側のヴァンパイア・ドリアンがマウンドから投じた初球を、オレは盛大に空振りした。


 それはともかくとして、おかしいのだ。


 オレは読みどおりに内角に食い込んできたカットボールを、右腕を畳んで上手く捌いて打ち返した……と思ったのに。


 ボールはアウトコースへ、おそらく高速シンカーが決まったのだ。


 そんな馬鹿な。

 オレはバッターボックスで夢でも見ていたのか。


 そんな事を考えているうちにドリアンはセットポジションから2球目を投じようとしている。


 それから一瞬だけ奴の眼が赤く光った気がしたが……ナイターだから照明が目に反射してるんだろうか。


 いかん、バッティングに集中しないと。


 今度こそカットボールがきた、しかもコースが甘い!


 バチィーン! と真芯で捉えた……と思ったら、やっぱりアウトコース、しかもボールゾーンに外れていた。


「ストライク! カウント、ノーボールツーストライク!」


 クソ、どうなってんだよこれ!


 こっちに曲がってきた瞬間を確実に見た筈、なのに。


 そういえばさっき三振した8番のサーマンが妙なことを言ってたな。

 内側へ沈んでくるボールを捉えたと思ったら空振りして、外角に決まってたって。


 同じことがオレにも起きている、のか?

 なんか夢でも見させられているような、そんな気がする……あっ!


 ヴァンパイアの能力には催眠術があるらしい。


 そしてドリアンはそれを自分に使って、8回表の向こうの攻撃中に自己暗示で新しい変化球、高速シンカーを取得したのだ。


 そしてさっきの赤く光った奴の眼……間違いない。


 オレはタイムを取って、球審ロボットに催眠術は反則ではないのかと確認した。


 しかし……。


「現状、反則投球ノ項目ニ該当スル行為ガ、ドリアン選手ニテ行ナワレテイルトハ認メラレマセン。仮ニ催眠術ノヨウナ異能ヲ行使シテイタトシテモ、ソレヲコノ場デ証明スルノハ困難カト思ワレマス」


 チクショー、証明なんかできっこないだろ。


 それに球審ロボットには催眠術なんて効かないわけだから、オレが受けた異常な感覚を理解してもらえないというわけだ。


「クックック。吾輩の投球にケチをつける前に、己の実力不足を恥じるべきであろう、勇者キュータロウ。フハハハッ!」


 ドリアンの奴、調子に乗りやがって。


 どうする。

 恐らく奴の眼を見なければ回避はできるだろう。


 マウンドからホームベースまでは18.44メートルとちょっとした距離がある。


 接近してじっくり術をかけられないせいか、効力はボールがミットに収まるまでの間だけのようだ。


 だから次の投球ではまた術をかけ直さなくてはならないはず。

 でなければ2球目の時に眼が光った説明がつかない。


 しかし投球モーションを見なければボールの出処もタイミングもつかめない。


 心眼で打つ……なんてこと急にできれば苦労はしない。


「クックック……これでトドメだ、キュータロウ!」


 ドリアンがセットポジションに着いた。


 仕方がない、一か八かでやってみよう。


 オレはヘルメットのツバをできる限り顔に被せるようにして、ドリアンの足元を見る。


 そして奴が左足を踏み出したところで始動する。


 バットのグリップエンドを前に向けてヘッドを身体に巻きつけるように引き付け、ボールが見えてくるまでヘッドが回らないように我慢。


 そして見えてきたのは外に沈んでいくボール!


 バシーン!


 一気にヘッドを加速して振り切り、なんとか捉えたボールは、鋭い当たりではあったが3塁側へのファールとなった。


 そして見えたぜ……ドリアンが困惑している表情が!


 オレがさっきやったのはインサイドアウトのスイング……内から外へヘッドを出していく、基本的な技術ではある。


 この方がボールを手元まで見極めやすく、ヘッドを加速させながら逆方向へ強い打球を打つのに有効なのだ。


 今回はそれを強く意識して、とにかく手元に来たどんなボールでも捉えようという極端なやり方だ。


 もうこれしか、催眠術にかからない方法が思い浮かばない。


 それと、身体に近い内角のボールには対応が難しくなるデメリットもあるんだけど……やれるだけやってみるさ。


 あとはオレの集中力と反射神経がどれだけ持つか。


 それから5球続けて3塁側へファール。


 ドリアンは困惑しきった顔で、思わず呟いたのが聞こえてきた。


「何故催眠術が効かぬ……まさか本当に、ヘルメットのツバで目元を隠し、吾輩の投球モーションを見ずに打っているのか? そんな馬鹿な、人間にそんな能力があるはずが……」


 すみませんね、人間離れしちゃってるみたいで。


 でもタネを明かせばさっきの通りで、これは野球という競技が100年以上続いている世界に生まれたオレにアドバンテージがあるってだけだ。


 それから更に3球ファールにしたのだが。


 ガゴッと鈍い打球音を立てて、ボールはキャッチャーの手前をバウンドしながら3塁線の外へ出ていく。


「ファール!」


 そう、遂に内角高めの身体に近い場所にストレートを投げ込まれてしまったのだ。


 そしてニタッと口角を上げてニヤついたドリアンの顔が目に入った。


 どうやらバレてしまったらしい。

 奴は次の投球、どう出るか。


 続けて内角ギリギリを攻めてくるか、それとも裏をかいてアウトコースを突いてくるのか。


 ドリアンはキャッチャーから返球されたあと、ゆっくりプレートの上に行き、セットポジションに着いた。


 勝利を確信した余裕の振る舞いで奴は投球モーションを開始する。


 オレは思い切って頭をバッと上げて、ドリアンの顔を見る。


 思った通り催眠術はしてこない。

 奴の性格なら、これが最後と決め球を全力投球する方に全振りしてくると思ったぜ!


 奴の右手から放たれた最後のボールは内角高め、そこから更に内角へ曲がり始めた。


 その瞬間を待っていたオレは、身体を開き気味にしてバットを巻きつけ、ヘッドを加速させながら振り抜く。


 バチィーンッ!


 今度こそ真芯で捉えた打球がライトポールに向かって放物線を描く。


 内角を捌くためポイントを前にして捉えたので、あとはポールを巻きながら切れないことを祈るのみ。


 オレは確信歩きをしつつもポール際をじっと見る。


 そしてライトスタンドに打球が消えたあと……審判ロボットが腕をグルグル回すのが見えた。


 2打席連続ホームラン!

 どちらも奴の決め球カットボールを完全に捉えることができた。


 起死回生の一発にウチのベンチは祭りのような騒ぎだ。


 対照的にドリアンはガックリとうなだれ、肩で息をする様子が見えた。


 恐らく、催眠術はオレたちが思う以上に体力を消耗するのだろう。


 それを連発した上に大きな一発を打たれ、ちょっと気持ちが切れてしまったのかもしれない。


 ちょっと可哀想な気もするが、戦場で相手を気遣う余裕はオレにはない。


 その代わりガッツポーズは控えめにして一周し、淡々とホームベースを踏んだのだった。

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