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第5話 覚悟

「結局、あれからどうなったんだろう」


 オレはベッドの上で独りつぶやいた。


 オレはただ、野球をやっただけなんだ。

 だけどその結果は……。


 部屋のドアからノック音が聞こえてきた。

 誰だろう、どうぞと返事だけする。


「気がつかれたのですね、勇者さま」


 入ってきたのは笑顔も可憐な王女セシリアだった。

 続いて仏頂面をした近衛師団長ピアーズも入室する。


 そうだ、こいつらなら状況を知ってるだろうから聞いてみよう。


「昨日は、あれから、試合が終わってからどうなったのさ」


「昨日……ですか?」


「お前は何を言っているんだ……あれから3日経っているのだぞ」


 ええっ!

 翌日だと思ってたのはオレだけか。


 それじゃあ、3日間も眠ってたってことだよな。

 まあ、それだけの精神的ショックは受けたし、おかしなことではない。


「実は、もう目覚めないのではと心配していたのです。本当に良かった」


 セシリアの笑顔にはホント癒やされる。

 国民から人気があるのもわかるぜ。


 ああ、だからピアーズはあんな顔だったのか。

 だってオレに死んでほしかったんだもんな。


 でも残念、そんな簡単にくたばるかってんだ!


「あっすみません、これまでの状況をご説明しないと。ピアーズ、お願いします」


「……まずは試合終了直後の様子だが」


 奴はここでひと呼吸置いたが、気になってるんだから早く話してくれよ、苛つく。


「あの球場という建造物が消えたあと、元の戦場に戻ったのだが……そこに残っていたのは我らが王国軍兵士たちだけだ。ノウ=キーン王国軍は誰もおらず、武器や装備品だけが大量に落ちていた」


「ノウ=キーン王国?」


「そういえば言ってなかったか。お前が試合で対戦した連中の国だ」


「……で、その連中はまさか全員この世界から消えてしまったのか?」


「いや違う。敵方に送っているスパイからの情報によれば、あちらの兵士たちは全員武装解除されてボロボロの状態で、自分たちの城の周辺に飛ばされていたそうだ」


 そうか、それなら良かったと安心したのも束の間。

 次の報告でオレの気持ちはドン底まで突き落とされてしまった。


「ただし、光になって消えていった敵選手約20名と総大将は、今でも行方不明のまま見つからないようだ」


 やっぱりスキル発動の際の説明どおりなのか。


 敗者となった敵王国のベンチ入りメンバーは、本当に世界から消滅してしまったらしい。


 オレは結局、約20人の人間の命を奪ってしまったのだ。


 そんなオレの気持ちを無視するかのように、ピアーズは戦功がどうたらとかどうでもいいことを言い始めた。


「キュータロウ、此度の貴様の働きは、誠に見事であった。あの戦場で勝利を収めたことで、ノウ=キーン王国に占領されていた都市と城を奪還することに成功にしたのだ」


「あ、そう」


「……その上、敵から武器装備品を大量に奪い、武将の主力メンバーを葬った。敵戦力を大幅に削ることにも成功したのだ」


「……」


「大臣も大層お喜びだ。お前に褒美を出すことを検討している」


「何が褒美だ! オレが今どんな気持ちかもわかんねえのかテメーはよお!」

 

 こいつらには思いやりってもんが欠片もねえのかよ。

 まあ、オレを抹殺しようとした連中だもんな、期待するほうが馬鹿なんだろう。


「勇者さま、全ては貴方を召喚したわたしの責任です。本当に申し訳ありません」


 セシリアが深く頭を下げ、オレに謝罪した。

 彼女がしたことも許せないが、それでもこういう態度なら我慢はできる。


「姫、そのようなことをなさるべきではありません」


 ピアーズが横やりを入れてきたが、セシリアはそれを撥ねつける。


「いいえ、これは人として当然のことだと思います。そして、この件についてわたしなりに責任を取りたいと考えています」


「お待ち下さい、姫!」


「もうこれは決めたことなのです、ピアーズ。そこでお願いがあります、勇者さま。わたしを野球の試合に出してもらえませんか?」


「さっきの話を聞いていたか? もし負けたら死ぬんだぞ」


「もちろん、その覚悟はしています」


 見た目は大人しそうなセシリアだが、中身はとても芯が強い女性のようだ。

 その覚悟はいいが、華奢な体つきに細い腕は選手としてはとても使えそうにない。


 いや待てよ、この前は総大将のオッサンが監督としてベンチに入ってたな。

 それなら、女子マネとして記録員になって入るというのはいけるかも。


「選手ではなくて、雑用係みたいなので良ければ」


「キュータロウ、貴様ぁ! 姫に雑用係とは何事か! 今すぐ叩き切ってやる!」


「控えよ、ピアーズ。これはわたしと勇者さまの会話なのです」


 セシリアの静かな迫力に気圧されてピアーズは黙ってしまった。


 これは意外といけるかもしれん。


「勇者さま、それで是非よろしくお願いします」


「ベンチ入りの保証はできないけど、それでいいならよろしく」


 かくして、オレはデスゲームのような野球の試合を続けることにした。


 召喚主に覚悟を示された以上、オレも覚悟するしかない。

 そして、絶対に元の世界に帰るためにもな。

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