第３１話 無死満塁のピンチ
さて、どうやって無死満塁のピンチを切り抜けようか。
相手の打順は３番からになってるな。
打者はモニカ。
相手チームの要注意人物に挙げられていた凍結の魔道士だ。
「あなたがキュータロウさんですね。本日はよろしくお願いしますわ」
勝手に冷徹なイメージを考えていたが、ほわっとした雰囲気の女性だ。
「あ、こちらこそよろしく」
つい挨拶を返してしまったが、なんだか相手のペースに乗せられた感じがする。
左打席に入った彼女のバッティングフォームは、これといった特徴のないオーソドックスなものだ。
この球場がある仮想空間内では魔法は一切使えないので、今まで戦ってきた相手と同じく、魔力を直接筋力や体力に変換する身体強化術を使ってくると思うけど。
今のところはそんな気配も感じられない。
何を仕掛けてくるか、かえって読みにくいな。
満塁で右ピッチャーという状況で、セオリー通りならスクイズは仕掛けにくいはずだが。
相手のノリス監督もこれといった動きはない。
仕方がない、最悪１点覚悟で内野は定位置で併殺狙いでいくか。
まだ序盤だし、大量失点だけは避けなければならない。
では、いきなりギア全開でいきますか。
実質的にはマウンドに上がった直後でちょっとダルいけど、そんなことは言ってられない。
１球目は、内角低目にスライダー。
「ストライク！」
コースギリギリに決まった。
引っ掛けさせてゲッツーといきたかったのだが、振る気配も無かった。
ストレート系は狙っていないのか。
それともこっちか、２球目はアウトコース高めにストレート。
カキーン！
レフト方向におっつけてファール。
やっぱり外野へフライを打ち上げるのが狙いかな。
犠牲フライでも１点追加だから。
今まで戦ってきた相手チームは個人能力頼みな戦い方だったけど、今回はいやらしく１点を取りにくる野球なのは間違いなさそうだ。
３球目もアウトコースにカーブ……ってモニカはバントの構えに入った。
ツーストライクから意表をついてスクイズか！
オレはそのまま投げると一目散にホームベースに向かってダッシュする。
だけどその時には既にバントは引っ込められてボールは見送られた。
３塁ランナーは早々に３塁ベースに戻っており、牽制する意味で仕掛けてきただけか。
「ボール！ カウント１−２」
元からボールゾーンに外すつもりだったので、このカウントは予定通り。
次はどうしようか。
オレは内野の守備位置を少し変える指示を出してから、全力で低目にストレートを投げ込んだ。
ストライクゾーンなのでモニカは振ってくるが。
３球目との緩急で振り遅れ気味だ。
左側に寄せた守備位置の網に引っ掛けさせてもらう。
だが彼女の額のあたりに力の集中みたいなのを感じると、止まったボールを打つかのように鋭く振り抜き、センター返しをしてきた。
外野に抜けるか……いや、２塁手をベース近くに寄せておいたので、余裕で守備範囲内だ。
キャッチしてそのまま２塁ベースを踏み、流れるような動作で１塁へ送球する。
ゲッツー完成でツーアウト、狙い通りだ。
まあ、その間に１点追加されたが仕方がない。
３塁ランナーの出足は鋭く、ホームゲッツーはとても無理だった。
チームとして点を取りに行く姿勢が徹底されているのを感じる。
次は４番、土系魔法の使い手ガードナーだ。
どんな身体能力強化をしてくるかと少しワクワクしていたのだが。
そんな様子はなく、じっくりフルカウントまで粘り、球筋をよく見てはいたが、最後はあっけなく平凡な外野フライだった。
追加点が既に取れていたから無理に手の内を明かさなかったのだろうか、次の打席が不気味なことになりそうだ。
まあ、何はともあれ最少失点で切り抜けたのだ。
まずは攻撃で点を取り返していく、それに気持ちを集中しよう。
