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第3話 スキル発動

 オレが召喚された翌日には戦場に向かう準備が整ってしまった。


 馬車というか馬が引く戦車みたいなのに乗りこもうとすると、そのタイミングで、昨日オレに斬りかかろうとした騎士が話しかけてきた。



「私は姫の近衛師団長ピアーズだ。お前の副将を任命されたが実際の戦闘指揮は私が取る」


 まあそれならこいつに何もかも投げちゃえば何とかなるんじゃないか?

 心配して損した。


「……そしてもう一つ、大臣から承った役割がある。それはお前を監視をすることだ。もし逃げ出そうとすれば容赦なく始末することになる」


 こいつ眼がマジだ!

 クソ、大臣のオッサン、やっぱりオレを殺す気満々じゃねえか。



 だけどそう言われたからって黙って従えるかっての。

 戦闘に入れば混乱して隙が出来るかもしれない。


 もし殺されそうな状況になったら、チャンスを逃さず逃げ出してやる。


 オレだって日頃から練習で鍛えてる高校球児、スタミナと走力には自信がある。

 元の世界には帰れなくなるが死ぬよりはマシだ。


 100人の兵士を伴って出発し、行軍すること3日目に戦場に到着した。


 少し離れた位置からでも激しい戦闘が行われていることが感じられる。


 喧騒の中、本陣に辿り着くと、そこにいる将兵たちが一斉にこちらを向いて視線を集める。


「この場にいる全員に伝える。私は近衛師団長ピアーズである。既に連絡が来ていると思うが、この激戦地への援軍の副将として100人の兵士と共に今到着した」


 副将が檄を飛ばすと、さっきまでのざわめきがピタリと止まり、皆がじっと奴の話に聞き入っている。


 やっぱり近衛師団長っていうのは相当偉い地位なんだな。


「さらに朗報がある。ここにいる男は、姫が特別に召喚した勇者キュータロウだ。大将軍として訪れたこの戦場を必ずや勝利に導いてくれるであろう」


 姫が、というところでこの場にいる全員から一斉に気勢が上がった。


 それは実際に戦っている前線部隊にも届くほどで敵の兵士たちが何事かとこちらに注意を向けるほどだ。


 オレより年下っぽいお姫さんだったが、国民から絶大な人気があるらしい。


 そしてこの機を逃すまいと副将は援軍の兵士全員に前線への突撃を命じた。


 わぁーっと気勢を上げながら突撃していく兵士たちにより、敵部隊はかなり押されている。


 オレは副将によって、強引に前線の背後に連れ出された。



「おいキュータロウ、今のうちに『野球』スキルとやらを早く発動させてみろ」


 そう言われても、どうやったら発動できるかなんて何もわからない。

 

 取り敢えず拾った小石を敵の方に向けて投げてみたり、木の棒を素振りしてみたりしたが何も起こらない。


 まさか守備で発動するとかないよね?


 それだと敵から打球が来ないとどうしようもないけど。



 そうこうしているうちに、敵側が押し返してこっちに迫ってきた。


 逃げ出したいがすぐ後ろで副将が仁王立ちして監視している。


 そしてとうとう敵の武将の一人がオレの姿を見てこう叫んだ。


「ん? その紋章は大将軍であることを示すものではないか! これは好機、我がその首貰い受けようぞ!」


 ゲッ、ヤバいものを見つかってしまった。


 このままでは殺される、急いで逃げないと……でも副将がオレの前に立ちはだかって言い放った。


「姫からは戦況が危うくなればお前を最優先で避難させるよう申し付けられた。しかし大臣からはお前を見捨てよと指示を受けている」


 奴は眉間にシワを寄せると、続けてオレに非情な宣告を行った。


「私は大臣に従う。我々には強力なスキルを持った新たな勇者が必要なのだ」


 険しい表情のまま、奴はオレを敵の方へ蹴り飛ばした。


「うわははは、これでこの戦場での功績第一は我が頂いた! さあ覚悟!」


 さっきの敵武将の刀がついに迫ってきた。


 もう本当に駄目だ!


 だが討ち取られる寸前に辺り一面が光に包まれたかと思うと、次の瞬間にオレは球場のマウンドに立っていた。


 バッターボックスにはオレを討ち取ろうとした武将が立っている。


 そしてキャッチャーは、なんと副将の野郎だ!


 バックスクリーンのスコアボードは10回の表で0対0となっている。


 そして塁上には1塁と2塁にランナーがいてノーアウト。


 状況からするとタイブレークが始まるってところか。


 少なくともMLB式のルールではなさそうだけど、それならピッチクロックは無いということか。



 というかこれは夢か、それともあの世にいって見ている光景か。


 しかしオレの頭の中にはこの状況を説明する言葉が勝手に流れ込んでくる。


 これはオレのスキル「野球」が発動した状況らしい。


 既にタイブレークなのは、オレがこの戦場に後から参戦したからということだ。


 で、この戦場にいる者全てがこの球場の中にいるという。


 確かに観客席は少なく見ても何千人と座っている。

 ただし、武器や防具は無くなっているようだ。


 そして選手はその中から選ばれた者が務めるだと?


 といっても守備についている奴でわかるのは副将の野郎だけだし、敵に至っては全くわからない。


 そしてこの試合の勝者はこの戦場を制することになるのか……。


 それはいいけど、敗者のベンチ入りメンバーはこの世界から消滅するだと!?


 なんだよそれ、滅茶苦茶じゃねーか!


 でも試合が終了しないとこの球場から永遠に出ることは出来ないらしい……。


 そしてルールが頭の中に流れ込んでくる。


 結構情報量が多いのでオレ以外の選手はかなり戸惑っているようだ。


 オレも細かいところまでは頭に入らないが、ベンチ入りは20人だし、日本の高校野球のルールと同じかもしれない。



「何だこれは、いったいどうなっているのだ!」


 副将がマウンドまで詰め寄ってきた。


 何が何やらわからず焦っているようでいい気味だ。

 でもオレもわけわからんのだよ。



「何が野球だ! 誰がこんな球遊びなんかやるか、ここから出せ!」


 今度は別方向からやたらと大きな怒鳴り声が聞こえてきた。


 どうやら敵武将の一人でヒゲ面の男が喚き散らしているようだ。


 だがその叫びも虚しく、何も状況は変わらない。


「こなくそ! 魔法を喰らえ!」


 ヒゲ男はオレたちに向けて手を構えたが何も発生しない。


「なぜ使えん! ……いやよく考えたら、この棒で直接あいつらをぶちのめして全滅させれば済むことだよなあ!?」


 ヒゲ男はそう言い終わるやいなや、バットを握って凄まじいダッシュでオレに向かってきた。


 うわ、逃げ切れない、頭を殴られる!



 だがバットはオレの頭に届く前にフッと消え去った。


 何がどうなってるんだ?



「暴力行為ハ認メラレマセン」


 AI、というかロボットの音声みたいな声が聞こえてきた。


 そちらを向くと、ゲームのキャラクターっぽいロボットみたいなのがいる。

 特徴としては頭に黒い帽子を乗せて口ヒゲが取り付けられている。


 それが空中に浮いてゆっくりと近づいてくる。


 そしてやはりヒゲ男が食って掛かる。


「誰なんだお前は! 認められないとか何様のつもりだ! あ〜!?」


「私ハ、コノ試合ノ審判部長デス。球場内、プレー中ニ起キル出来事ニツイテ、ルールニ則リ判断スル権限ガアリマス」


「ほー、それでその審判部長とやらが何の用だ!」


 ヒゲ男は言い終わると同時に審判部長と名乗るロボットに右こぶしを振るった。


「無駄デス、コレ以上ハ、オヤメクダサイ」


 ヒゲ男の右腕はロボットを殴る寸前に光の粒子となって飛び散っていく。


 うぎゃあと叫び混乱する男に向かってロボットは冷徹に言い放つ。


「貴方ハ度重ナル暴力行為ニヨリ退場処分デス」


 ヒゲ男はフッとその場からいなくなってしまった。


「ゴンザレスー! てめえ、ゴンザレスをどこにやったー!?」


「やめろ、お前までああなったらどうするんだ!?」


 敵の別の武将がロボットに殴りかかろうと突進してきたが、更に別の奴に必死で止められた。


 ロボットは冷徹な説明を淡々と続ける。


「ゴンザレス選手ハ、別ノ異空間デ試合終了マデ待機トナリマス。尚、右腕ハ元ニハ戻リマセン」



 さっきの光景とロボットの説明で、球場内にいるすべての者の血の気が引いた。


 頭に入ってきた説明がハッタリでもなんでもなく、この試合に勝つしか助かる道はないと覚悟を決めさせられてしまったのだ。



 正直言ってオレも身震いしているが、そればかり言ってられない。


 副将の奴とはどう接したらいいか。

 もちろん頭に来ているが、今は味方チーム、しかもオレの球を受けるキャッチャーだ。


 取り敢えずサイン交換とかいろいろ打ち合わせないと、好き嫌いを言ってられる状況じゃない。


 だが……。



「はあ!? なぜ私がそのような面倒でわけのわからないことをしなくてはならないのだ。お前は野球が得意なのであろう。ならばお前ひとりの力でどうにかしろ」


 副将は全く協力する気がないようでキャッチャースボックスの方へさっさと行ってしまった。


 そしてマスクを被ってから座るとミットをど真ん中にしか構えやがらない。


 状況わかってんのかね、意地張ってるだけにしか見えない。


 まあ実際にプレーを見たこともないわけだから、ルールやポジションの説明を受けてもその通りにやる以外のことは出来ないか。


 でもさすがに困ったな。

 これじゃあ、全球ど真ん中で勝負するしかない。

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