第21話 危険なプレー
「キュータロウさん、今日はまずまずの立ち上がりでしたね。さあ、これで汗を拭いてください」
セシリア姫……いやこの場では女子マネで記録員のセシリーからタオルを受け取りつつ、労いの言葉をかけてもらった。
相変わらずその笑顔には癒やされる。
それはいいけど、よく考えると「まずまず」って労うというより評価だよな。
セシリーもだいぶ野球に慣れてきて、内容的に調子の良し悪しがわかるようになってきたらしい。
「キュータロウさん、ちょっと気になったのですが……ほぼストレートしか投げてませんでしたけど、もっと変化球を混ぜたほうがいいのではありませんか?」
まあ、スコアをつけていたらそう思うのも無理はないと思う。
でもそれは……と言いかけたところで、キャッチャーのサーマンが代わって回答してくれた。
「それには理由があるんですよ。まずは、手の内をできるだけ見せたくないから。最初から変化球を多投すると、あとで球筋を見切られやすくなります」
「なるほど、そうでしたか。でも、出会い頭のホームランとか怖くないですか?」
「まだ初回でキュータロウのストレートは球威十分だし、コントロールもいいので、そうそう打たれないです。それにまだ序盤ですから、連打で失点を重ねなければ取り返せます」
「つまり、連打される状況になるまでは変化球をあまり使わないという方針だったのですね。よくわかりました、ありがとうございます」
「どういたしまして」
セシリーがようやく納得してくれた。
サーマンは物腰の柔らかい男でコミュニケーションも取りやすく、今みたいに説明するのも上手い奴だ。
さっきのデズモンドの3盗を刺せたのも、普段からああいう場面の話し合いができてたから。
これで打力が高ければ言う事無しだが、それはさすがに高望みしすぎだろう。
それじゃあネクストバッターズサークルに向かうか。
今日は1番エドモンド、2番オレ、3番ピアーズの打順なのだ。
そして相手ピッチャーは、ピアーズからの情報ではラーショナリア王国で弓の名手と言われている2人の男の片方だ。
弓が使えるからってピッチャーができるのか?
ああそうか、弓を引くときの動作ってなんとなく投球のテイクバックの動きに似てるような。
まあ投球練習を実際に見てから判断しよう。
ピッチャーは最初からセットポジションでグラブを胸の前辺りに置いて静止している。
そして左腕をまっすぐ前に突き出して右腕を後ろに引くようなテイクバックから、コンパクトな腕の振りで投げてきた。
パシーン!
小気味良い音がキャッチャーミットから響いてくる。
良い回転で速いボール投げてきたよ。
思ったよりも手強いか……でも一巡すれば慣れて打てるレベルと思う。
さあ、プレイ再開。
前の試合では、相手の守備位置を見てセーフティバントを決めたりと器用なプレーを見せてくれたエドモンド。
今日もやってくれると期待してるよ。
カキィーン!
よっしゃ!
エドモンドが甘く入った3球目をとらえて三遊間を抜いていく!
……と思ったが、相手ショートのデズモンドがもう追いつこうとしている。
逆シングルで打球を捕ると、そのまま送球動作へ移るが、三遊間で一番深いとこだぞ?
エドモンドの足が余裕で1塁ベース……いや、送球がズドンと1塁手へ届いた!
「セーフ!」
送球が速すぎて1塁手が後ろに落としたので助かった。
「ゴメンナサーイ! ちょっと速く投げすぎちゃったよ〜」
デズモンドはちょっととか言ってるけど150キロ超えてたんじゃないか?
これじゃショートがいる場所にはうっかり打てないな……。
ここでオレの打席だが、どうしようか。
まだ球筋を見切れてないし、下手に仕掛けずにボールを見ていこう。
「ボール! カウント2−0」
連続して外角を少し外れたボールだった。
なんかもう、まともに勝負せずに、ストライクゾーンをカスッたり振ってくれれば儲けもん、って感じで半分敬遠というのがミエミエだ。
でもそんな簡単に打席を終わらせるかっての。
ちぃっとでも甘く入ってきたらレフト方向へ引っぱたいてやる。
そして3球目、ピッチャーの顔が完全にオレの顔へ向いた状態で投げてきた。
そして顔面に速球が迫ってくる!
しまった、外にばかり注意がいって踏み込んでるから避けきれない。
こめかみに直撃だ!
うわっ!
当たる直前にフッとボールが消えた。
でもオレはたまらず倒れ込む。
「今ノ投球ハ、非常ニ危険デシタ! 私ノ判断デ、ボールハ消去シマシタ」
審判部長ロボットの声だ。
その方向を見ると、メチャクチャ怒りの表情でこちらに向かってきている。
そしてそのままピッチャーの近くまで行くと非情の宣告を行ったのだ。
「先程ノ投球ハ、故意ニ打者ノ頭部ヲ狙ッタ、危険行為ト認定シマシタ。従ッテ貴方ヲ退場処分トシマス」
当然の判断だ。
前の試合でもビーンボールはあったが、あくまで脅しのレベルだった。
でも今回は完全に狙って投げたのが明らかなのだ。
「どうして故意だってわかるんだよ。おれの心が読めるってのか?」
ピッチャーは悪びれずに開き直った態度で審判部長に言い返す。
腹立つなぁ。
「貴方ハ投球スル時ニ、完全ニバッターノ頭部ヘ視線ヲ向ケテイマシタ。更ニ、ボールハ抜ケ球トハ明ラカニ性質ガ異ナッテイマシタ」
「そんなの状況証拠だけじゃないか」
「私ニハ、ソレデ判断ヲ行ウ権限ガ与エラレテオリマス」
「……そうか、わかったよ。で、どこに退場すりゃいいんだ?」
ゴネていたピッチャーもやっと観念したようだ。
そして次の瞬間にはピッチャーの姿がフッと消えた。
以前の退場処分と全く同じだ。
「なんだ、一体どうなってるんだ? ピッチャーはどこに行った?」
これまで悠然と構えていた相手側ベンチが急に慌てだした。
退場処分は別の異空間へ一人飛ばされてしまうことまでは、やはり知らないようだ。
更に審判部長は相手側ベンチまで赴き、何やら説明をし始めた。
聞こえてくる内容としては、退場者は別空間にいることと、危険行為が度重なれば没収試合を宣告するということだ。
相手側の監督が渋い表情をしているのを見てざまぁと思ったね、オレは。
ここまでの相手側の態度から推測すると、ピッチャーの退場と引き換えにオレを再起不能にするつもりだったようだ。
だけどボールはオレに直接当たらずにノーダメ、ピッチャーは退場で勧告まで受けて、計画は完全に失敗というわけだ。
オレは自分のスキルに初めて感謝した。
もちろん相手の連中はそもそも軍隊であり、試合は戦闘行為の延長と考えれば、この程度のことは『卑怯な行為』ですらないのであろう。
だけどやっぱりお返ししとかないと気が済まないのよオレは。
危険球ではあるが当たってはいないのでボールがカウントされるという、ちょっとわかりにくい独自ルールが適用されてカウント3−0。
ピッチャーはもう一人の弓使いに変わり、同じようなフォームで投げてきた。
オレがビビってると思ったのか、凝りもせず内角高めに投げてきたボールを待ってましたとフルスイング!
打球はライトスタンド上段まで飛んでいき、2ランホームランで先制点だ。
とりあえずスッキリした。
そしてこの調子で相手を叩きのめしてやる!




