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第2話 異世界召喚

 夏の地方予選3回戦の試合に勝利し、チームメートたちと別れて一人で人通りのない道を歩いて家路を急ぐオレだが。


「うわーっ!」


 突然地面に現れた穴の中に落ちてしまったのだ。


 その穴はどこまでも深くて暗く、いつまで落ち続けるのか恐怖だった。


 そしてようやく下から光が見えてきたと思うと、オレ自身も光に包まれて、気づいたら床の上に座っていた。



 どこだここは?


 周りを見回すとゲームやアニメで見たような王宮の部屋のような場所だった。


 オレの正面奥で一段高い椅子に座っているのは、着飾ってはいるがオレより2、3歳くらい年下に見える女の子だ。


 清楚な雰囲気で長い黒髪と優しい目元、そして頭につけた王冠みたいなカチューシャが印象的だ。


 その横には鼻の下と顎に髭を生やしてちょっと偉そうなオッサンが立っていて、オレを見下ろしている。


 あと左右には剣を腰に装備した騎士みたいな連中と魔法使いみたいな恰好した奴らに囲まれていた。


 そしてオレの下の床には魔法陣っぽい図形が書いてあるけど、まさかこれって……。


「おおっ、異世界より勇者の召喚に成功したぞ! 我が国の救世主となるであろう勇者が!」


 オッサンが叫ぶと部屋中にどよめきと歓声が響き渡る。


 つまりオレは、どっかのWeb小説みたいに異世界召喚されたってことなのか?


「勇者さま、その力をもって是非とも我が国の窮地を救って頂きたいのです」


 正面に座っている女の子が突然オレにとんでもないことを頼んできた。


 その力って言われても、どんな力を持っているのか自分でもわかっていないのだ。



 オレが明らかに戸惑っているのを見てか、女の子は自己紹介とこの世界の事を話し始めた。


「すみません、何も説明していませんでしたね。わたしはベスボーラ王国の、王女を務めているセシリアと申します」


「は、はあ」


「この王国は、この世界で最も大きい大陸にあるのですが……かれこれ100年以上、大陸諸国は互いに覇を競い争いを繰り広げているのです」


「そうなんですか」


「そしてこの国は、周囲の国から攻め込まれていて、このままでは滅亡する運命です。そこで、勇者さまのお力でなんとかしてほしいのです」


 そんなこと言われてもなあ。

 驚きのリアクション以外に何も返答できないでいると、オッサンが割り込んで王女に話しかけた。



「お待ちください姫。この者が異世界召喚によって与えられたスキルを、ただいま鑑定しておりますので」


「あ、はい。お願いしますね、大臣」


 あのオッサンは大臣なのか、どうりで偉そうにしているはずだ。



 オレも自分にどんな能力が身についているのかはちょっと気になる。


 でもこんなことはさっさと終わらせて元の世界に帰してもらいたい。


 オレは仲間たちと甲子園に出場したいんだ。



「お待たせいたしました、姫。鑑定結果ですが……『野球』というスキルでございます」


「野球? 何やらよくわからないスキルですね。それはいったいどのようなものですか?」


 野球……だと?

 それはスキルというか、単なるオレの特技じゃねえか。


 もしかしたら、ボールを投げたりバットを振ったり、野球の動作がそのまま凄い攻撃魔法みたいになるってことかな。



「野球というのは、どうやらこの召喚された男が元居た世界で流行っている球遊びのようです」


「……つまり蹴鞠のようなものだということですか?」


「左様でございます、姫。そしてこのスキルは、その球遊びがこの世界でも出来るというだけのスキルのようです」



 それってオレが勇者として役立たずということじゃないのか?

 いや、役に立たないならすぐに帰してもらえるよな。


 だけど大臣のオッサンが姫の耳元でささやき始めて不穏な雰囲気だ。



「姫、率直に申し上げて今回の召喚はハズレでございます。いっそのこと、この場でコヤツを葬りましょう」


 おい、オレに丸聞こえで全然ひそひそ話になってねーぞ!

 いや聞こえなきゃいいって話じゃねーけどさ!



「いくらなんでもそれは! わたしたちの都合で呼び出したのですよ」


「次の異世界召喚をするためには、先に召喚された勇者の死亡が条件です。我々にはあまり時間の余裕がありませぬのでこの場でご決断を」


 そんなアホな!

 さすがにこのまま黙ってられんぞ!


「黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって! オレを元の世界に帰しやがれ!」


「貴様ァ、姫に向かって何たる無礼な物言いか!」


 王女の脇に控えている騎士の男が今にも剣を抜く勢いで身を乗り出してきたが、王女がそれを静止してから大臣に質問する。



「大臣、わたしが勇者さまを呼び出そうと考えた理由は覚えておられますか?」


「……出来得る限り、犠牲者を出さずに戦乱を収めたい、ということでした」


「それならば、『野球』というスキルはそれを実現する能力なのかもしれません。それを確かめてみようではありませんか」


 大臣のオッサンはまだ不満そうだが、さすがに王女を蔑ろにするわけにはいかないだろう。


 でもこの流れだと帰してくれそうにないなぁ。

 王女はオレの顔を見て、一息ついてからゆっくりと話しかけてきた。



「勇者さま、こちらの勝手であることは重々承知しております。ですが、貴方を我が国の大将軍に任命し、現在激戦となっている戦場に赴いていただきたいのです」


「嫌に決まってる! もう帰してくれよ」


「戦場に行けば貴方のスキルが思わぬ力を発揮するかもしれません。それで戦乱を収めることができれば、元の世界に帰れるはずです」


「……口からでまかせ言ってるだけじゃねーのか?」


「実は前例があるのです。300年ほど前に召喚された勇者さまは、魔族との戦いを最小限の犠牲で平和に収めたあと、元の世界に帰ったと伝えられているのです」


「それ、確かなんだろうな」


「実際に元の世界にたどり着いたところは確認しておりませんが……召喚された際と同じように光に包まれて消えていったそうです」


「……」


「どの道、それ以外に帰す方法はわかりません。全てはわたしの責任ですので、もし帰れなければわたしを好きなようにしていただいて構いません」


「姫、このような輩とそんな約束を……」


 大臣が何か言いかけたところで王女はそれを手で遮り、深く頭を下げた。


 もう、オレは戦場に行くより他なくなった。


 それに逃げ出すのも容易じゃないし、帰れるかもしれないという話に一縷の望みを託すしかない。

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