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プロローグ

数ある物語からこの物語を選んでくださりありがとうございます。プロローグから少し長いですが楽しんで頂けたら幸いです。

 どこかのある世界に『魔王』がいた。魔王(おれ)は天下無双の強さと容姿端麗な姿をし頭部に鋭く立派な角を持つ魔族の中で最も強い存在だ。魔王が最も強い理由は魔王だけが持つ『深淵の力』。この力は万物を燃やす黒炎。この炎で燃やされたものは灰も残さず消える。そしてこの力は尽きることの無い無限のエネルギー。その圧倒的な力に全ての魔族は畏怖の念を抱き魔王に忠誠を誓った。

 魔王は魔族共に世界を侵略を開始し次々と国を落とし支配した。

 侵略を開始して十年が経ち世界の半分以上を手に入れた頃、魔王(おれ)の天敵が現れた。

『勇者』である。

 『勇者』は神から与えられた神器である『光の剣』を手に魔族たちを薙ぎ払った。

 勇者は魔王が支配した国々を取り戻した。

 『光の剣』永遠の輝きを持つこの剣は一撃で魔族の軍団を壊滅させる力を持ち魔族たちは為す術はなく倒されていった。

 勇者に勝てるのは魔王しかいない。

 魔王は勇者を魔界と大陸を繋ぐ魔境橋で迎え撃った。

 激しい戦いの末、


 魔王(おれ)は勇者に敗北した。


 魔王が勇者に敗北すれば魔界は落とされたも同然。

 残された魔族たちは巣を失った虫のように世界中に散らばった。

 魔王が敗北して二年後、魔族の中で初代魔王が持っていた深淵の力に目覚める者たちが現れた。深淵の力が覚醒した者は『魔王候補者』と呼ばれる。

 魔王は勇者との戦いの前に魔族たちに予言を残した。

 魔王(おれ)が死んでこの先、魔王の素質を持つ者が深淵の力に目覚める。力に目覚めた者は『魔王候補者』という。

 魔王候補者になった者は魔王と縁のある七つの国に訪れ試練を受けなければならない。

 深淵の力を極めるための試練だ。半端な者が力を酷使すればたちまちに命が尽き黒炎によって灰も残さず消え去るだろう。

 六つの国の試練を乗り越えた者は魔王になる資格がある。もし試練越えた魔王候補者が複数いたなら『魔王選定』を行い勝ち残った者が魔王となる。

 魔王が残した予言を信じて『魔王候補者』となった魔族は魔王と縁のある六つの国を目指して旅に出た。魔法の国「アビス」、伝統の国「ヒノ」、技術の国「テクネス」、学都の国「ラキア」、幻想の国「モーダル」最深の国「ヒルディッヒ」

 六つの国を周ると世界を一巡することからこの旅は『世界巡礼』と呼ばれるようになった。

『魔王候補者』たちは時に競い合い時に助け合い深淵の力を極め試練を乗り越えた。

 そして第二の魔王が誕生した。

 このように魔王は受け継がれてきた。

 第二の魔王は魔界を取り戻し魔族たちは魔界を再建した。

 第三の魔王は『深淵武装』という深淵の力による寿命の消耗を抑えられる術を開発した。

 第四の魔王は世界から戦争を無くした。

 そして此度、第五の魔王の素質を持つ候補者が現れる。

 第四の魔王が王座に就いてたった十年。奴は候補者時代に力を酷使し短命になった。故にもう魔王候補者を見出さないとならないのか。

 ――さて一人目は誰が良いだろうか。





 魔界から遠く離れたある山にある道場の門が二度叩かれる。内側から微かに返答の声が聞こえ 、こちらに向かってくる足音が段々と大きくなり門の扉が開かれる。

「久しいな、ジム」

 開かれた扉から姿を現したのはジムと呼ばれた男。逞しい体に黒いインナーを身に着け上着は袖を結んでいた。見た目は普通の人間だが額の真ん中から緋色の角が生えた魔族だ。

「ハデス!なんでお前がここに…!」

 門を叩いた人物はハデスと呼ばれた男だった。側頭部から上に向かって生えている黒く大きな角。黒いマントで身を包み傍から見れば怪しい姿をしている。

「『魔王』としての役目はどうした?多忙な貴様が魔界を離れられないと思うが?」

 ハデスの正体は魔界を統べる現魔王。魔族のトップであるハデスは魔界の治めるだけでなく人間界との外交もあり個人的な用事で魔王城から離れるのは不可能だ。

「少しだけなら大丈夫だよ」

「ホントに大丈夫なのか…?」

 今頃、魔界では魔王が居なくなって大慌てだろう。

 魔王が仕事をすっぽかしてまでジムに会いに来て一体どんな用件なのだろうか。

「今日来たのは旧友に頼み事があってな」

「魔王様直々の頼みなんて光栄だな」

「そう言ってくれて嬉しいよ。じゃあ早速――」

 ハデスはジムの言葉を聞いて笑顔を見せた後、ハデスの後ろから黒い髪の少年が現れた。青い瞳からは不安や緊張が伝わってくる。そして勿論、角が生えている。角は短く先端が丸い事からまだ幼い。六歳くらいだろう。

「ほら、自己紹介」

「は、初めまして…。インフェルです…。よろしく、お願い、します…」

 ハデスに自己紹介を促されるとその子は緊張しながらもインフェルと名乗ると。インフェルはハデスの息子だ。

 ジムは息子が産まれた事は知っていたがここまで成長しているとは思っていなかった。時間の流れは早い。

 ハデスは自分の息子をここに連れてきたのは頼み事と関わっている。

「ジム、俺の息子をお前の弟子にしてやってくれ」

 ハデスがインフェルをジムに弟子入りさせる理由はただ一つ魔王にするためだ。

 魔王になる必須条件の一つ魔王は魔族の中で最も強い存在である事。そのために魔王選定という魔王候補者同士のバトルロイヤルがある。

 世界巡礼前にインフェルを鍛えて条件を満たすのがハデスの魂胆だろう。

 魔王の血を引くインフェルなら十分な素質があるが。

「引き受けると言いたいが今はまだ駄目だ。俺の道場で修行させるにはインフェルはもっと成長してからだ。それにまだ『深淵』に接続すらされていないだろ」

 インフェルを見るにまだ六歳。いくら魔王の息子であっても今の子どもの体ではジムの修行に付いて行くのは困難だ。それにインフェルの歳では『深淵』の接続はされない。

 『深淵』の接続は早くても十歳に接続される。インフェルは明らかに十歳には見えない。

「そう言うと思ってたよ。インフェル、見せてやれ」

「うん」

 ハデスの指示を聞いてインフェルは両手を前に出す。すると黒い炎が出現する。

「なっ…!」

「これだけじゃない」

 インフェルは目の前に出現した黒い炎は細長くなり槍の形になった。その黒く燃え上がる槍をインフェルは平気で掴む。

「すごいぞー!流石俺の息子だ」

「えへへ…」

 インフェルは黒い炎を燃やすだけでなく生み出した炎で槍を作り出して見せた。ハデスはインフェルを頭を撫でて褒めているがジムは驚いた顔で固まっていた。

「まさか未完成の『深淵武装』まで生成するとは…」

 深淵の力で作り出した武器や鎧を『深淵武装』と言う。

 インフェルが生成した深淵武装は武器の形をした黒い炎であり、未完成の状態だ。消耗が激しいが本来の深淵武装は完全な武器となり消耗がかなり抑えられる。

 深淵武装は未完成だが幼くして深淵に接続し黒い炎を生み出すだけでなくコントロールも安定している。インフェルは天才と呼ぶに相応しいだろう。

「インフェルは俺以上の魔王となる。そのためにはお前の力が必要だ。もう一度言おう。俺の息子をお前の弟子にしてくれ」

 ハデスはもう一度頼んだ。インフェルは天才的な才能を持っている。その才能を磨く役目にジムが選ばれたのだ。

「そうだな。インフェルを弟子にしても良いが本人がどう思っているか知りたい」

 ジムが思うインフェルの印象はひ弱で戦いが苦手そうで臆病な印象を自己紹介を見て思った。そんな子供が修行についていけるとは思えなかった。

「ぼ、ぼくは…魔王になりたい!」

 インフェルはジムに熱意のこもった視線と共にそう言い放った。

「そうか。だが魔王はそう簡単にはなれない」

 魔王になるための条件、それは魔族で最も強い事。いくら才能があるとはいえ魔王になるには厳しい修行が不可欠だ。

「本当に魔王になりたいなら辛く厳しい修行に耐えなくてはならい。それでも魔王になりたいか?」

「――うん!ぼくは魔王になる!」

「分かった。ならインフェル、お前を弟子にしてやる」

「本当!?」

「但し条件がある」

 インフェルの喜びは一瞬で消え去りジムの出す条件を聞く。

「その条件は…?」

「単純だ。俺と戦って勝てばいい」

「そんなの無理だ!」

「話は最後まで聞け。話を聞く事は弟子として必須のスキルだぞ」

「…はい」

 出された条件はジムと戦い勝つ事だ。この条件を聞いたインフェルは反発する。内容は単純ではあるが子供のインフェルが日々、修練を続けているジムに勝てる訳が無い。

 ジムとインフェルが真っ向勝負をすればジムが勝つのは必然。インフェルの勝ち目は無い。

「俺に攻撃を一度でも当てられたらインフェルの勝ちだ。俺の弟子ならこのくらいの実力がなければならない」

 このハンデならインフェルでも勝利する事ができるが相手は魔王と同等の力を持つ。一撃を与える事ですら難しい相手だ。

 負ければ魔王になる目標は遠ざかる。最悪の場合、魔王になれないかもしれない。インフェルの中に不安が募る。そんなインフェルに後ろから声がかけられる。

「インフェル」

「と、父さん…」

 振り返るとその声はハデスであった。ハデスは屈んでインフェルと目線を合わせる。

「大丈夫だ。お前なら勝てる。自信を持て」

「けど父さん…。もし負けたら…」

 ハデスは励ましの言葉をかけるがインフェルの不安は拭えない。

 この勝負でインフェルの人生が決まる。負けられない戦いだ。少しの励ましではインフェルの緊張と不安はなくならない。

「インフェル。負けた時の事なんて考えるな。そんなんじゃ勝てる勝負でも勝てないぞ」

 インフェルは負けてしまった時の事を考えてしまいそれが不安と緊張に繋がっている。インフェルにはジムに勝てる力がある。その力を発揮できず負ければ後悔してしまうだろう。

「お前は覚えていないかもしれないがお前は立ち会いで父さん追い詰めた事があるんだぞ」

「そうなの!」

 インフェルは驚きの声を上げる。あの魔王であるハデスをインフェルが追い詰めるなんて事はあり得ない。子供であるインフェルにそれ程の力はない。恐らくインフェルを鼓舞するための嘘だろうとジムは考えた。

「魔王を追い詰めるくらいの力があるんだ。魔王でもないジムにインフェルが負ける訳ないだろ」

「おい…」

 今の発言はジムの気に障ったようだ。

「魔王になるんだろ。なら弱気になるな。魔王は常に堂々としてるもんだ」

「うん!」

 インフェルの返事を聞いてハデスはニッと笑顔を見せた。インフェルもハデスに笑顔を見せる。さっきまでの緊張と不安は消え去った。

 インフェルはジムの方に改めて向き直る。

「…分かった。一度でも当てれば良いんだね」

 インフェルは戦闘態勢に入る。未完成の深淵武装で槍を生成し腰を低くし構えた。目線は真っ直ぐジムに向いている。

「そうこなくてはな。ハデス、合図を頼む」

「おう!任せろ」

 ジムはハデスに開始の合図を任せ戦闘態勢に入る。腰を低くして両腕に深淵武装でガントレットを生成し拳を握る。二人とも戦闘準備は整った。後はハデスの合図で始めるだけだ。

 静かな時間が流れる。お互いに目を離さずに真っ直ぐ相手の目を見ている。

「始め!」

「――ッ!」

 ハデスの合図と同時にインフェルはジムに向かって飛び出し、槍を突き出す。始まった瞬間の不意を突き速攻で決着を付ける作戦だ。しかしジムはその作戦を読んでいた。

 ジムは突き出された槍を躱しインフェルの腹部に拳を入れ吹っ飛ばすとインフェルは山の奥へ消えていった。

「容赦ないねぇ。まだ子供なのに」

「相手は本気で来てるのにこちらが手を抜くのはおかしいだろ」

 ジムは本気で挑んで来る者には本気で応える。それがジムの心得だ。相手が子供だろうが魔王の息子だろうが本気で来るなら手を抜かない。

 ハデスと話していると黒い炎の玉が山の奥からジムに向かって飛んできた。

「俺の息子からのお誘いだぜ。ジム」

「言われなくても乗るさ」

 インフェルは黒い炎を飛ばし山中に誘い込んでるようだ。山中は木が生い茂り視界が悪く、身を隠す場所も多い。インフェルは不意打ちが狙っているのだろう。インフェルの狙いは見破っているがジムはその誘いに乗り山中に入っていった。

 足場の悪い山中を進んで行くジム。聞こえてくるのは風でなびく葉の音と鳥のさえずり。ジムは五感を研ぎ澄まし僅かな情報も逃さない。

 インフェルの場所を探していると頭上から黒い炎の槍と一緒にインフェルが落ちてくる。

 インフェルは勝利を確信して笑みが漏れる。槍がジムの頭頂部に当たる寸前で片手で掴まれた。

「なっ!」

 インフェルは直ぐ様距離を取り新たに深淵武装で槍を生成し構える。

「惜しかったな。木の上に隠れて頭上からの攻撃。なかなかやるようだな」

 視界の悪い森の中で相手の位置を探る時は周囲と音から情報を得るために目と耳が研ぎ澄まされるが視界が狭まり頭上に視線が行かない。本来なら成功率の高い不意打ちであったがジムには効かなかった。

「クッ…」

 ジムには不意打ちが効かない。なら正面から戦っても勝ち目が無い。一旦、退いてもう一度不意打ちを狙うか。しかしそれだとまた同じように防がれるか躱される可能性が高い。

 インフェルは考えを巡らせるが作戦が思いつかない。

「来ないのか?ならこっちから行くぞ!」

「―ッ!」

 考えを巡らせ動かなくなっていたインフェルにジムが目にも止まらぬ速さで近づき殴りかかる。インフェルは槍でなんとか防いだが衝撃で吹っ飛ばされる。その勢いで背中から木に衝突した。

 インフェルは痛みを我慢しジムに立ち向かおうとしたが目の前にはジムの掌がありそこから黒い炎が放出された。

 黒い炎は木々を焼き消し地面を抉り取った。ジムの目の前は木々が消え失せ抉られた地面に立つインフェルの姿があった。

「あの攻撃をに真面に食らって耐えるとはな」

 インフェルは息を切らしながらも立っている。痛みを耐えてまだジムに挑もうとする気迫が感じられる。

「ハァ…ハァ…ハアァ!」

 インフェルは槍を生成しジムに攻撃するが躱される。

「ハァ…アァ!…」

 何度も槍を振り回すが当たらない。今のインフェルの状態では槍を思い切り振るえず、遅く弱い攻撃になっていた。

 インフェルは最後の力を振り絞って突きをジムに繰り出すだすが躱される。最後の攻撃が躱され、そのままインフェルは地面に倒れ込んだ。

 ジムは倒れ込んだインフェルを蹴って仰向けにさせ屈んだ。

「どうやらお前の負けのようだ。だがお前にはセンスがある。強くなって出直して来い」

 そう言い残しジムはインフェルの視界から居なくなった。

「まだ…負け…て…ない…」

「ん?」

 微かな声が聞こえジムは振り向いた。インフェルの闘志はまだ燃えている。

 インフェルは深淵武装の槍で体を支えゆっくりと立ち上がった。体は既にボロボロになっている。立つだけでも精一杯の筈だ。

「まだ…戦える」

「その体で戦えるのか?今のお前はろくに動けないだろ」

 インフェルは重傷を負い歩く事でさえ難しい。それでもインフェルはジムに立ち向かう。

「うる…さい!ぼくは…――ッ!」

 インフェルはジムの言葉を押し退けて自分の意志を伝えようとすると急に俯いて黙り込んだ。まるでインフェルの魂が抜き取られたかのようだ。

「どうした?気でも失ったか」

 インフェルの様子が急変しジムは気を失ったと思い近づいた。するとインフェルの居た場所から黒い炎の柱が天高く燃え上がった。

「な、なんだ!?」

 ジムは目の前で燃え上がる黒い炎の熱気を腕で目の前を覆い防ぐが黒い炎の勢いは凄まじく徐々に押されていく。

 黒い炎の中でインフェルの姿が見える。インフェルは炎の中で少しずつ姿が変化している。短く丸かった角が前方に伸びて鋭くなり髪色が黒から白に染まっていく。目は光のない黒い瞳へ変わった。

 インフェルはジムを冷たい視線で見ながら右手を横に突き出だすと黒い槍が生成された。深淵武装だ。さっきまでと違い完全に武器を生成している。

 ジムはインフェルの変貌に驚愕している。

「イ、インフェルなのか…」

 返答はない。冷たい視線だけが向けられる。

「取り敢えずハデスにこの事を――ッ!」

 ジムはインフェルに顔面を掴まれる。次の瞬間、地面に叩きつけられた。

 インフェルはジムを叩きつけると右手に持つ黒い槍で突き刺そうとしたがジムの蹴りを胴体に受け離される。

「逃がしてはくれないみたいだな」

 ジムは立ち上がりハデスの所に行けない事を察する。今のインフェルに背中を見せれば串刺しになるのは目に見えてわかる。インフェルと戦うしか選択肢が無い。しかしさっきまでのインフェルと違い、計り知れない力と殺意を持っている。

「そっちがその気なら俺も本気で()らせてもらう」

 ジムは殺意に籠もった微笑を見せる。本気で来る者には本気で応える。殺意には殺意で返す。それがジムの心得だ。

 ジムは右手を上げ空に向け自分よりも遥かに大きな剣を深淵武装で生成する。見るからに重い剣を片手で軽々と持っている。

 本気のジムを見ても相変わらずインフェルの反応はなく代わりに全速力でこちらに向かっている。

 向かって来るインフェルにジムは剣を薙ぐ。剣から黒い炎の刃が放たれる。放たれた刃はインフェルに直撃すると時間差で爆発した。

 爆発の衝撃で辺りは黒い炎が燃え瓦礫だらけになり黒い煙が舞い上がる。これ程の爆発を間近で受けたなら致命傷は免れない。しかしインフェルは瓦礫から現した姿はかすり傷程度の傷だけしかなかった。

 インフェルが瓦礫から出てくるなり巨大な剣が振り下ろされ大きなクレーターができた。

 ジムは手応えを感じたがそれは勘違いと直ぐに分かった。

「マジかっ!?」

 剣はインフェルを両断できずに片手で受け止められていた。

 ジムは剣を手放し後ろに飛び跳ね新たに深淵武装で弓矢を生成して空中で十本の矢を放つ。放たれた矢はインフェルを目掛けて飛んでくるが槍で弾かれてしまった。

 矢を弾いた後にインフェルは距離を詰めて槍で攻撃を仕掛ける。ジムは弓を捨て腕に深淵武装のガントレットを生成して対応する。

 槍と拳がぶつかり合う攻防が始まった。インフェルは平然として攻めているがジムは表情から焦りが感じ取れ防ぐので手一杯だ。高速で繰り出される槍さばきは隙が無く反撃ができない。

 隙が無いのなら作るしかない。ジムはインフェルが突きを出すタイミングを合わせ槍を掴んだ。これによりインフェルの攻撃が一時的に止まる。

「ぐはっ!」

 インフェルの攻撃は止まらない。ジムは顔面に拳による攻撃を受けた。

 インフェルは自身の槍を掴まれると手を離し素手へと攻撃を切り替えた。顔面への攻撃の次に腹部に蹴りを入れられジムはクレーターの端まで飛ばされた。子供とは思えない攻撃力。インフェルから溢れ出る深淵の力が影響しているのであろう。

 ジムは地面に座り込みインフェルの方を見るとインフェルはこちらに掌を向けている。その掌には深淵の力が集中していた。あの掌から放たれる黒い炎の威力は計り知れない。

「…はは。…まさか弟子入り前の…実力確認で…殺されるとは…。情けないな…」

 あまりの情けなさででジムは血を吐きながらも微笑した。

 目の前には魔王の息子であるインフェルが今にでも溜め込んだ深淵の力を放ってきそうだ。

「魔王の息子に殺されるのは案外…良い死に方かもな」

 ジムは死の覚悟が決まったようだ。

 そしてインフェルの掌から黒い炎が放出された。放出された炎は光線になってジムの頭上を越えて向こうにある山を貫通し綺麗な円の巨大な穴ができた。

 光線が消えてインフェルを見ると光線が放たれた反対の手で角度を変えている姿があった。恐らく光線を放つ瞬間に意識が戻ったのだろう。意識が戻ったのが分かるとインフェルの姿が徐々に最初と同じ姿へと戻り気絶して地に伏せた。

「お疲れー。どうだった?」

 ハデスが空から勢いよく降りてくる。

「どうだったじゃない。貴様ずっと見てただろ」

「おっと、バレてたか」

「そんな事よりもインフェルのあの力はなんだ?」

 インフェルが変化したあの姿と力について親のハデスなら何か知っている筈だ。

「そうだなー。これは悪魔で俺の推測だがあの姿のインフェルはあれだけ深淵の力を盛大に放っても影響がないようだ」

 魔族の歴史の中で深淵の力を代償なしで使える存在は一人しかいない。

「インフェルは初代魔王の生まれ変わりだと俺は考えている」

 ハデスはインフェルとジムの戦いを見てそう推理した。

 インフェルは子供の体でありながら初代魔王に並ぶ力を有していた。初代魔王の生まれ変わりでも不思議ではない。

「信じられない…だがそれ以外考えられないな」

 ジムはハデスの推理に納得する。あれほどの深淵の力を目の当たりにすれば誰でもそうとしか思えない 。

「しかしインフェルはあの力を制御できずに暴走状態になるってしまう。そこでジム」

「おい、お前」

 ジムは嫌な予感を察知した。そしてその予感は的中してしまう。

「インフェルがあの力を制御できるようにしろ」

「コイツ…しかも命令かよ」

 あの力を制御するためには十中八九また暴走状態のインフェルと相手する事になるだろう。今回は生き残れたが次は殺される可能性がある。

「制御するといっても制御できる前に俺が死んでは元も子もないだろ」

「そこは問題無い。お前は死なないから」

「いや、死ぬが」

 ジムは魔王候補者であった時に何度も死に直面してきたが生き残った。それを見込んでジムに命令したのだ。

「大丈夫大丈夫。そう心配するな。そろそろ時間だし行くわ」

「おい待て!」

 ジムはハデスを引き止めようとすると丸い穴がハデスの前に出現する。そしてその穴から執事服を着た老爺が出てきた。

 あの穴はワープゲート。一瞬で遠くの場所に行く事ができる魔法だ。

 ワープゲートは距離によって消費する魔力量が異なり遠くの距離になればなるほど消費する魔力は多くなる。

「ハデス様。奥様がお怒りになられております。今すぐお戻りに」

「分かってる。そんじゃインフェルを頼んだよ」

 ハデスは最後に一言、言い残しジムにインフェルを託して早々にワープゲートへ入った。

 ワープゲートを開けたであろう執事はジムに一礼しゲートに入るとゲートは閉じた。

 因みにここから魔界は馬車を使っても一ヶ月は掛かる距離である。

 この場にはジムとインフェルが取り残された。

「ハァ…どうしたものか。それにしてもハデスの奴、変わったな」

 ハデスと再会してからずっと思っていた事を口に出す。

 ハデスが魔王候補者だった頃はあんなに接しやすい奴ではなかった。常に無表情で感情の無い、無愛想な奴だった。

 ハデスが変わったのは恐らくあの女のおかげだろう。


 目を開けると青空が広がっていた。その青空を背景にジムが視界に入ってくる。

「気がついたか?」

「うわぁ!びっくりした」

 インフェルは直ちに上体を起すと全身に痛みが走り呻き声を出す。ジムとの戦いで負った傷による痛みだろう。

「大丈夫か?」

「うん。それよりも、あの、あんまり覚えてないんだけど、勝負はどうなったの?」

 インフェルはあの戦いが記憶に無い様子だ。

「あー。勝負は一応はお前の勝ちだ」

「本当!」

 インフェルは驚きと嬉しさの二つが表情から分かる。

 あの勝負でジムはインフェルから一撃以上受けているしなんなら殺されかけた。記憶が無いにしてもこの勝負はインフェルの勝ちである。

「そういう訳で今日から俺はお前の師匠でお前は弟子だ。よろしくな。インフェル」

 ジムはインフェルに手を差し出した。

「よろしく!師匠!」

 インフェルはその手を取るとそのまま引っ張られ立ち上がった。

「師匠には敬語使え」

「は、はい。分かりました。師匠」

 この日からインフェルはジムの下で十年間の厳しい修行を耐え抜いた。そして修行を終えたインフェルは魔王候補者として世界巡礼の旅に出る。


最後まで読んでくださりありがとうございます。できれば感想などを頂けるとありがたいです。

次回も楽しんでもらえるように励みたいと思います

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