後編
それから、雪が積もって、聖夜祭を迎えて、年明けを迎えても、ピピは戻ってこなかった。
お母さんはずっとお祈りしていた。
ロウにいちゃんは、村の外で魔物を倒していた。
私は雪遊びもそこそこに、暇さえあれば空を見上げていた。
雪が解けて、春が来た。
まだ寒くて、私はベッドの中で丸まっていたけど、窓をつつく音に慌てて飛び起きた。
窓を開けると、冷たい風と一緒にピピが入ってきた。
手紙と一緒に、怖い感じのお城の絵も入っていた。
[拝啓、マノン。
私たちはようやく、魔王を倒すことができました。
同封している絵に描いてあるのが魔王城です。
風の精霊王の魔力が回復次第、みんなそれぞれ、マノンのお父さんも家族の元に帰ることになりました。
ピピしか風渡り鳥を飛ばせなかったので、マノンのお母さんとロウには、マノンから伝えてください。
あと、ピピはすごく疲れているので、しばらく休ませてあげてください]
手紙を見せたら、お母さんとロウにいちゃんはすごく泣いた。
私はなんだかモヤモヤした。
うちがいつも以上にピカピカになったその日、お父さんが帰ってきた。
モヤモヤが収まらなかった私は、ピピを肩に乗せたまま家を飛び出した。
村を出て、山の中を走り続けた。
気づけば辺りは暗くなっていて、気味悪い鳴き声が聞こえて、右も左も、帰り道もわからなくなった。
木々の隙間から月の光が漏れていたので、私は泣きべそをかきながら、ハンカチに木の実の汁でお手紙(布?)を書いた。
[ダンチョーさん、お父さんなんか大きらい]
まだちょっと元気がなさそうなピピに渡すと、思ったよりも早く戻ってきた。
[拝啓、マノン。
なにがあったのか、教えてもらえませんか?]
お手紙と一緒に、鉛筆と紙が何枚もあったので、私はすぐに返事を書いた。
[はいけい、ダンチョーさん。
お父さんが帰ってきました。
気に入らないです。
お母さんは、お父さんをギュッてしてないています。
すっごく、すっごくうれしそうです。
気に入らないです。
お父さんはわたしと同じ青い目で、右目はほうたいがまいてあります。
左うでがありません。
なんかモヤモヤします]
[拝啓、マノン。
そういえば、旅の話は何度もしましたが、私の家族の話はまだでしたね。
王様から魔王を倒せと言われ、私は妻と生まれたばかりの娘を置いて家を出るしかありませんでした。
小さな体を抱き上げたあの日のことは、今でも昨日のことのように思い出せます。
本当は、旅に出たくなんてなかった。
妻の手料理が食べたかった。
娘の成長を、そばで見守りたかった。
生きて家族の元に帰りたい、その一心で私はがんばってきました。
マノンのお父さんも同じ気持ちのはずです]
[はいけい、ダンチョーさん。
ないてるお母さんはいやです。
お母さんをかなしませるお父さんなんか、大きらいです。
ずっとうちにいなかったお父さんなんか、大きらいです。
お母さんをこまらせるわたしもいやです。
なんかぐちゃぐちゃです]
[拝啓、マノン。
これだけは信じてあげてください。
なにがあってもマノンのお父さんは、マノンのお母さんと、マノンのことが大好きです。
マノンはえらい子なので、本当はどうすればいいのかわかりますよね?]
[はいけい、ダンチョーさん。
でも、帰り道がわかりません。どうしよう?]
[拝啓、マノン。
ピピから離れないでください。
マノンのお父さんが、きっと見つけてくれます]
「マノンーー!! どこだーー!?」
ピピをしばらくギュッてしていると、お父さんの声が聞こえてきた。
私は腕のすそで目をこすると、息を大きく吸い込んだ。
「お父ーーさーーーん!!!」
[はいけい、ダンチョーさん。
ピピがヘトヘトになっちゃったので、お手紙がおそくなりました。
ダンチョーさんは、家ぞくに会えましたか?
むすめさんにはきらわれてないですか?
お父さんは力もちで、右うでだけでわたしをだき上げちゃいました。
お父さんはいわゆる、どう顔というやつだそうです。
あのあと、三人でごはんを食べて、一緒のベッドで寝ました。
もうちょっと大きくなったらお父さんが、ダンチョーさんといっしょに行ったところに連れて行ってくれるそうです。
今日は、お父さんといっしょに王とのパレードを見に行きました。
人がいっぱいで、紙切れや花びらがいっぱいふっています。
ま王をたおしたと、お父さんのなか間たちがほめられていました。
そういえば、帰りにへんな子に会いました。
赤いかみの男の子で、「やっと見つけた! おれのものになれ!」って言われました。
お父さんがわたしをだっこしたまま走って、それっきりです。
前にもこんなことがあったような?]
[拝啓、マノン。
こちらも最初は大変でしたが、娘と仲良くなれました。
お父さんとパレードに行けてよかったですね。
変な男の子のことは忘れなさい]