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中編

 気づけば、ダンチョーさんと文通を始めてから一年が過ぎた。

 ダンチョーさんは手紙を通して、私に外の世界を教えてくれた。

 砂ばかりの暑いところ、火を噴く山、大きなドラゴン。

 魔物がうろつくせいで、村からあまり出たことがない私にとって、ダンチョーさんの話はどれもこれも新鮮でおもしろかった。

 お返しに私は、今日はいい天気だとか、お手伝いをしたとか、虫歯になったとか、いろんなことを書いた。


  その日は嫌なことがあったので、むしゃくしゃした気持ちのままお手紙を書いた。


 [はいけい、ダンチョーさん。

  きょう、ロウにいちゃんが王とのおまつりにつれてってくれました。

  とってもきれいで、おいしそうなものがいっぱいあって、クレープはおいしかったです。

  そこまではよかったんです。

  おかあさんへのおみやげに、マカロンをかうためにならんでいると、へんな子にあいました。

  赤いかみの男の子で、「おい、ブス! おまえ、おれのめかけになれ!」って言われました。

  ほかにもなにか言っていましたが、ロウにいちゃんがわたしをだっこしてはしって、そのままかえっちゃいました。 

  マカロンかえませんでした。

  あいつぜったいゆるしません]


 [拝啓、マノン。

  マノンが無事でよかったです。

  王都にはもう行かないほうがいいです。

  きっと、ロウがあとで買ってきてくれます。

  せめて、市場で買ったサクラという花の絵と、飴の魚を贈ります。

  金魚という魚だそうです。

  あと、マノンはブスじゃありません。

  お母さん譲りの緑の髪も、空のような青い目もとってもすてきです。

  見る目がないやつのことなんか、さっさと忘れるべきです]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  サクラもあめのおさかなもありがとうございます。

  とってもきれいであまいです。

  ダンチョーさんの言うとおり、ロウにいちゃんがマカロンをかってきてくれました。

  マカロンもおいしかったです。

  ところで、なんでわたしのかみと目のいろをしっているんですか?

  あと、めかけってなんですか?]


 [拝啓、マノン。

  もう覚えていないでしょうが、一度私たちは会ったことがあります。

  めかけについては知らなくていいです。

  今後、そんなことを言ってくるやつがいたら、ロウに言いつけて、二度と近寄らないようにしてください]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  よくわかんないけど、そうします。

  おうとにもういけないのはざんねんですが、ダンチョーさんのお手がみと、えがあるからまあいいです。

  きょうは、おかあさんのたんじょう日です。

  がんばってかみでどんぐりをおったのに、おかあさんはおとうさんがおくってきた、ねりこう水のほうがうれしそうです。

  つまんないです。

  ねりこう水はいいにおいがします。

  つまんないです]


 [拝啓、マノン。

  マノンは本当にお母さんが大好きなんですね。

  私も家族に会いたくなりました。

  早く帰りたいです。

  そろそろ次の目的地に向かおうと思います。

  場所は、風の精霊王が住んでいる神殿です。

  神殿がある山の近くでは、風の精霊は言うことを聞いてくれなくなるので、しばらく手紙はお休みになるでしょう。

  しかし、契約できれば手紙が早く届くようになります。

  がんばります]

 

 [はいけい、ダンチョーさん。

  おかあさんがダンチョーさんに、おまもりをつくってくれました。

  そめものにつかう草は、わたしがとってきました。

  がんばってください。おうえんしています]

 

 [拝啓、マノン。

  お守りも応援もありがとうございます。

  なんどか飛ばされそうになりましたが、無事に風の精霊王と契約できました。

  マノンみたいな緑の髪に、人と鳥を合わせたような姿でした。

  残念ながら、神殿はたどり着いた人だけが見ていいそうで、絵に描いてはいけないそうです。

  あと、仲間の絵の腕では、美しい自分を描く資格はないとも言っていました。

  それはそうと、誕生日おめでとうございます。

  きっと、初めて手紙のやり取りをしたあのころよりも、すてきな女の子になっているのでしょうね。

  そんなマノンには、この指輪をプレゼントします。

  きっと、マノンを守ってくれるでしょう]

 

 [はいけい、ダンチョーさん。

  みどりできれいなゆびわ、ありがとうございます。

  ちょっとぶかぶかだったのに、はめるとぴったしになりました。

  ピピもなんだかきれいになってました。

  あと、お父さんからは小さいはこがとどきました。

  お母さんがあけると、家の中が水たまりになって、しらないお魚がたくさんおよいでいました。

  あれが、ダンチョーさんが言っていた海なんですね。

  しばらくしたらうみはきえて、ふくはぬれてませんでした。

  はこはただのはこになってました。

  すごく楽しかったのは、お父さんにはないしょです]

 

 [拝啓、マノン。

  大丈夫です。誰にも言っていません。

  その箱は、たまたま神殿に遊びに来ていた水の精霊王に作ってもらったものです。

  土下座して頼んでいました。

  ちなみに、水の精霊王は人魚のような姿です]

 

 [はいけい、ダンチョーさん。

  お手紙を書いたのは二週間前なのに、本当に早くなりましたね。

  水の王さま、見てみたいです。

  今日、お母さんといっしょに肉だんごを作りました。

  おいしくできました]


 [拝啓、マノン。

  風の精霊王のことも忘れないであげてください。

  マノンの肉団子、私も食べたいです

  自分の美しさを知ってほしいそうで、風の精霊王が羽をくれたので同封しておきます]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  きれいな羽から風の王さまが出てきて、「なんでワレじゃなくて水のなんだ!?」とおこられました。

  分しん体だそうで、小さくてかわいかったです。

  はちみつをなめたら、きげんが直りました。

  わたしは見こみがあるそうで、お母さんにもきょかをもらって、自えいのためのまほうを教えてくれました]


 [拝啓、マノン。

  それはよかったですね。

  でも、魔法は時に人を傷つけます。

  使い方には気をつけてください。

  水の精霊王が住んでいる神殿は、海の底にあるそうです。

  大まかなヒントは教えてもらえたので、船でそこへ向かっています。

  今日の晩ごはんはカニでした。

  おいしかったので、凍らせてロウに送りました。

  風の精霊王さまさまです]

 

 [はいけい、ダンチョーさん。

  カニ、すっごくおいしかったです。

  おかえしに、お母さんとクッキーをやきました。

  みんなと食べてください。

  お父さんはべつにいいです]


 [拝啓、マノン。

  クッキーありがとうございます。

  船が揺れて大変でしたが、無事に水の精霊王と契約できました。

  海の中に入ったのに、溺れることも濡れることもなく神殿に到着するなんて、とても不思議な体験でした。

  神殿を探して、試練に打ち勝つまでにかかった日程は、今までの精霊王の中でも一番早かったです。

  下から覗く海も幻想的で、そっちは絵に描く許可がもらえたので同封します。 

  叶うことなら、家族ともう一度見に行ってみたいです。

  ちなみに、ヒラヒラな魚はセイレイオウノツカイというそうです]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  セイレイオウノツカイ、すっごくきれいですね。

  でも、お母さんがなんか元気ないです。

  聞いてみても、わらうだけでなにも教えてくれません。

  なんでですか? お父さんのせいですか?]


 [拝啓、マノン。

  私たちはいよいよ魔王城を目指します。

  マノンのお母さんは、勇者でも聖女でもない私たちが魔王を倒せるのか、不安なのでしょう。

  ですが、私たちには土、火、風、水の四大精霊王がついているので大丈夫です。

 だからマノンは、これまでどおりに手紙を書いてください。

  マノンの手紙は、私に勇気と力をくれますから]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  今日はテストでいい点をとって、先生にほめられました。

  ダンチョーさんにも見せてあげますね。

  ばんごはんはポトフでした。

  アツアツで、ソーセージはパリッてしていて、おいしかったです。

  もうすぐ冬です]


 [拝啓、マノン。 

  今、私たちはとても寒い国にいます。

  どれだけ寒いかというと、濡らした布を振り回していると、あっという間に凍ってしまいます。

  風の精霊王が冷たい風を防いでくれ、火の精霊王が体を温めてくれるので、へっちゃらです。

  満天の星が輝く夜空には、光がカーテンのように揺らめいてきれいでしたので、その時の絵を同封します。

  大変ですが、世界は美しいですね]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  今日、わたしはロウにいちゃんが本にまとめてくれた、今までダンチョーさんがおくってくれた絵を見ています。

  どれもきれいで、いつか本ものを見に行くのがわたしのゆめです。

  でも、そのゆめがかなわなくてもいいので、ダンチョーさんたちはかならず生きて帰ってきてくださいね。

  かぜをひかないように、体に気をつけてください]

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