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前編

 私にとっての家族とは、一緒に暮らしているお母さんとロウにいちゃんの二人だ。

 ロウにいちゃんはお父さんの部下で、私とお母さんの護衛らしい。

 お父さんのことは、傭兵団で働いていることと、うちをずっと留守にしていることしか知らないし、どうでもいい。


 時々、うちに緑色の鳥がやって来る。

 風渡り鳥という風の精霊の一種で、お手紙を届けてくれるらしい。

 ロウにいちゃんはいつも、同じ傭兵団にいるダンチョーさんという人と文通している。

 

 文字が書けるようになって、私はダンチョーさんにお手紙を書いてみた。

 

 [はいけい、ダンチョーさん。

  うちのおとうさんに、「にどとかえってくんな、バーカ」とつたえておいてください]


 ロウにいちゃんがお風呂に入っている隙に、風渡り鳥にお手紙を渡した。

 休んで元気になっていた風渡り鳥は、あっという間に飛んで行った。

 あとでそのことを話すと、ロウにいちゃんの顔が真っ青になっていて、お母さんは困った顔をしていた。

 

 それからしばらく経ったある日、風渡り鳥がもう一匹つれて戻ってきた。

 かわいいリボンがついたその風渡り鳥は、持っていたお手紙を私にくれた。


 [拝啓、マノン。

  お手紙ありがとうございます。

  その子は私からのプレゼントです。

  マノンさえよければ、私の文通友達になってくれませんか?]


 風渡り鳥は指にとまってもぜんぜん重くなくて、私は大はしゃぎで家の周りを走った。

 


 [はいけい、ダンチョーさん。

  このこのなまえは、ピピにしました。

  ありがとうございます。だいじにします]


 [拝啓、マノン。

  気に入っていただけて、よかったです。

  ところで、マノンはどうして最初にあんな手紙を書いたのですか?

  お父さんのことが嫌いなのですか?]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  おとうさんのことをはなすとき、おかあさんはなんだかかなしそうです。

  ときどき、おかあさんはあんなかおをしています。

  なので、きんじょのおばさんがだんなさんにいっていたのをマネしてみました。

  おとうさんなんかしりません。しょあくのこんげんです。

  もうおてがみに、あいつのことをかかないでください]


 [拝啓、マノン。

  申し訳ございません。

  でしたら、好きなものを教えていただけますか?

  マノンのことが知りたいのです。

  私が好きなのは、肉や仕事の仲間たち、そしてなにより、家で帰りを待っている家族です]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  わたしもおにくがすきです。

  とくに、おかあさんがつくってくれる、にくだんごがだいすきです。

  おかしもすきです。

  おかあさんや、ロウにいちゃんもだいすきです。

  おおきくなったら、ロウにいちゃんのおよめさんになりたいです。

  おとうさんはどうでもいいです。

  ダンチョーさんのかぞくのことをおしえてください]


 [拝啓、マノン。

  私には愛する妻と娘がいます。

  今すぐにでも家族に会いたいのですが、私には魔王を倒すという大事な仕事があります。

  早く終わらせて帰りたいです]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  それって、ゆうしゃさまとせいじょさまのおしごとですよね?

  ダンチョーさんはゆうしゃさまなんですか?]


 [拝啓、マノン。

  私は勇者ではありません。

  残念ながら、勇者と聖女はお星さまになってしまいましたので、代わりに私たちが行かないといけないのです。

  早く帰りたいです]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  たいへんなんですね。

  はやくかえれるといいですね。 

  おうえんしています。

  おとうさんはどうでもいいです]

 

 [拝啓、マノン。

  こちらはいい天気です。

  きれいな花が咲いていたので、押し花にして贈ります。

  気に入ってもらえると、うれしいです]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  おはな、ありがとうございます。

  おかあさんもよろこんでました。

  おかえしに、おにわでさいていたおはなのえをかきました。

  おかあさんもロウにいちゃんも、じょうずだってほめてくれました。

  おとうさんがおかしをおくってきました。

  おいしかったのはないしょです。

  ぜったいにいわないでください]


 [拝啓、マノン。

  大丈夫です。私とマノンだけの秘密です。

  私たちは今、船で海を渡っています。

  海とは、大きくてしょっぱい水たまりです。

  マノンがいる村よりもずっと大きくて、見渡す限り、水、水、水です。

  海には、いろんな魚がいます。

  マノンの家すら飲み込んでしまうようなやつもいます。

  同封している絵は、その時の光景を仲間に描いてもらったものです]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  そとには、みたことがないいきものがいっぱいいるんですね。

  わたしもいつか、うみにいってみたいです。

  きょうは、ロウにいちゃんのたんじょうびなので、はなかんむりをつくってあげました。

  すっごくよろこんでくれました]


 [拝啓、マノン。

  実は、もうすぐ私の誕生日なんです。

  私にも花冠をいただけませんでしょうか?]


 [はいけい、ダンチョーさん。

  そういえば、おとうさんのたんじょうびももうすぐなんです。

  すごいぐうぜんですね。どうでもいいです。

  そっちにつくころにはかれちゃうので、かわりにかみでおはなをおりました。

  おたんじょうび、おめでとうございます]

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