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花の鬼、獲物を狩る

 アラケーヌの北門を出るとそこには広大な農地がある。穀物や様々な野菜を育てていて、町の住民の三割ほどはそういった農作業に従事する人々であった。


 そんな農地の近くには多種多様な生き物が生息する豊かな森があり、町もその恩恵を受けてはいたが、時折森から迷い出てきた魔物が畑を荒らす事があり場合によってはその被害が農夫にまで及ぶ事もあった。


 町を治める貴族が対策として兵士を巡回させたり冒険者ギルドに依頼を出して森に住み着く危険な魔物を退治させたりしていたが、それでも魔物による被害が無くなる事はなく町の住民を悩ませていた。


 そんな中、猛毒を持つレッドスコーピオンの存在が確認された。これまで以上に危険な魔物が現れた事で森の近くで働く農夫の安全を考慮して、三割ほどの農地を一時的に放置せざる負えなくなり、町の兵士は警護の為に農地に配置され、アラケーヌの冒険者ギルドには森を探索してレッドスコーピオンを退治するように依頼が出された。


「中型魔物に分類されるレッドスコーピオンを広い森の中から探すのは骨が折れるな。ツバキ殿、どうやって探す? 手分けするか?」

「いや、森の中なら広範囲を探せる感知方法があるんだ。それで探すよ」

「ほほぅ、そんな方法が」

「うん、でも探してる最中は無防備になるからその間はレンゲに守って欲しいんだ」

「心得た!」


 ツバキは近くの木に額の角を当て、静かに意識を集中させた。


 角を介して意識を木と同調させ、さらに森の木々へと拡げていく。

 森の木々が構築する情報網を通じて様々なイメージがツバキの頭の中に流れ込んでくる。


「小動物……仲間の木……人間……魔物……」

 小声で呟きながら膨大な情報を精査して目当てのレッドスコーピオンの姿を探す。


「魔物……魔物……黒……黒……白……赤」


 広範囲に拡張させた意識の中で目当てのレッドスコーピオンを見つけそれまで四方に拡げていた意識を身体に戻し、レンゲを連れて目的地へと向かう。


「便利な術だなぁ……正直、獲物を探すのにもっと手間取ると思っていたのに。昼までに終わっちゃうかな」

「う~ん、どうかな?」

「ツバキ殿?」


 迷い無く進むツバキが少し悩む様子で答えた。

「実は、さっき感知したらレッドスコーピオンが思ったより繁殖していて結構な数がいたんだよね。大型が一、中型が五、小型がたくさんって感じ」

「ほうほう。そうなると群れが散らないように一工夫必要だね」

「そうだね。ボスを先に潰すと弱い生き残りが散り散りになりそうだから、ボスは後回しにするとして残りは……」

「心配無用だ、ツバキ殿。私には旅の道中で身に付けた『挑発』という魔物を惹き付ける技がある。コイツを使えば短時間だがレッドスコーピオンを怒らせて好戦的に出来る」

「じゃあ小型のレッドスコーピオンは『挑発』が効いてるうちに素早く片付けて、中型の相手はその後って感じかな」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 レッドスコーピオンの群れを発見した二人は予定通りにレンゲの『挑発』によってレッドスコーピオンの群れを惹き付け、真っ先に襲ってきた小型をものの数秒で片付け、中型に狙いを定めた。


「ふぅ……イヌノフグリ流『乱れ裂き』」

 レンゲの放った斬撃が幾重にも分かれ二体のレッドスコーピオンの硬い甲殻を切り裂き、身体をバラバラにした。


「せぇ……のっ!」

 レッドスコーピオンの身体に飛び乗ったツバキが次々と尾や鋏をもぎ取り、頭部を踏み砕いていく。


 群れの配下を潰され、最後に残ったボスのレッドスコーピオンが狂乱状態となって二人に襲いかかる。

 左右の鋏でちょこまかと動き回る二人を捕らえようとするが瞬発力、俊敏性ともに上回る二人に翻弄されていた。

 そしてレンゲが頭上を飛び越えてた瞬間、大きく開いた鋏が彼女に迫るが、その隙にレッドスコーピオンの腹の下にツバキが滑り込み、柔らかい腹部に手刀を突き刺した。


「爆!」


 一瞬、甲殻が膨れ上がり内部で起こった爆発で体内の重要器官を潰されてたレッドスコーピオンは絶命した。


「お~い、ツバキ殿。無事か~」

「うん、平気」


 地に伏せた死骸の下から這い出てきたツバキがレンゲの手を借りて起き上がる。


「私は討ち漏らしがいないか探るから、レンゲは魔石と尻尾を集めてくれる?」

「心得た。取り敢えず、魔石は全て回収して、毒針の付いた尻尾は大型と中型だけでいいか」


 レンゲがレッドスコーピオンの尾を切り取り、一ヶ所に集めていく。

 その間にツバキは再度、木々の情報網に入り込み索敵を開始した。


 周囲にレッドスコーピオンがいないか探る為に拡げた意識に、奇妙な行動を取る集団が引っ掛かった。

 存在を隠すように木々の陰から静かに近づいてくる冒険者の集団。各々が武器を構え、その中の一人が鏃に猛毒を塗った矢を弓につがえてゆっくりと弦を引き、木に寄り掛かるツバキに狙いを定めて、射った。


 ツバキが意識を身体に戻すよりも、弓から放たれた毒矢がツバキに届くよりも早く。


 レンゲの刀が毒矢を粉々に切り裂き、隠れていた冒険者の集団の前に立ち塞がった。


「何だお前ら、私達に用でもあるのか?」

 怒りを通り越して狂喜の感情すら込み上げてくるレンゲは犬仮面の下で笑みを浮かべて、刀の切っ先を冒険者達に向けた。

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