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花の鬼、冒険者となる

 完全に日が暮れる前に冒険者ギルドに戻ってきた二人は、猪肉を売却し取ってきた晴天百合は職員に渡した。


「ふむ……確認しました。指定素材の晴天百合で間違いありません」

「これで試験終了ですかな? はっはっは」

「……」


 試験官のグエインはまだ納得はしていないようだったが、文句を言っては来なかった。

 一応、試験官として不正を働く気は無いようだ。


「では、ブロンズの階級章をお受け取り下さい」

「銅製ですな」

「これは……何らかの術が掛かってる?」

 職員は準備していたペンダントを手渡した。

「はい。この階級章は記録媒体となっていて、本人のギルド評価だけでなく受けた依頼の履歴も記憶します。それとギルド評価がある程度に達すると昇格試験を受けるチャンスが与えられます」

「昇格試験?」

「はい。冒険者のランクにはブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリルの四段階があります。冒険者ギルドは世界各地に存在し、ゴールドランク以上の冒険者となれば弱小国の貴族より重要視されます。将来有望視なお二人ならゴールドランクに届くのも不可能ではありません」


 ギルド職員は類い稀な成績を修めた二人に多大な期待を寄せているようだが、ツバキにはあまりその気は無かった。


「これで港町へ行く商人の護衛につけるのかな?」

「そう言えば、ツバキさんは港町へ行くのが目的でしたっけ。う~ん、依頼はまだ来てはいないんですが、直に来ると思うんですよね。ただ登録したての初心者だと依頼人が嫌がるかもしれませんので、依頼が来るまで他の依頼をこなして実績を積みませんか?」


 町から町へと移動する商人もあまり経費は掛けたくない。護衛で雇う冒険者の数は少数が常だ。

 人数を絞る分、実力のある冒険者を求めるもの。

 いくら冒険者ギルドが推薦したからと言って、初心者に命と財産を賭けるのは不安だろう。


 その不安を払拭する為にも、ツバキには可能な限り実績を積む事が要求されるのだ。


「それなら、ツバキ殿。私と組まないか? 一人より二人の方がより推薦されやすいだろ。どうだ?」

「それはいいですね。ソロよりパーティーを組んでいた方が依頼人も安心すると思います」

「でも……いいのレンゲ? 私はアーリアーヌへ行くのが目的でけど」

「構わん構わん。どうせあてのない旅の身よ。船の旅も面白い」


 軽い口調で旅に同行すると言うレンゲに、ツバキはどこかホッとした気持ちになった。


「ではパーティー名を決めてください」

 職員に促され、少し考えて。

「鬼面と犬面」

「剣士と術士」

「武闘派女子」

「ツバレン」

「え~と……仮面武闘会」

「ふむ、血煙の女衆」


 アレコレ意見は出るがあまりパッとしないのでパーティー名を決めるのは後日に延期となり、この日は町の大衆食堂へ食事に行った。


「いらっしゃいませ、お二人さん?」

「あぁ二人だ。テーブル席は空いてるかい」


 空の食器で両手が塞がった女給が顔だけ向けて対応している。

 適当に入った店は飯時とあってなかなか繁盛しているらしく、多くの人が酒や食事を楽しみ、大声で騒いでいた。

 仲間内の笑い話に夢中で仮面を着けた二人の姿に気付かぬ者もいたが、気付いた者も大して気にもせず食事をしている。

 冒険者ギルドのある町ゆえか、変わった装備は見慣れているのかもしれない。


「奥のテーブルへどうぞ。注文は何にします? 酒のツマミ以外だと煮込みか焼き物しかないけど」

「では、焼き物と適当に酒を」

「あ、私も同じ物を」

「あいよ! 店長、日替わりとエール二人前」


 注文した料理が来るまでパーティー名を考えたり身の上話をしたりと親睦を深めていると、両手に皿とマグを持った女給が慣れた足取りで混雑する店内をスルスルと抜けてやって来た。


「はい、お待ち」

「おぉ、待ってました」

「ありがと……」


 テーブルに料理を置いて去っていった女給の後ろ姿を見詰めてツバキの動きが止まった。


「ん? どうしたツバキ殿」

「……うん、何て言うか。踊っているみたいだなぁと思って」

「あの女給か? 確かにあの滑らかな足運びは見事だな、ぶつからぬように上手く身体を動かしている」

「う~ん、こういう鍛え方もあり?」

「はっはっは、確かに日々の生活が修行に成っている」


 酔客の手を払いながら酒を運び、入り口にいる客を見ながら危なげなく店内を移動している。


「広い視野に動きの予測、優れた観察力」

「ふむ、さながら舞いのような……あ、掴まった」


 悪酔いした男の一人が女給の腕を掴み、何かを要求している。

 嫌がる女給が離れようとするが体格の良い男の力に抗えず、終いには男の頬を痛烈に叩いた。


 周りの客からは笑い声があがるが、叩かれた男は女給を睨み付けて腕を振り上げた。


 男の握り拳が女給に向かって振り下ろされたが、その拳が女給を殴りつける寸前、ツバキが彼女の身を男の手から引き剥がした。


「速っ、瞬足の術かな」

 数メートルも離れ、人やテーブルで塞がれていたにも関わらず一瞬で距離を詰めたツバキの早業にレンゲは思わず感嘆の声を漏らした。


 女給に手を上げた男に対する周囲の非難の声も赤ら顔の男には雑音でしかない。もはや呂律の回らない男は持っていた剣を抜き、言葉にならない叫び声を上げた。


 男が剣を抜いた事で周囲が騒然とする中、ツバキは背に女給を庇い男と対峙する。


 周囲の緊張が高まり、流血沙汰になると思われた時。


 当の男の身体から力が抜け、剣を落として倒れた。


「ふふ、イヌノフグリ流『魂切り』なり」

「ありがと、助かったよレンゲ」


 男の背後を取ったレンゲが刀を抜き、男を切った。しかし切られた男の身体に傷は無い。

 肉体では無く、精神を切る特殊技のようだ。


 しばし呆然としていた客達も、女給を救った二人に向けて一斉に歓声を上げた。 

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