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花の鬼、犬面と出会う

 厳つい顔つきの男がツバキを威圧してくる。

「おい、チビガキ。お前……」

「失礼するぞ」


 ツバキに絡んできた男を押し退けて、別の人物がひょっこり顔を出した。

 長身の年若い女性。長い黒髪を括りゆったりとした服装に身を包んで、腰には一振りの刀を佩いている。


 そして顔にはツバキと同様に木彫りの犬面を着けていた。


「あぁん? 何だ、テメェ……つか、何だお前らその仮面は」

「ほほぅ、私以外に面を着けた変わり者が居ようとは……私の名はレンゲ。イヌノフグリ流剣士のレンゲだ」

「私はツバキ。……イヌノフグリ流って?」

「遥か遠方にある小国に伝わる武術だ。私は武者修行中なのだよ」

「へぇそうなんだ。そういえば見たことない服装……」

「お前ら、俺を無視して話し込んでんじゃねぇよ!」


 男が一喝し、二人の会話が止まる。

 男の吐く息から伝わる酒臭さに、仮面の下でツバキが顔をしかめた。


「いいか、冒険者ってのはなぁ強さが全てよ。テメェらみたいな仮装したガキなんざ、お呼びじゃねぇんだよ!」

「あ、そう」


 男の怒鳴り声など歯牙にもかけず、ツバキは職員に向かって。


「この人はこう言ってるけど、試験を受けるのに制限があるのかな? 受けるのが駄目なら私は他所へ行くけど」

「試験を受けるのに制限なんてありませんよ。合格するかどうかは成績次第です。だからグエイン、酔って新人に絡むのは止めなさい」


 職員に注意されたグエインという男はそれでも不服そうな表情でツバキを指差し。


「うちのギルドはただでさえ依頼の達成率が落ちてんのに、こんなガキを冒険者にしたら余計に質が落ちんだろうがっ! それにこのガキが依頼に失敗したら、そのフォローをさせられんのは俺達だ。面倒事を増やされんのはゴメンだぜ」

「そんなに不満ならば貴方が試験官を務めますか? 貴方自身の目で合否を判断するといい」

「……いいぜ。やってやる」


 職員は再度ツバキに登録試験を受けるか尋ねてきた。


「どうしますか? 先ほどのグエインも言っていましたが、冒険者には強さが求められるというのも事実です。グエインは力に頼り過ぎる所もあり、試験内容がキツいものになるかもしれませんが、それでも受けますか?」

「問題ない」

「何やら面白い展開になってきましたな。私もその試験を受けても構いませんかな?」

「はい、大丈夫ですよ。ではツバキさんレンゲさん、奥の訓練場へどうぞ」


 ◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 訓練場へ行くとグエインが中央で仁王立ちしながら待っていた。

「まずは持久力を見てやる。この腕輪を着けろ」


 グエインが投げて寄越した腕輪を受け取り、それぞれ装着した。すると腕輪の効果が発動し、ツバキとレンゲの身体が少し重くなった。


「テメェらには訓練場を走って五周してもらう。今テメェらが着けた腕輪は装着した者にまず十キロの重さを与える腕輪だ。そして訓練場を一周する毎に十キロずつ増えていき、五周目には計六十キロになる」


 グエインは、重さに耐えきれず倒れるツバキ達を想像しニヤリと笑った。


「果たしてどこまで耐えきれるかな? 言っておくが一度でも足を止めたら即終了だからな」


 訓練場の壁際を走り始めた二人の足取りはまだ軽い。


「加重変動型の腕輪とは、またずいぶんと酷な物を選びましたね、グエイン」

 成績を記録する為に訓練場へ来た職員の女性が、少し責めるような口調でグエインに話しかけた。


 二人の着けている腕輪には他に加重固定型の腕輪があり、ギルド登録の試験では十~二十キロの物が使われるのが一般的だった。

 加重変動型は主に現役冒険者がトレーニングで使用する物なのだ。


 加重固定型の腕輪でも五周走れるのは試験を受けに来た者の内、半数ほどで最後の一周はほぼ歩くのと大差無い状態になってしまうほどだ。


「この腕輪を着けて走るのは二周が限界では?」

「ふん、この試験の合格ラインは三周だ。最低でもそれくらい走れなきゃ要らねぇだろ」


 腕組みをしながら二人の様子を見ていたグエインだったが、予想に反して走るペースが落ちない二人に違和感を感じた。


 やがて三周目を終えて加重が四十キロを越えても走り続ける二人にグエインは驚愕する。


「ど、どうなってる? 剣士の女ならまだしも、どうしてあんな貧相なガキが走り続けられるんだ!」

「これは意外でしたね。通常の試験でも脱落者多数なのに」


 最後の一周で身体に六十キロの重さが加わっても二人のペースは変わらず、そのまま走り終えた。


「ふぅ、疲れた」

「はっはっは、軽い軽い。私はまだまだいけるぞ!」


 大して疲弊していない二人に唖然とするグエインだったが、直ぐに次の試験を行うべく移動した。


「つ、次は攻撃力を見る! この鎧人形に一回だけ攻撃してもらう!」

 案内された所には一直線のレーンが敷かれ、その上に台座に固定された鋼鉄の鎧が立っていた。


「まずは俺の見本を見せてやろう!」


 レーンの端まで台座を移動させ、台座に立つ鎧人形に向かってグエインが突進する。


「ゥウオリャアァ!」

 気合いと共に鎧人形に体当たりすると、鎧人形は元の位置から二メートルほど後退した。


「はぁ、はぁ……こんなもんだ。しっかり準備すればもう少し威力が上がるが、まぁいい。お前ら、やってみろ」


 二つのレーンが用意され、同じようにレーンの端に鎧人形が立つ。

「武器を使っても良いのかな?」

 レンゲが腰の刀を撫でながら確認を取ると、グエインは少し小馬鹿した感じで返答した。

「構わねぇが、そんなひょろ長い武器よりハンマーでも貸してやろうかぁ?」


 この試験では重量や腕力が物を言う。どれだけレンゲの刀が鋭くてもこの試験に於いて、斬撃武器は不利なのだが。


「いや結構」


 レンゲが腰に差していた刀を鞘ごと外し、納刀したまま突きの構えを取った。


「おいおい、鞘が壊れるぞ」

「心配ご無用。鉄より硬い化け樹の鞘ゆえ」


 一瞬の間を置き、レンゲの繰り出した突きが鎧人形の胴体に命中し、四メートルほど後退させた。


「ふむ、思ったほど行かんな」

「そんな、馬鹿な……」


 不満そうなレンゲに続いてツバキが鎧人形の前に立つ。

「あん? 素手でやる気か」


 ツバキは鎧人形の目の前に立つと静かに呼吸を整え、拳を引いた。


「せぃ」


 力んだ様子も無いツバキの拳が鎧人形を貫通し、背中から飛び出していた。


「あれ、これどうなんの?」

 ツバキがちょっと困った様子で呟く。

「あっはっはっは。おやまぁツバキ殿、鎧人形を後ろに飛ばさせなくてはいけないのだぞ?」


 やや下から繰り出された小柄なツバキの拳。その衝撃が下から上に突き抜けた結果、鎧人形は移動せずその場でツバキに貫かれてしまった。


 笑うレンゲとは対照的に、絶句するグエイン。

 瞬きを忘れて目を見開き、開いた口が塞がらず顎が外れたように固まったままのグエインは、驚きの余り判定を下せずにいた。 

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