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花の鬼、依頼を達成する

 術を解いて身体の自由が戻るまで身動きの取れないツバキを守るように奇襲を仕掛けてきた集団の前にレンゲが立ち塞がる。


「何だ、貴様ら。誤射したわけでは無いよな」

「お前ら、やっちまえ!」


 最後尾にいる男の怒声を合図に、五人の襲撃者達が武器を手にして一斉に襲い掛かった。


「ふ~ん。容赦はせんぞ」

 体格の良い男が大剣を手にして向かってくるのを眺めながらレンゲは緩やかに歩き出し、繰り出される剣撃を僅かな動きで躱して、横を通り過ぎる際に手足を深めに斬りつけた。


 血飛沫が飛び散り、武器を手放した男が悲鳴を上げて倒れ込む。まるで散歩をするような足取りで襲い来る男達を次々と返り討ちにしていく。


 傷口を押さえて悶える男達の一人が怒りと激痛に顔を歪ませながらも立ち上がった。

 震える手で武器を拾い、背を向けるレンゲを睨みつけて襲い掛かる。


「そっちは任せたぞ、ツバキ殿」

「任され、たっ!」

 辛うじて立ち上がった男の背後に術を解いたツバキが飛び掛かる。レンゲばかりに意識が集中し過ぎて無防備になっていた男の背中を豪快に蹴り飛ばした。

「ぐげぇ!」

 鎧を着込んだ男を蹴り一つで数メートル先まで吹き飛ばす。


「な、何だコイツ……こんなの聞いてねぇ」

「おい、サバリオどうす……い、いねぇ!」


 下手に近付いただけで瞬殺されると思い知り、怖じ気ついた男達がリーダーのサバリオに助けを求めようと後方に目を向けるがそこにサバリオの姿は無かった。


 素早い状況判断で勝ち目が無いと悟ったサバリオは残りの仲間を見捨てて一人だけ逃げ出したのだ。


「ち、畜生……あの野郎、自分だけ」

「ほれ、残るはお前だけだぞ」

「ひ、ひぃ!」

 背後からレンゲに声を掛けられ、男は思わず腰を抜かした。まるで化け物を見るような目でレンゲを見上げ、次にその足元に転がる血塗れの仲間の姿を見て男の心臓は破裂しそうな程、激しく鼓動した。


「ま、待ってくれ……お、俺達は命令されただけなんだ。逃げたサバリオの命令で、仕方なく戦っただけで……」

「つまらん。もっとマシな言い訳を……」

 刀の刃先が男の首を撫でると、男は恐怖のあまり失神した。

「ふん。本当につまらん奴だ」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「ぎぃやああああぁ!」

 回収したレッドスコーピオンの素材をまとめ、返り討ちにした男達を適当に縛り上げていると遠くから男の悲鳴が聞こえた。

 それは一人だけ逃げ出したサバリオの悲鳴だった。


「ん? 何ぞ」

「さっきの男か……何か来る」


 警戒する二人の元に大柄な猪面の魔物が現れた。手には四肢が歪に曲がったサバリオを掴んでいる。すでに息はしていない。


「オークか。デカいから上位種のハイオークかもしれん」

「やるか」

 ツバキが駆け出すと、ハイオークがサバリオの死体を放り投げてきた。


 飛んでくる死体を躱し、ハイオークの顔面に飛び蹴りを食らわせる。

「く……」

 岩をも砕く威力の蹴りを食らっても平然とするハイオークは不機嫌そうな目でツバキを睨みつけ、大きく吠えてツバキを弾き返した。


「ほほぅ、なかなかやるじゃないか」

 ツバキが退くと同時にレンゲが間髪入れずに切りかかる。

 ハイオークの横を駆け抜け、一撃を入れる。


「……む、刃が入らん」

 ハイオークの脇腹に切り込んだ一撃は想像以上に硬い毛皮と筋肉に阻まれて、表面を薄く切る程度だった。

 

「これは参った。其処らの雑魚とは比べ物にならんな……ツバキ殿、勝算はあるか?」

「問題無い。少し時間を稼いでくれたら、後は私が終わらせる」

「頼もしいお言葉。では、少々遊んでやるか」


 レンゲはハイオークの周囲を走り、時折手足や顔を切りつける。大したダメージにはならないがハイオークの怒りを買う事には成功した。


 苛ついたハイオークが大木のような腕を振り下ろして纏わりつくレンゲを叩き潰そうとするが、寸前で身を躱したレンゲはハイオークの腕に新たな傷を負わせた。


 纏わりつく羽虫を思い通りに潰せないばかりか、逆に小さな傷をつけられている事にハイオークの苛立ちが募る。


 怒りで目は血走り、噛み締めた歯が軋みを上げ、身体中の筋肉が震えている。


 逆上したハイオークが多少の反撃など無視してレンゲに襲い掛かろうとした時、ツバキの準備が整った。


「お待たせ」

「おお、ツバキ殿。漸く……んなっ!」


 振り返ったレンゲの目の前に、炎を纏ったツバキの姿があった。

 赤い炎がツバキの全身を隈無く包み込み激しく燃えている。近くにいるレンゲにも炎の熱が伝わってくる。

 一見すれば致命傷にも繋がり兼ねない状態だが、当のツバキは平然としている。


「そ、それは大丈夫なのか」

「もちろん。でも、あまり長くは保たないから手早くいくよ」


 ツバキが動く。それを察知したハイオークが身構える。


 だが次の瞬間、ハイオークは地面に倒れていた。あまりの異変に理解が追い付かなかったが直ぐ様激しい痛みが全身を駆け巡る。


 ハイオークの目の前にいたはずのツバキがいつの間にか後ろにいた。そして、傍らにはもぎ取ったハイオークの片足が転がっている。


 怒り、痛み、恐怖、逃走、反撃。ハイオークの頭の中で色々な思考が暴走し、戦いの最中にも関わらず身動きが取れずにいた。


 そして、敵を前にして考えが定まらず無防備な姿を晒すハイオークの首を、炎を纏ったツバキの手刀がはねた。

 強靭な肉と骨で構成されていたハイオークの首が、まるで砂山を弾くようにアッサリと飛んだ。

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