最近見た映画 1
田舎の高校の向かいにある台湾料理屋。そこは二人の行きつけで、安い、美味い、ボリュームがあるというB級グルメの王道をいく店だった。店の看板は数か月前に新しくなったというのに三色に光るネオンのせいで実際より古く見える。今日はケンタが仕事終わりに車でカズシを迎えにいって、この店に来ることになった。
「イラシャイマセ。フタリ? 好きなトコ座って」
二人は真ん中の列の右側のテーブル席につく。この席もお決まりの席だ。厨房には二人のTシャツ姿の料理人、接客担当は店の名前が刺繡された赤いエプロンをしているが、足元はクロックスで、店内のルールの許さを感じる。それも含めて二人はこの店を気に入っていた。
「何にする?」
「酒セットでからあげと麻婆茄子かな」
「カズシそれにすんなら、俺はホイコーローと……かに玉にするか」
「決マタ?」
「酒セットでお酒はいらないからホイコーローとかに玉、あとプラス300円の炒飯で」
「酒セットでお酒なしの、からあげと麻婆茄子、あと300円の炒飯に料金追加してもらっていいんでニンニク炒飯で」
「あーい」
店員は二人の変わった注文を特に気にすることもなく、言われた通りに繰り返してオーダーを通す。
ケンタは下戸で、カズシは健康も意識して酒はここしばらく飲んでいなかった。酒セットを頼む理由はそっちのほうが安い値段で沢山の料理の種類が楽しめるからである。店員もそれを気にして、大きなグラスにウーロン茶をサービスで持ってくるのが定番であった。
「そういや観ましたRRR」
「あ、そうどうだった」
「いや、よかったわエンターテインメントってこういうことだなってなったね」
「そうはならんやろの連続だったでしょ」
「そうね。まあツッコむのは野暮だけどね」
「あのうっかり敬礼したやつ怒られるやろなあ」
「怒られるで済むかね。あの婦人の鞭でいかれるでしょ」
「あのドラクエでしかみないやつね。なにあれプライベートようの鞭なの?」
「あの人、めっちゃハマってるよな。悪い奥様感がとんでもないわ」
「最近何か見た?」
「少林サッカー」
「また見たの? 何回みんだよ。あの小学校のバス旅行で必ず流されてるやつ」
「あれ他の学校でも流されてんのかな」
「うわー知らん。今度誰かに聞いてみよっか、そういや4DXは体験したっていったけ?」
「あー、ゴジラの時に」
「どうなん?」
「いや、ケンタは酔うよ」
「なんか揺れたりすんだよね」
「後、水が出たり熱風が出たりとか」
「ディズニーとかのアトラクション的な感じなのね」
「そうそう、まさにそんな感じ。まーでも、高いよ」
「あっ、値段違うの?」
「違う違う、普通に見るのと二千円くらい違うよ」
「あ、そうなんだ。酔って見れなくて倍以上の料金はしんどいな。少林サッカーの4DXあったらそれでも見てみたいけど」
「まあ確かに親和性高そうだね」
「なんかプールの修行とかで水飛沫飛ぶやつとか、シュートで炎の龍になるやつとか、皆が帰ってきたみたいなシーンで風吹かせたりとか……。あれ、思い付きで言ったけど想像以上に向いてね?」
「リメイクされたらみるんだけどな」
「そういや新宿だかどっかになんか高級な映画館出来たの知ってる?」
「ああ、なんか4000円くらいするやつでしょ?」
「そうそう高い席だと6000円くらいのやつ。あれ、凄いよね。なんか今、戦場のピアニストとかやってるんでしょ」
「まあ、やっぱ名画系よな。劇場版クレヨンしんちゃんとかやってもイメージ違うからな」
「あと、なんかポップコーンとドリンクが無料らしいよ」
「へー、そうなん」
「頑張れば元取れそうじゃない」
「ポップコーンそんな食えんだろ」
「あと多分、4000円以上払って映画見ようって人は、そんな元を取ろうなんてマインドのやつおらんよね」
「そうね。サブスク待ちだよね。あ、今度マリオどうする見に行く?」
「あー、彼女といくんよ」
「おじさんとは行かない?」
「おじさんとは行かない」