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スウィートカース(Ⅹ):カラミティハニーズ・ヴァルキリーリダイブ  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第一話「惑星」
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「惑星」(2)

 ホシカとシヅルより早く、砂漠のオアシスにはすでに先客がいた。


 その数五名……


 うち一機(?)と一匹(?)は各々の切れ味鋭い近距離武装で、新たな放浪者ふたりを油断なく足止めしている。飛び道具と思わしき高圧の呪力を練るのは、その奥で迎撃の陣形に広がった他の〝三人〟だ。だれかひとりでもおかしな動きをすれば、この場が惨たらしい鮮血に染まるのは間違いない。


 この砂漠は、やはり異常だった。


 なぜかここにいる全員が、そろって同じ格好なのだ。似通った年齢ぐらいに見える女子高生たちは、ことごとく美須賀みすか大付属の制服をまとっている。しかしこの未知の空間ではなにが起こっても不思議ではないし、外見だけではなにも信用できない。


 まずホシカを鋼鉄の長刀で捉えるのは、端正な目鼻立ちの少女だった。その容貌は洗練された現代的な日本人形とも呼べるし、どこか機械じみた淡白さも秘めている。


 ホシカは彼女に見覚えがあった。無駄だと知りつつも、その名を舌に乗せる。


「ミコ……黒野美湖くろのみこじゃん?」


「……はい、そうですが?」


 回答に迷いがあったのは、彼女も現状を把握しかねているためらしい。


 ホシカの目に間違いがなければ、彼女の肩書きはこうだ。


 特殊情報捜査執行局《Feature Intelligence Research Enforcement》〝Fire(ファイア)〟の人型自律兵器アンドロイドであり極秘捜査官エージェント、マタドールシステム・タイプSの黒野美湖くろのみこ……ホシカとは過去に、強大な悪と戦うために共闘したこともある。


 一方のシヅルも、自分を牽制する人物とは初対面ではない。


 持ち手から始まる機械の骨組に、神秘的な赤刃を旋回させる彼女……やや血の気はないが日本人離れした美貌は、その片目を眼帯で封じている。


 剣呑な面持ちの彼女の名前を、シヅルは口にした。


「エリザベート・クタート……エリーやん。うちがわからんの。うちやでうちうち。江藤詩鶴えとうしづるやで?」


「ほう。言われてみれば、シヅルに見えるの。だがホーリーの手駒の古影ミメットではないと、どうやって証明するんじゃ?」


 エリーという少女の語調は、妙に老成していた。


 それもそのはず、もしもエリザベート・クタート本人なら、彼女は齢五百歳を超える伝説の吸血鬼……いや、吸血鬼の血を吸う特異な吸血鬼〝逆吸血鬼ザトレータ〟なのだ。ここにいる彼女が本物であれば、エリーもまたミコと同じ組織ファイアの捜査官にあたる。


 とはいえ、一触即発の状況はなかなか改善しない。


 ふと気づいたのはホシカだった。


「もしかして……」


 襲撃者たちの顔を、ホシカは順番に確認した。


 あちらで謎めいた二挺の大型拳銃を構えるのは、神経質っぽいメガネの少女だ。他天体の悪魔的な存在に寄生された彼女は、呪われた黒炎の拳銃使い(ガンダンサー)に他ならない。


染夜名琴しみやなこと……」


 ホシカに呼ばれ、ナコトは首をかしげて低い声を発した。


伊捨星歌いすてほしか、に見えるな?」


 また、あれはなんだ。


 ちょっとボーイッシュな雰囲気のあの少女は、かざした指先に強い呪力で編まれた〝隕石〟の輝きを燃やしていた。ひとたび引き金を引かれたその〝結果呪エフェクト〟は、猛烈な弾雨と化して外敵を蜂の巣にするだろう。


 ホシカとシヅルの驚愕はハモった。


結果使い(エフェクター)井踊静良いおどせら!」


「セラやん!」


 困ったように眉根をひそめ、セラはそばの少女にたずねた。


古影ミメット、にしては敵意はなさそうだね。どうやら真贋を判別できるのは、きみだけのようだよ……ルリエ?」


「しかたないわね」


 答えたのは、ルリエと呼ばれた最後の少女だった。


 そのフルネームをつむいだのは、ホシカだ。


久灯瑠璃絵くとうるりえ……なんで、あんたまでここに?」


 得意武器である深海の触手を揺らめかせる少女は、大宇宙の深淵から訪れた地球外生命体〝星々のもの〟だった。もし真の久灯瑠璃絵くとうるりえであれば、さっきホシカやシヅルといっしょにホーリーへ立ち向かい、そして圧倒された張本人ということになる。


 ホシカとシヅルへ歩み寄りながら、ルリエは周囲に告げた。


「みんな、いったん下がって。いつでも反応できるように、武器は手放さないでね。ホシカ、シヅル、あなたたちも、手は上げたまま動かないでちょうだい」


「お、おう……」


「その判別っちゅうのは、なにを調べるんや?」


 シヅルの疑問に、ルリエは冷徹な顔つきで返事した。


「ホーリーが召喚した過去の亡霊〝古影ミメット〟の出来栄えはどこまでも精巧よ。おそらく古影ミメットは、死を迎える刹那の本人たちそのものだわ。記憶も戦闘力も、確かに本人たち特有のものを引き継いでる。いまのところ偽物と本物を見分ける方法は、ひとつだけね」


「ちょ、なにすんだ?」


 くすぐったげに身じろぎしたのはホシカだった。


 いきなりルリエが、制服の肩を脱がしにかかったからだ。かすかに角度を変えたミコの剣光を視線だけで抑え、ルリエはホシカに注意した。


「動かないでって言ってるでしょ。古影ミメットと本物を区別する方法はただひとつ……それはつまり、ホーリーに〝自分の意思でついていった〟か〝むりやり本にされたか〟なの」


 抵抗をやめ、ホシカはうながされるままに肩口の素肌をさらした。


 なににぶつけたのだろう。そこにはくっきりと、重い辞書の角(?)で叩かれたと思われる跡形がついていた。普通の打撲痕と違うのは、そこに独特な呪力が残留している点だ。


 押し殺したルリエの吐息は、はたして安堵か緊張か。


 ルリエの検分の手がつぎに目指したのは、シヅルだ。


 シヅルに関しては、派手に制服の腹部をめくられた。


 ホシカと同じく、そこにも大辞典で薙ぎ払われたらしい痣が残っている。こちらも物理的なだけではなく、呪力も混じったダメージだ。


「…………」


 まばゆい日差しに負けたように、ルリエは側頭部を指で支えた。


 そこらじゅうで、呪力の拳銃が、長刀が、隕石が、血剣が構え直される気配は連続している。ホシカとシヅルの表情も、いよいよ険悪だ。


 首を振って、ルリエはそれらを止めた。


「残念だけど〝本物〟よ」


 電磁加速射出刀鞘レールブレイド闇の彷徨者(アズラット)〟に刀身を納め、ミコは落ち込んだ声をこぼした。


「では、やはり……〝カラミティハニーズ〟は全滅したんですね」


 瞳をぱちくりしたのはホシカだった。


「ぜ、全滅ぅ?」

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