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スウィートカース(Ⅹ):カラミティハニーズ・ヴァルキリーリダイブ  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
「銀河」
17/24

「銀河」(1)

 大波乱の三世界会議が閉幕した直後……


 研究所の会議室をつつむ空気は重苦しい。


 策略も実戦も、ことごとくが未来人の圧勝だ。


 しきりに取り沙汰されるのは、ホーリーを課題とする対策協議だった。地球サイドの出席者はフィア、エド、ヒデト、パーテ、ソーマ。異世界からはメネスとアリソンが参加している。ついさっき命の危機にさらされた各世界の重鎮たちは、現在は別室で心身の無事を確認されている最中だ。


 お互いに膝を突き合わせ、発言したのはメネスだった。


「通路の防犯カメラが記録した映像だ……」


 おのおののテーブルに置かれた電子端末の画面には、ナコトとセラ、そしてミコが侵入者と交戦する模様が無慈悲に再生されていた。古影ミメットというのが、その驚嘆すべき外敵どもの呼称だ。


 ナコトたちは命がけで敵襲を食い止めたものの、ホーリーの未知なる追撃によって儚くも戦闘不能に陥っている。どう見ても本(?)にされて拘束された結果、いまも三人は行方がわからない。


「ナコト、セラ、さらにはミコまでもが、ホーリーの〝断罪の書(リブレ・ダムナトス)〟に封印されたと考えられる。エリーに続いてだ」


 暗く告げると、メネスはエドにたずねた。


「本当にホーリーは断言したんだな? カラミティハニーズは、ここにいるフィアを除いて全滅したと?」


「……はい」


 弱々しく答え、エドは聞き返した。


「まだ連絡はつながらないんですか、来楽らいら島に乗り込んだという別働隊の久灯くとうさんたちとも?」


久灯瑠璃絵くとうるりえ江藤詩鶴えとうしづるとは、束の間だが話はできた。知らせによれば、とらわれの伊捨星歌いすてほしかはなんとか救出したそうだ……しかし」


 言葉を切り、メネスは頭痛のする額をもんだ。


「しかし現時点では、その三名とも交信は完全に途絶している。断片的に拾った情報から推察するに、やはりホシカ、ルリエ、シヅルもまたホーリーに封印された。それを裏付けるように、時を同じくして……」


 メネスが電子端末のチャンネルを切り替えるや、映ったニュースはどれも激しいパニックを訴えている。


 異常があったわけではない。むしろ異常がすべてなくなったのだ。世界中に蔓延していた汚染は突如、まとめて消失した。環境の変動が地球のみならず、幻夢境げんむきょうにまで及んでいることは調査が済んでいる。 


「時を同じくして、世界の大気、大地、そして海洋は、原初さながらにまで浄化されてしまっている。おそらくは〝断罪の書(リブレ・ダムナトス)〟に吸収されたカラミティハニーズの強大な呪力が利用されたんだ」


「綺麗さっぱり環境汚染がなくなってハッピーエンド……とはいかないわね」


 警鐘を鳴らしたのはフィアだった。


「ホーリーは、すべてを清めると宣言したわ。風も、土も、水も、呪いも、全部。ホーリーの次なる抹殺の対象は、人類よ。最後の浄化は、もうじき始まる」


 ホシカ、ナコト、ルリエ、ミコ、セラ、エリー、シヅル……メネスが苦心して結成した特殊チームは、いまや完膚なきまでに崩壊した。なのでメネスが、こんなふうに別の方面へ助けを請うたのも責められない。


「エド、ズカウバ女王のご様子はどうだ?」


「いまは休憩されています。準備不足な中で、突発的に呪力を消耗した影響でしょう」


「ここまででホーリーに対抗できたのは唯一、ズカウバ女王だけだ。なんとか協力を仰げないかね?」


「要望はしましたが……」


 エドは静かに首を振った。


「断られました」


「なぜだ?」


「ホーリーの討伐はカラミティハニーズに一任する、と言って聞きません。人類そのものの成長のため、だそうです」


「そうは言っても、こちらに残された戦力は……」


 沈鬱が会議室を支配した。


このままでは、現実も異世界も滅亡する。


 もはや打つ手はない、かと思われたそのときだった。


「ひとつだけ方法があるわ。たったひとつだけね」


 フィアは提案した。


「それにはエド、あなたの開封の力が欠かせない。お願いだから、最後にみんなの力を貸して。作戦の内容はこうよ」


 切実なフィアの説明に、一同はざわついた。


「ぼくは別に構いませんけど……」


「ちょっとギャンブルが過ぎないか?」


「ああ、命がいくつあっても足りんぞ」


「いや、やろう。やるしかない。他にどんな手段がある?」


「成功率が限りなくゼロに近くとも、ただ指をくわえているよりはマシだ」


「〝災害への免疫(カラミティハニーズ)〟が解散した以上、〝天災への防壁(ディザスターガイズ)〟が頑張るしかないわ」


 あらゆる試行錯誤シミュレーションが繰り返されるうちに、いつしか反対意見はなくなった。


 討論をまとめたのはメネスである。


「では決行は、ホーリーの次の攻撃開始と同時だ。この極秘の作戦名は……」


 押し殺した声で、メネスはささやいた。


「作戦名は〝戦乙女の再降下(ヴァルキリーリダイブ)〟……」

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