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スウィートカース(Ⅹ):カラミティハニーズ・ヴァルキリーリダイブ  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第三話「星団」
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「星団」(4)

 数分前、室外の廊下……


 会議室へ通じる扉の前に立ち塞がるのは、彼女たち二人だった。


 染夜名琴しみやなこと井踊静良いおどせらだ。


 ふたりが片耳にはめる小さな無線機からは、室内の会話が包み隠さず流れている。関係者にのみだが、今回の超会議の内容は完全にオープンにされているのだ。それぞれの別室で待機する各世界の護衛たちも、議事を傾聴して悲喜こもごもに違いない。


 無線機を押さえる指をかすかに震わせ、ナコトは我が耳を疑った。


凛々橋(りりはし)恵渡えど……似た名前の聞き間違い? この会議室の中にいるのは、もしかしてあのエド?」


 ナコトの知るエドは、樋擦帆夏ひすりはんなの毒牙にかかって敢えなく命を落としたはずだ。混沌の覇王たるナイアルラソテフでさえ、エドの復活は不可能と結論づけていた。仮に扉の向こうにいるのが本物の彼だとすれば、いったいどうやって?


 とにかく、事実の確認は会議の完了後だ。ここはひとまず、会談の清聴や護衛の任務に集中することにしよう。


 頑丈な入り口を守りながら、となりのセラにたずねたのはナコトだった。


「移住できるんだってね、異世界に?」


 真剣な面持ちで、セラはうなずいた。


「びっくりさ。いままで頑なに他者の侵入を拒んでいたという幻夢境げんむきょうが、ついに別世界の人類を受け入れる気になったんだ。おまけに宇宙人まで協力して、未来からの攻撃に対抗する姿勢らしい。もしかしたらこれは、ホーリーの攻撃がぼくらに与えた怪我の功名かもしれないよ」


幻夢境げんむきょう、か……」


 子イノシシのぬいぐるみを抱きしめ、ナコトは天井に視線を馳せた。はるかなカダス山に建つ縞瑪瑙アゲートの巨城で受けたもてなしや、異世界勢の部屋に控えるだろうある風騎士のこと等々を思い出す。


「美味しかったな、テフのお城で食べたごちそう。ダーツを教えてくれる彼も、とっても優しかった……」


「ほほう?」


 心ここにあらずのナコトの脇を、セラは意地悪げに肘で小突いた。


「その表情、さてはすぐ身近に好きな人がいるね?」


「好き……って、エぇ? そんな、やめてよ、セラ」


「図星だな。べつに恥ずかしがらなくたっていいさ。ぼくもこの群衆の中に、将来を約束した男性ひとがいる」


「え、ほんと? だれ、だれだれ?」


「秘密、は教えないでもないよ。その代わりにナコトも、お相手の名前を打ち明けるんだ」


「そ、そっかぁ。じゃあ、せ~ので暴露する?」


「うん、せ~の……」


「こら」


 第三の気配に驚き、ふたりが飛び上がるのは唐突だった。


 大事な護衛任務の真っ最中だというのに、くだらないお喋りに興じるナコトとセラをどやしにきたらしい。


「あのさ、きみたちねぇ……」


 細い腰に手をあて、嘆息するのは一人の少女だった。着用した美須賀みすか大付属の学生服から察するに、見知らぬ顔だが組織ファイアの関係者のようだ。


 すくみ上がるナコトとセラを、少女はたしなめた。


「やっぱり年相応のアルバイト感覚ってところか。もっと真面目にできないの?」


 落ち込んだ面持ちで、セラは侘びた。


「すいません……あの、ええっと?」


「私はマタドールシステム・タイプNのニコ」


 言われてみれば、その雰囲気はどことなく系列機のフィアやミコに似ている。


 廊下の出口を指差し、ニコは呆れがちに促した。


「ナコト、セラ、いったん休憩だ。警備は代わるから、外の空気でも吸っといで」


「はぁい……」


 叱られた二名は、しょんぼりと門衛から外れた。


「ところでな」


 ニコとすれ違いざま、ささやいたのはナコトだった。顔つきから声遣いから、ナコトの人格は瞬時に戦闘向きのそれへと豹変している。


 なにもないニコの背後を鋭い視線で釘刺し、ナコトは聞いた。


「そこのもうひとり、なぜ姿を隠している。わたしの目は誤魔化せんぞ。氷の呪力を応用した光学迷彩だな、それは?」


「!」


 その場の四名は、勢いよく四方へ飛び離れた。


 そう、三人ではなく、四人いる。超低温の霧のバリアを散らして新たに現れたのは、それまで不可視だった制服姿の女子高生だ。魔法少女の苛野藍薇いらのあいらではないか。


 そしてニコと名乗った少女のほうも、黒砂の魔王ことニコラに他ならない。


 いつの間にか、ナコトの腕から子イノシシは消えている。呪力でできた二挺の大型拳銃へと、ナイアルラソテフは形態を変幻したのだ。


 素早く回転させた拳銃を前後に引き絞り、ナコトは誰何すいかした。


「ホーリーの差し金だろう、おまえら?」


 不敵な笑みを浮かべたのは、少女の機体を与えられたニコだった。その周囲におびただしい砂鉄を上昇させつつ、肯定する。


「いかにも、我々はホーリーさまの古影ミメットだ」


「目的は、わたしたちを倒して会議を邪魔することに間違いないな?」


 詰問したナコトの横、セラは必死に耳の無線機を叩いた。一方では結果呪エフェクトの力を指先に込め、戸惑う。


「みんな、応答して! 敵だよ、敵!」


「無駄ね」


 片目に呪力の五芒星を燃やし、冷淡に切り捨てたのはアイラだった。


「あんたたちの通信手段は、とっくに水分で凍らせて故障させた。うしろの扉も最大限に凍結させてあるから、撃とうが叫ぼうがいっさい音は届かない。助けは期待しないほうがいいわ」


「八方塞がりか。よかろう。こちらもお前らを逃がすつもりはない」


 低い声で告げ、ナコトはセラに合図した。


「いくぞ、セラ。こいつらをできるだけ、会議室から遠ざけるんだ」


「わかったよ、ナコト」


 身構えたニコとアイラめがけ、ナコトとセラは床を蹴った。

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