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目に目を

作者: ウッチー

いま、とても忙しいんだ。明日のデートの予定、学校の宿題、まだまだ色々ある。でも、僕が今最も行動することを求められているのは、この目の前のバンパイアをどう殺すかだ。


話しは三日前に遡る



僕は親友の麻里ちゃんと今世間で話題になってるヴィジュアル系バンドのライブに来ていた。いつもなら、そのままライブ終わりに別れるのだけど、その日はちょっと違った。それはライブ終わりの帰り道の事だった。麻里ちゃんが「私、実はね、誠一君のこと………」


僕は悟った。この子は今僕に告白しようとしてる。彼女アリの僕にだ。無論、麻里ちゃんもこの事実を知っている。彼女はおおきな賭けに出たというわけだ。僕は今いる彼女一本に決めていたので、特に心に揺さぶられる事も無く、冷静、怜悧にただ、ただ、その言葉のつづきを待っていた。そして―――


「ずっと前から―」


来た!!言ってくれ。素直に言ってくれ。静かに断るから………。


「食べたいと思ってたの」


「!!?」


予想外の言葉。何を言ってるんだこの娘は!あれか?超肉食系女子というヤツか!!?噂には少数いるとは聞いてたが、元来こんなにストレートに言ってくるものなのか?僕は予想外過ぎて、自分でもびっくりするくらい動揺した。


「え!?それは、彼女アリの僕と肉体関係を持ちたいというわけ?言葉の真意が僕にはよく分からないのだけれども………。」


麻里ちゃんは笑って、


「語弊があったわ。ちょっと違うの。肉体関係を持ちたいというか、」


僕は黙って聞いていた。


「あなたの血を吸いたい」


???


「僕の、血を吸いたいっ…?」


彼女は得意げな顔で


「そっ」


何だそれは、新手のプレイか?傷口を作って、その血を舐める、とか、吸う、とか。僕はあまりアブノーマルな性行為には精通していないので、判断に困った。


そして、冗談気に、


「君は、バンパイアか何かかい?(笑)」


「そっ」


即答だった。


僕はこう見えても徹底した現実主義者だ。彼女のうそぶく言葉もアタマから現実問題として考慮していなかった。


「ハイハイ。その、吸血鬼さん。血を吸って何がしたいの?」


彼女は目をキラキラと輝かせて、


「誠一君、君の血は美味しそうだから、吸うことしか考えてない」


アタマいかれてんのかこの女、と僕は思いながら、面倒くさいので、


「三日後、今日は木曜だね?三日後の日曜日、家に来な。君、勉強最近遅れてるだろ?見てやるよ。」


彼女は一瞬ショボーンとしたが、すぐに立ち直って、


「分かった。日曜、君の家に行くよ」


と、まあライブ終わりの問答は終わったわけだが、


これ程奇妙な言動をする娘だってことに僕はまず驚いた。そして、自分にも驚いた。僕には仮にも彼女がいるのに、別の異性を自分の家に呼ぶなんて…。


―三日後(現在)―


………


あ!しまった!!!僕は麻里ちゃんが家を訪ねてくる時間帯を寝過ごしてしまった!!!彼女、怒ってるだろうなあ………、僕は内心ビクビクしながら、麻里ちゃんに電話をかけた。


「PLLLLLLL………」


出ない。


そりゃ怒るだろう。約束の十時から五時間も過ぎているのだから…。


と、思っていた矢先、


「誠一く~ん」


麻里ちゃんの声が聞こえた。


それも家の中で!!!


僕は二階の自室のドアを開け、声のする、一階のリビングへ向かった。


そこには、


地獄絵図が待っていた―


父と母が床に倒れており、首に噛まれた跡がある。弟も同じく倒れている。


そしてそこには、口元を血で染めた自称バンパイアの麻里ちゃんが一人立っていた。


そして、彼女は得意げな表情で、


「どう?私がバンパイアだって信じた?」


「その噛まれた跡がある僕の家族が君と同じくバンパイアに蘇生するならな」


「残念。それは古典小説の話よ。原題のバンパイアは、太陽じゃ死なないし、十字架も効かないの。それに―」


「噛まれた人間は皆お陀仏よ。ご愁傷様でした」


「じゃあ、お前は僕の家族を殺した訳だな。そして、お前は、現代版の、死なないバンパイアだと………。」


「そういうわけよ。さ、誠一くんも大人しく私に召されなさい」


絶体絶命のピンチ!!!僕は考えた、今まで見聞きしてきた本や映画のバンパイアの知識で、このバンパイアを殺す方法は無いか!考えろ、考えろ!、自分っっっ。


そして、一瞬閃いた!


「じゃあ、頂きま~す」


彼女が襲い掛かってきた。


そして僕は


同じく彼女に襲い掛かった。


彼女は逃げるものだとばかり思っていた僕が、逆に彼女に向かって来たことに対して、若干恐怖を感じ、出鼻をくじかれ、ちょっとひるんだ。


そして、僕は、おそらく、誰にも考え付かない解決策に着手した。


彼女の、バンパイアの首に嚙みついたのだ。


僕の蛮行にはさすがの彼女も予想外だったらしく、ただ痛みに悶絶していた。


「バンパイアに殺されるくらいなら僕がバンパイアになって生き続けてやる!」


そう、僕はバンパイアを殺す、のではなくて、同族として共存、または、その能力を継承しようと考え付いたのである。役に立った知識は1997年のサイコ・スリラー映画『CURE』だった。人に催眠術をかけて、次々に目の前にいるひとを自殺させてしまう青年が出てくる映画で、主人公の刑事が止まらない被害に辟易しながらも、逆にその青年に催眠術をかけようとする、といった内容である。


とにかく、僕は一矢報いた。


死に際に彼女は、


「バンパイアになるなら気を付けることね。美味しそうな人を見つけると我慢できずに血を吸いたくなるから………。」


そして―


彼女=麻里は倒れたまま動かない。僕は彼女を殺すことに成功した訳だ。そして、同時に吸血鬼の運命をも受け入れたのだった。





そして次の日のデート、僕は僕の本命の彼女(・・・・・)に噛みついた―――





―――END―――

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