神に為せない悪魔は
読んでも何も分かんないと思います。僕も分からないです。
気が付けばそこにいた。
それ以上のことは僕には分からなかった。
最初に目に映ったのは人の波だった。なかなか多い人数がいると思うのだけど、世界はなぜか静寂だった。
空を見上げればこれ以上にないくらいの晴天だった。雲の一欠片すら見つかりやしない。
ただぼうっとした頭で空を見上げていると、不意に強い衝撃か体に伝った。
空を見ていたはずの視界は地面を映していた。転んでしまった、その事に気付いたのはきっと僕よりも彼女だったんだろう。
自分が転んだ事実を受け入れる間もなく視界には誰かの手が僕に向けて差し出されるように映った。顔をあげると陽光で輝く金色の髪が目立つ修道女がいた。僕が顔を上げると彼女はどうしてか驚き、そして少し悲しそうな顔をして僕に差し出した手を引っ込めて立ち上がった。
何かしてしまっただろうか。
そんな疑問もすぐに消えた。
僕の体は僕の意識を無視して去ろうとしていた彼女の手を掴んだ。
何と言えばいいのか、彼女の手を掴んだ瞬間、景色が変わった。文字通り。僕の周りにいた人々は消え、晴天を見せていた空も真っ黒な雲に隠れていた。そして——彼女が僕の手の中で大量の血を流していた。
「——エリエッッッ!」
自然と彼女の名前を口にしていた。
しかし名前を呼ぼうと状況が変わるはずもなく、ただ彼女の胸から流れ続ける血に恐れることしかできなかった。
無力だ。
「——無様なものだな」
不意に声が聞こえた。
男性とも女性とも聞こえる中性的な声。顔を上げればすぐそばに青年が立っていた。
青年は声も出せない僕を嘲笑って言葉を続ける。
「他人の大切なものを奪っておいて、自分の大切なものを奪われてしまえばただ無様に叫ぶことしかできない。いつまでも醜いもんだなぁお前は」
「⋯⋯何が言いたい」
掠れた声で放った言葉はまさに無様な意味のないものだった。
「はあ? 何が言いたいって⋯⋯それはこっちの台詞だが。なんだ、勝手に神に呪って、人を殺し、何もかもを破壊しようとしたお前に、そっくりそのまま聞き返したいよ」
「⋯⋯は?」
青年の言葉ははっきりと聞こえた。
それでも聞こえていないような錯覚に溺れた。確かに聞こえている。はっきりと耳に伝わっている。それなのに、意識が、心がその言葉を受け入れたくないと塞ぎ込んでいる。
「ただ大切なものを守りたかっただけだ」
とても小さな声だったが青年にはちゃんと届いたようだった。
「その結果がこれだ。笑えるな。この神に挑んで勝算でもあったのか? ないだろうな。なあ、知ってるさ。知っている。私は君に勝算がなかったことも、大切なものを守りたい感情も、人に殺されそうになったのも、何もかもを奪われそうになったお前も、知っている」
「な⋯⋯何を言って⋯⋯」
「分かってるだろう? 神なんて存在しないことを」
青年の言葉は全く理解するに及ばなかった。
何を言っているのか、生を費やしても理解できる気がしないその言葉を僕はただ、ただ飲み込むだけだった。
「夢が覚めたと思ってるようだな。残念だが夢は覚めていない」
その言葉の全てを聞き取る前に僕の景色は移り変わっていく。
「——ッ——る——ルイッッ」
彼女が僕の名前を呼んでいた。
「んあ⋯⋯おはようエリエ」
どんな夢を見ていただろうか。
覚えていない。
ただ僕は彼女を守れればいいと、それだけを強く願って彼女を抱きしめた。
ささっと手が動く通りに書いたらこんなのが出来ました。