表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

勢い任せの めでたしめでたし

 さて、無数の星が降り注いだ次の日……一人の村の若者が調子をおかしくしていました。

 なんでも彼は、夜中に森の泉に行ったそうです。オオオロチ様の言いつけを破るなんて……と言う人もいましたが、一番驚いたのはその様子でした。


「はぁ……」


 何かにつけてため息ばかり。春に備える畑仕事にも全然身が入りません。様子がおかしいと思った村人たちは、彼の様子を見てこう思いました。


「あの星の降る夜に、森の泉に行ってしまったのだろう? もしかしたらそこで、何か悪いものに取りつかれてしまったのでは……?」

「うーん……どうだべさ? そもそも村に帰ってこれねぇべ? オラたちにも特に、悪い事も起きてないし……」

「けれど夜もはっきり見えたんだろう? 何かされたんじゃ……?」

「真夜中の泉に、着物の女がいるわけがない。妖怪かモノノケだったのでは……」


 色々と考えて喋る村人たちですが、やっぱり原因は分からないままです。すっかり腑抜けてしまった村人の調子も、全然戻ってきません。困り果てた村長は言いました。


「こうなったら、オオオロチ様に見てもらうしかないべ」


 そうして若い村人を縄で縛り付けて、何人もの村人でオオオロチ様の所に行きました。相変わらずぼーっとしている若い男は、神社に辿り着いても反応が薄いです。いよいよこれは……と考えていたところに、怒ったオオオロチ様が姿を見せました。


「お前たち、何をしておる!?」


 しゃーっ! とすごい形相で、白い大蛇の神様が村人に吠えます。慌てて頭を下げる村人たちですが、若い男だけはぼーっとしたままです。村長はぺこぺこ頭を下げて事情を説明しました。


「実はこの男、あの無数の星の降る夜、森の泉に行ったそうなのです。それ以降ずっとこの有様ありさまで……村の仕事にも身が入らず、ご覧の通り腑抜けてしまいました。どうやらあの夜に、この世ならざる何かと出会ったようなのです。どうか祓っていただけないでしょうか……」


 ぬぅ、とオオオロチ様は唸ります。確かにこの男、恐ろしい姿のオオオロチ様を前にしても、全く微動だにしません。もし本当なら大変だと、オオオロチ様もじっと村人を見つめます。

 しかし、はて? 特に悪い物がくっついている様子もありません。青い瞳でじっと村人を見つめるのですが、若い男の村人は突然「あっ!?」と叫びました。

 同じように、オオオロチ様も気が付きました。この村人は流れ星が沢山降る夜に、森の泉で居合わせたあの若い村人です。夜の中帰れるようにと、自分の力を貸した相手でした。

 どうやら、村の皆を誤解させてしまったようです。気まずい思いを抱くオオオロチ様ですが、ここで若い村人は凄い力を発揮しました。

 なんとぐるぐる巻きにされた縄を引きちぎり、いきなり立ち上がったのです。周りの人がびっくりする中で、オオオロチ様に触れて叫びました。


「惚れました! オラの嫁になって下さい!!」


 周りの村人はみんなポカンとして、その後一斉に顔を青くしてしまいました。神様相手になんと恐れ多い。凍り付く村人たちの前で、しかし大蛇の神様も完全に固まっています。

 きっとすごい勢いで暴れまわるのだろう。そんな風に考えていたのですが、オオオロチ様に反応がありません。恐る恐る村人たちが神様を見つめると、突然妙な声を上げ始めました。

 そして体中をくねくねさせて身悶えます。そしてこの神様、消え入りそうな声でこう言ってしまったのです。


「…………ハイ」


 なんとオオオロチ様、この告白を受けてしまいました。

 ロマンティックな夜の森の夜空、流れる星々、隠していた正体を見抜いた若い男、そして大好きな村人からの真っ直ぐな告白! これだけ良い条件が揃ってしまったら、神様でさえ心動かされてしまったようです。周りの村人たちもびっくり仰天。突然の話に目を白黒させました。


「や、や、やった……! ありがとうごぜぇます!!」

「う、うむ……ふつつかものじゃが……」

「「「「「えーっ!?!?!?」」」」」


 ようやく周りの村人も事態が飲み込めたのか、いや飲み込めたからこそ大騒ぎ。突然の話に白黒しながら、村の男とオオオロチ様は、一緒になる事に決まったそうな。



***



 数年後、若い村の男――今は神様の神社で暮らす男は、しんみりとこういいます。


「今にして思えば、色々勢いに任せてしまったべ……」


 縁側に座る彼の隣で、着物の女性が目を細めます。


「わらわは素直になれぬからのぉ……あの勢いが無ければ、こうして夫婦めおとになる事もあるまいて。それにお陰で、村人とも仲良く話せるようになったからのぉ」


 素直になれないオオオロチ様ですが、根は村人大好きな神様でした。けれど彼と結ばれたおかげで、気持ちが村人の人に伝わりやすくなったのです。

 今は穏やかに笑いながら、人の姿のオオオロチ様がこっそり耳元で言います。


「実はのぉ……わらわ達が出会ったあの泉、今は遠くからでも人が来るようになったようでな?」

「はい? どうしてまた……」


 オオオロチ様は、クスクスと笑って言いました。


「あの泉に行って流れ星を見れば、円満に結ばれるそうじゃぞ?」

「それってまさか……」

「わらわ達の話にあやかってじゃろう。全く、夜道を守るわらわの身にもなってほしい物じゃ」


 文句を言うオオオロチ様ですが、その瞳はやっぱり優しいのです。

 ――その村では守り神と夫と、そして流れ星を見れば恋の叶う泉が、いつまでもあったそうな……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] オオオロチ様が可愛すぎて、にまにましながら読み進めました。 実は途中で、まさかオオオロチ様が身をていして村を守るとか……?と心配していたのですが、最高にハッピーな結末で万々歳です! 異類…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ