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深い夢  作者: 上原直也
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 一人暮らしをしている自分のアパートに戻ってから、僕は優貴の話が気になったので、ネットで夢について調べてみることにした。


 パソコンを起動させ、インターネット回線に接続する。それから、ヤフーの検索エンジンを使って夢について検索してみる。


 すると、六十三万件以上の夢と睡眠に関する情報が検出された。あまりにも膨大な情報量だ。とりあえず、上から順番に見ていく。


 だが、それらの情報はどれも僕が求めているものではなかった。夢占いや、人間が夢を見ているときの脳波についての説明といったものがほとんどで、僕が知りたいと思っている、人間が眠ったままになってしまった過去の事例や、眠りに関する病についての記述は見当たらなかった。


 あるいは辛抱強く全ての情報に目を通していけばそのうち僕が知りたいと思っている情報が載ったサイトにいきつくのかもしれなかったが、しかし、そうするのはあまりにも面倒だった。


 まあ、いいか、と、僕は自分に言い聞かせるように思った。もともとそれほどどうしても知りたかったわけではない。優貴に脅かされたから、ちょっと気になっていただけだ。


 そう思って、僕はインターネットの回線を閉じようとした。でも、その瞬間に、僕の視界に、気になる文章が目に飛び込んできた。


 一ヶ月前から、姉が眠ったままになってしまいました。



 検出されたサイトの見出しにはそう書かれてあった。僕は自分の動悸が早くなるのを感じた。掌が汗で湿ってくる。僕は緊張しながら、そのサイトに飛んでみた。


 アクセスした先は、個人のブログだった。このブログを書いているのは、山梨県在住の小学校六年生の男の子だということだった。

 さっそく、ブログの文章に目を通してみる。



 最近、家のなかが大変なことになっています。というのは、お姉ちゃんが眠ったままになってしまったからです。


 もう一ヶ月以上も眠り続けています。お姉ちゃんは今病院に入院して色んな検査をしてもらっているんだけど、何が原因で眠ったままになってしまったのか、原因が全然わかりません。


 お父さんもお母さんも半狂乱状態です。僕もとても心配です。だけど、どうしようもありません。このままお姉ちゃんが死んじゃうじゃないかと思うと、いてもたってもいられない気持ちになってきます。


 それに、お姉ちゃんが眠ったままになってしまったのは、たぶん僕のせいなのです。


 このことはたぶん誰も信じてくれないだろうから、まだ誰にも話していないんだけど、実を言うと、僕はお姉ちゃんが眠ったままになってしまう一ヶ月くらい前から毎日変な夢を見ていました。


 それは、僕たちが過ごしている毎日みたいに、連続して続く夢でした。目が覚めると、そこで夢が一旦中断されて、それでまた次の日に眠ると、夢の続きがはじまるといった感じです。


 その夢を見ているあいだとても怖くて仕方がありませんでした。それであるとき、僕はその毎日見ている夢について、姉に話して聞かせたのです。すると、お姉ちゃんは笑って信じていない様子だったけれど、でも、僕があまりにも怯えているので、可愛そうになったのか、大丈夫、お姉ちゃんがその夢のなかから僕を助けだしてあげると約束してくれました。



 その日、僕と姉は小さい頃よくそうしていたように、一緒の部屋で手を繋いで眠りました。いいわけするみたいだけど、いつもはそんなふうに子供みたいなことはしていません。でも、そのときは怖かったのです。とても。だから、その日は特別に姉に手を繋いで一緒に眠ってもらいました。



 気がつくと、僕はまたいつもの夢の世界に居ました。日常時間のように連続して続いていく、あの夢です。それで僕は思いました。ああ、またはじまってしまったんだ、と。この夢の世界から脱出するために姉に手を繋いでもらって眠ったけど、でも、無駄だったんだな、と、がっくりしました。


 でも、それは違いました。横で声がしたのです。振り向いてみてみると、僕のとなりには姉が驚いた顔をして立っていました。


「お姉ちゃん」

 と、僕は姉に声をかけました。

「お姉ちゃんも、僕の夢の世界に一緒について来てくれたんだね」

 と、僕は心強く思って言いました。


 姉は僕の言ったことが理解できなかったのか、しばらくのあいだ、ぽかんと口をあけて僕の顔を見つめていました。そしてやがて口を開くと、

「あんた、誠なの?」

 と、尋ねてきました。その声にはどこか怯えているような響きが混じっていました。


 僕はそうだというように頷きました。僕には何故姉がいちいち僕であるのか確認を取ってくるのかいまひとつ理解できませんでした。でも、少しして気がつきました。姉が訊きたいと思っているのはこういうことだったのです。


 つまり、いま姉の目の前に居る僕が、たんなる姉が見ている夢のなかに登場してきただけの僕なのか、それとも、さっき現実の世界のなかで夢の話をしていた僕なのか、どちらなのか、ということです。


 それで僕は姉に伝えました。僕は単なる姉の夢のなかにでてきた僕ではなく、さっきまで現実の世界で一緒にいた僕なのだ、と。これは単なる夢ではないし、姉も僕の夢の世界に入り込んでしまっているのだ、と。


 姉は僕の説明を訊いたあと、半信半疑のような、それでいて怖がっているような様子でしたが、やがて僕を安心させるように微笑みかけました。


「信じられないけど、さっきあんたが言ってたことはどうやらほんとうだったみたいね。でも、大丈夫。わたしがこの夢の世界からあんたを脱出させてあげる」

 と、姉はたぶん半分くらいは自分に言い聞かせている部分もあったのでしょうが、明るい口調で言いました。僕はその姉の言葉を聞いて安心しました。姉が一緒にいれば、なんとかこのわけのわからない世界から脱出できるんじゃないかと楽観的な気分になりました。


 でも、自体はそう簡単ではありませんでした。

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