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深い夢  作者: 上原直也
3/10

3

「ここから逃げて。」と、手で何かを指し示して言った。彼女が手で示した場所を見てみると、そこにはドアがあった。そのドアにはNO6という番号が表示されていた。


「逃げるって?」と、僕は彼女の顔を見つめて尋ねた。しかし、彼女は今度もまた僕の質問を頭から無視してそのNO6と書かれたドアを開けると、

「とにかく、このドアから外に出て行くのよ。」と、少し語気を強めて言った。僕は頷くと、もうそれ以上質問することは諦めてドアのなかに入った。


 ドアを開けてなかに入った場所は階段になっていた。青色の螺旋階段になっている。今僕がいる場所が最上階であるらしく、階段を下に下りていくことしかできないようだった。


 彼女は逃げろと言ったが、具体的にどうすればいいのかわからなかったので、とりあえず僕は今目の前にある階段を下りていくことにした。


 しかし、階段を下り始めたのはいいものの、階段は降りても降りてもどこまでも続くばかりでおよそ終わりというものがなかった。


 階段を降りはじめてから一時間ぐらいが経った頃だろうか、ようやくのことで僕は階段の終わりに行きつくことができた。


 階段を降りきった場所にはまたもうひとつの新しいドアがあった。ドアにはNO8と書かれてあった。


 僕はおかしいなと思った。確かさっき見たドアにはNO6と書かれてあったはずだ。とすると、順番的には次のドアはNO7でなければならないんじゃないかと思った。


 でも、順番というようなものはあまり関係ないのかもしれない。いいや、とにかく、次に進んでしまおう、と、僕は思った。そう思って僕がドアを開こうとした瞬間、背後から声が聞こえた。


「そのドアは違うよ。」と、背後で誰かの声がした。小さな男の子のような声だった。


 驚いて振り返ってみると、いつからそこに居たのか、ひとりの男の子が立っていた。髪の毛を額のところで綺麗に切りそろえた、女の子のような顔立ちをした男の子だった。もしかすると、ほんとうに女の子なのかもしれない。


「そのドアは違うよ。」と、男の子は繰り返して言った。「本当のドアはさっきおばあちゃんが隠しちゃったんだ。」

 僕が突然のことに戸惑っていると、男の子は更に続けて言った。

「お兄ちゃんがグズグズしてるからいけないんだ。お兄ちゃんが階段を下りてきてる間におばあちゃんがドアを持っていっちゃったんだよ。階段なんて無視してすぐにここに来てれば間に合ったのに。」


「・・だけど、階段を無視することなんてできないよ。」

と、僕は男の子に向かっていいわけするように言った。

「だって、階段を下りないことにはここにはたどり着けないんだから。」


「そんなことないよ。」と、男の子は言った。「だってここはお兄ちゃんの夢のなかなんだよ。まあ、正確には完全なお兄ちゃんの夢じゃないけどね。でも、まだここは境目みたいなところだから、お兄ちゃんの意思の力もある程度有効なんだよ。だから、お兄ちゃんが階段なんてないんだって思えば階段なんてなくなってたんだ。」


「今更そんなこと言われたって困るよ。」と、僕はほんとうに困って言った。


「お兄ちゃんは大人だからそれくらいわかると思ったけどな。」と、男の子は失望したように言った。


 僅かな沈黙があった。


「ねえ」と、僕は少年に語りかけてみた。「なんとかならないのかな。その・・おばあちゃんがどこにその本当のドアを隠しちゃったのか、君は知らないのかな?」

 男の子は僕の問いに頭を振った。

「おばあちゃんはすごく用心深いひとだから、そんなこと僕たちに教えたりしないよ。それにもし知ってたとしても、それを教えることなんてできないよ。」


「どうして?」

「そんなことをしたら、今度は僕たちがひどい目に合わされちゃうからさ。」

「ひどい目って?」

「とにかく、ひどい目だよ。」と、男の子は言った。そう言ったとき、男の子はほんとうに怯えるような表情を浮かべた。


 それから、男の子はハッとしたように表情を強張らせた。


「どうかしたの?」と、僕は恐ろしくなって訊いた。

「アイツラだ。」と、男の子は緊迫した口調で言った。

「僕たちの話し声を聞きつけてやってきたみたいだ」と、男の子は言った。


「お兄ちゃん、悪いけど、もう僕いくね。だって、アイツラにつかまるわけにはいなかいもの。お兄ちゃんも早くここから逃げた方がいいよ。」

 男の子はそう言うと、僕の立っている脇をすり抜けて、NO8と書かれたドアを開けてそのドアの向こうへと消えていった。


 僕は少しの間、男の子が消えていったNO8と書かれたドアの前に立ち尽くしていた。一体どうすればいいのかわからなかった。しばらくすると、どこからともなくさっき聞いたシュルルという何か生き物の息遣いのような音が聞こえてきた。そしてその音は確実にこちらに向かって近づいてきているようだった。


 僕は少し躊躇ってから、目の前にあるNO8と書かれたドアを開けた。



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