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深い夢  作者: 上原直也
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最近毎日夢を見る。奇妙な夢だ。まるで物語のように昨日見た夢と、今日見た夢が繋がっているのだ。最初の数日間は特に気にも留めなかったのだが、それがもう二週間近くにも渡って続くとなると、さすがに不気味に思えてくる。


 その夢のはじまりはいつも決まってこうだ。まず僕がひとつのドアの前に立っている。あたりは薄暗くて、ほのかに青色の色素を浴びたような淡い闇に包まれている。


 目の前にはただひとつのドアだけがある。あとは何もない。ドアがある以外の箇所はぜんぶ壁になっている。壁といっても、それは文字通りに聳え立つようにやたらと高い壁だ。


垂直に延びた壁が果てしなく続き、その終わりは見えない。左右両方方向にもやはり同じように壁がずっと延々と続いている。背後の空間は白い靄のようなものにつつまれていて何もわからない。


 僕は少し躊躇ってから、目の前のドアを開く。ドアのノブは金色でひんやりとしている。


 ドアを開けると、ピアノの音が微かに聞こえてくる。とても哀しげな感じのするピアノの音だ。まるで女のひとがしくしくと泣いているような。あるいは冬の寒い日に静かに降る雨音のような。


 周囲の空間はかなり薄暗いが、でも、全くに何も見えないというほどではない。ドアを開けた向こう側は、かなり広い空間になっているようだった。薄暗いせいでその空間がいったいどれくらい向こう側まで広がっているのかは検討もつかなかった。床や壁の色は全部深い青色で、そのせいか妙に寒々しく感じられた。


 ピアノの音はかなり遠く離れた場所から聞こえてくるようだった。僕は聞こえてくるピアノの音を頼りに、どこか冷たい感じのする、青暗い闇のなかを恐る恐る歩いていった。


 どれくらい歩いただろうか。時間にして十五分か二十分くらい。やがて僕は奥の右隅の空間に、ピアノを弾いているらしい、人影を見つけた。シルエットだけなので正確なところはわからなかったが、恐らくピアノを弾いているのは女の人だと思われた。髪の長い、華奢な感じのする女性だ。


 いよいよピアノの音がはっきりと聞こえてくるところまで近づいていくと、さっきまで聞こえていたピアノの音はぱったりと止んでしまった。僕の存在に気がついた女の人が演奏するのを止めてしまったのだろう。彼女を警戒させてしまったかと思ったけれど、でも、僕は思い切って彼女がいるところまで近づいていってみることにした。


 ピアノの前に座っていたのは、思っていたとおり女の人だった。濃い青色の色素を含んだ闇のなかでは彼女の顔をはっきりと見てとることは不可能だったけれど、それでも彼女が整った顔立ちをしていることはなんとなくわかった。


 歳の頃は二十歳前後といったところだろうか。二対の美しい、でも、どこか哀しげな感じのする瞳で彼女は僕の顔をじっと見つめてきた。僕は何か喋らなくてはと思って口を開きかけたけれど、でも、それを制するように彼女の方がさきに口を開いた。

「どうして来てしまったの?」

 と、彼女は言った。

 


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