9話
鼓動が早くなると共に冷や汗の量が増えるのを確信する。脳裏に浮かぶ「死」の文字が徐々に強くなって行ってる気がするのは確かだろう。
これは殺し合い、人の言葉をそんなに簡単に信じれはしない、俺と凛姉さんのようにあんな出逢い方をしない限りは。
脳をフル回転させて考える。この状況はどうすれば打破できる。俺が持っているのはアタッシュケースとナイフ、神崎☆グングニルのみだ。・・・いや、これなら案外何とか出来るかもしれないぞ?
俺は既にリーダーシップ男を殺す選択肢しか頭になかった。
「はい。どうぞ・・・」
左手でアタッシュケースをリーダーシップ男に突き出す。
「っふ、物分りのいい子供だ」
そしてリーダーシップ男は一歩俺に近づき、銃を持っていない左手でアタッシュケースを受け取ろうとする。
人間は勝ちを確信した時が1番敗北に近い。
アタッシュケースの右側から一気に飛び出る神崎☆グングニル。リーダーシップ男からは死角から急に出てきたように見えるだろう。
そんな攻撃を避けれるはずもなく、神崎☆グングニルがリーダーシップ男の腹に突き刺さる。
この前テレビでやってた格闘技特集言う番組で見た足払いをすると、意外にも完璧に決り、地面へと転ぶ。
俺はすぐさま立ち上がり、走る。
「クソガキが!」
背後からそんな声がすると同時に1つの発砲音。そのコンマ数秒後に俺の左腕に何かが掠る。左腕から止めどなく流れる血液を無視しながら俺は走り続けた。
「だ、大丈夫!?」
洞窟に戻ってくるなり、心配そうに駆け寄ってくる凛姉さん。俺の異常ぶりに気づいたのだろう。左腕からは未だに血がドクドクと流れ、洋服は既に真っ赤だ。でも、それ以上にアドレナリンなどが放出されて特に痛みもない。
それ以上に俺の頭を支配するものがある。
また殺ってしまった。人を殺してしまった。午前中と同じような感情がふつふつと頭の中にまた湧いてくる。
自分が人ではなくなるような感覚・・・それが最高に気持ち悪く、最悪な気分になっていく。だから、俺はまた心配そうに近づいてくる凛姉さんを抱きしめた。
そして俺は落ち着いていく。
今日はもう左腕に包帯を巻いて寝ることにした。
明日はアタッシュケースの中を見てみることにしよう。そう思っていると、腕の痛みが徐々に強くなっていくので、目を瞑り、何も考えずにしているといつの間にか俺は熟睡していた。