6話
洞窟に戻ってくるなり、外は雨が降り出した。
少女を適当に座らせ、俺は膝から崩れ落ちるようにして地面に両手を付ける。
「はぁはぁ・・・ゲホッゲホッ」
少女1人を担いでダッシュは疲れた。でも、それ以上に俺は中年男性を刺した感覚の方が気持ち悪い。
肉を裂き、心臓にナイフが刺さる感覚・・・・今でもこの手に残っている。
俺は・・・・人を殺した。
死んだ所を見た訳でもないが、心臓にナイフが刺さったんだ。死んでいないわけがない。ナイフには血がべっとりと付いていて、それが何よりの証拠だ。
俺は殺人犯。もう元の日常に戻ることが出来ない。この手で人を殺めたのだから。
脳内で「人殺し」という文字が無限に羅列されている。
なんだか自分が人間では無くなった気分だ。
「あ、あのー・・・」
俺が自分の罪を意識していると、助けた少女が言葉を発する。
「どうも、ありがとうございま・・・・っ・・・」
土下座をしようとした少女は途中で足首を抑えながら体制を崩してしまう。
「ちょ・・・」
すぐに近寄り、抱き抱える。身体は俺よりも2回りぐらい小さく、その上食事も満足に出来ていない状況なのでとても軽い。
「っあ!」
リュックの中から湿布やテーピングを取り出し、器用な手つきで少女の足に巻いていく。
「・・・よし!これでゆっくりなら歩く事ぐらいならできますよ。」
湿布を貼り、その上からテーピングでガチガチに固めた。ホント、リュックの中にあって良かったよ。
「ありがとうございます」
「捻挫と言ってもさほど大きなものじゃないから、3日ぐらいすれば元に戻りますよ。今は捻挫したてで痛いでしょうけど」
少女の気持ちを少しでも楽にするためにそう言う。怪我はいつになったら治るのか・・・・そうゆう不安がすごく大きいからな。
「上手なんですね」
「まぁ、バレー部ですから」
と、言ってももう部活なんてできないんだろうけど・・・・なんてったって、俺は人を殺したのだから。
あぁ、少女との会話で少し気を紛らわす事ができていたが、なんだかまた「人殺し」の文字が頭に入ってくる。
この感じ、自分が人間では無くなる感じ・・・とても嫌だ。
「何かお礼をさせていただけますか?こんな足なので特に出来ることはないですけど」
少女は俺を心配そうに見ながらそう言う。俺の気分が少し落ちたのに気づいたからだろうか?分からない。
まぁいい、そんな事よりお礼か・・・・何かあるかな?
そして考え出した結果が・・・
「ハグを・・・してくれませんか?」