製作する彼女と俺
さく、さく、さく。
静かなハサミの音が、教室に響く。今ここには、俺と彼女以外、誰もいない。
なぜ俺が女子と教室で2人きりなのか。理由はただひとつ。係だからだ。
文化祭の2日前である今日、やたらと合唱に力を入れる担任が、終わりのホームルームで、みんなのメッセージを書いた寄せ書きを貼り出そうと言い出した。朝に配られた40枚近くのメッセージカードたちは、終わりのホームルームで様々な言葉を乗せて担任の元へ帰ってきた。
「よし、みんなありがとう。このメッセージカードは紙に貼って、後ろに貼っておくからな」
担任はホームルームを終えた。そして帰ろうとする俺と彼女──前園さんに声をかけた。
「森下と前園、掲示係だったよなあ?悪いけど、こいつら、この紙に貼っておいてくれるか?」
担任はそう言って、例のメッセージカードと大きなボール紙を指さした。係だからというなら断る理由などない。分かりました、と言って俺たちはカバンを置いた。
机を6個くっつけてボール紙を広げ、ハサミでサイズを調整して貼りつけていく。単純作業だが、俺はこういうのは嫌いじゃないので、黙々と進めていった。前園さんもハサミを動かす手を止めない。前園さんはクラスではあまりみんなと話すことはない。むしろ自分の席で本ばかり読んでいる、いわゆる陰キャと言われる部類だ。でも俺はいつでも頭が痛くなるほどギャーギャー騒いでるような女子よりかは、こういう人のほうが好きだったりする。俺も友達が多くはないので、そういうところに近しいものを感じるのだろうか。
作業を続けていると、ひとつのメッセージカードに目が止まった。
「皆で力を合わせて頑張る 前園咲」
前園さんのだ。しかもこれはもう切ってある。それも切り絵のような、繊細な形。
「、、、森下くん?」
あんぐりと口を開けている俺を見た前園さんの声で、俺は我に帰った。
「大丈夫?」
「ああ、全然大丈夫!それより前園さん、これ綺麗だねえ」
思わず口から出た言葉に、前園さんは意外な反応を示した。
「マジで?やった、、、!」
笑顔で小さくガッツポーズをする前園さん。こんな顔して笑うんだ、、、こんなに無邪気な一面あるんだ、、、
「よくすんの?切り絵とか」
「切り絵はそんなにかな、、、」
「マジで?それであの上手さかあ」
「あ、でも絵はよく描く。プラモとかも」
「プラモは俺もよくする。こないだも日産のスポーツカー完成さしたんだ」
「私はお城系かなあ」
ぽんぽんと続く会話。やっぱこういう人との会話はしやすいな。
そうこうしているうちに40枚のメッセージは全て貼りあげられた。
「なんか寂しいし、文字でも書かねえ?『3-2、絶対優勝!』みたいなさ」
俺の提案に前園さんは賛成してくれ、俺たちは文字を書き始めた。前園さんは綺麗な色とフォントで3-2、の文字を書いてくれた。
「完璧だわこれ、、、」
「うん、最高の出来だよ!」
そう言って前園さんは、こちらに笑顔を向けてくれた。正直、かなりかわいくて、膝から崩れ落ちそうになった。
「いやあ、最高だ。ありがとう前園さん」
「私こそ、森下くんとやれてよかった。ありがとね」
そのあと俺たちは担任に完成を報告して、学校から出た。またあんな時間がくればいいなと、俺は希望を持ちながら前園さんと別れた。