⑦双剣の剣士
僕は目を開けた。
そこには魔獣が仁王立ちで絶命していたのだ。
魔獣の背中からひょこっと顔を出してきたのは
髪が少し青く、
剣士のような立ち振る舞いの
真っ直ぐな瞳が印象的な青年だった。
青年は2本の剣を両手に持ち、
肩にはなぜか小さなパンダがしがみついて乗っていた。
「この熊もらっていいか?」
青年からの突然の問いに、
僕は頷くしか出来なかった。
「あんちゃん助かったよ!
えれぇつえーんだなぁ!」
僕の後ろにいる商人のおじさんからの声だった。
「こっちのあんちゃんもありがとな!
自分の身を投げ出してまで
おじさんのこと守ろうとしてくれて……
おじさん、泣きそうになったよ。」
おじさんは何もしていない僕にも
感謝の言葉を送ってくれた。
ザナトス「……それは熊のモンスターじゃなく
"魔獣"ですよ?(クイッ)」
兄さんがこちらに来てはそう言った。
「え⁈
これが魔獣かぁー
どおりで硬いと思ったわぁー
山の村の人達が言ってたのはコイツかぁ」
青年は2本の剣を背中にしまい、
代わりに腰に持っていた剥ぎ取りナイフで
魔獣を解体しはじめたのだった。
手慣れた感じだったので、
おそらくこの山に住んでいる住人の人だろうなっと、僕はそう思いながら見ていた。
でもこれは僕の勘違いだった。
ザナトス「愚弟を助けていただき、
誠にありがとうございます。
私の名前はザナトス。
こっちの弟がジナトス。
そしてこちらが商人のおじさんです。」
兄さんが丁寧に挨拶をしていた。
凄腕の青年は
魔獣の解体をしながらも
僕達に自己紹介をしてくれた。
「それはご丁寧にどうも。
俺の名前は『りゅのくん』って言います。
元々は『りゅの』って名前だったんだけど、
この近くの山に住んでる村の人達から
『りゅのさま』って呼ばれるようになって、
それが嫌だったから
もういっそのこと、
『りゅのくん』って名前にしたんだよね。」
……すごい理由だね。
聞けばこの『りゅのくん』は武者修行の最中で、
今はこの山の近くの村で寝床を借りて
生活をさせて貰っているみたいだ。
村の人から宿を貸して貰っているお礼に
周りのモンスターを次々に狩っては
その素材を村に提供しているんだってさ。
そして魔獣がこの山に現れたから
村の人達から討伐してほしいとお願いされていたとのこと。
「オークの集団が現れたって
さっき冒険者が村まで
助けを求めてきたからさぁ
急いで来てみたら、
まさか探していた魔獣にでくわすなんてなぁ」
商人のおじさんを置いて逃げた狩人の冒険者のことだろう。
りゅのくんの解体作業が終わったみたいだ。
商人のおじさんが山を越えた街まで行くので、
途中の山の中にある村まで
りゅのくんを乗せて僕達も出発した。
馬車の中でも僕達はお互いのことを話した。
りゅのくんの肩にしがみついているパンダが
魔獣のお肉を美味しそうに食べている。
……笹を食べるってわけじゃないんだねきみ。
モンスターの子パンダだ。
とてもモフモフしている。
触ったら絶対に気持ちいいやつだ。
僕は勉強不足だから
このモンスターのパンダの種類を知らなかった。
ザナトス「珍しいですね。
ジャイアントモフリンパンダの子供が
人に懐くなんて。(クイッ)」
さすが物知りな兄さんだ。
兄さんは2本の指で眼鏡をクイッとあげては
この小さなパンダのことを不思議そうに見ていた。
りゅのくん「へぇーこのパンダ、、、
そんな名前だったんだぁ」モフモフ
りゅのくんもはじめてパンダの種類を知ったみたいだ
お肉を かじかじ している子パンダの頭を
可愛がるようにモフっていた。
「こいつとはこの山に来た時に出会ったんだぁ
こいつが罠に掛かってる所を助けたらさぁ
なんか懐いちゃったんだよなぁ
その時から
もう親のパンダは見当たらなかったから、
親は魔獣にでも食べられたのかもなぁ……」
りゅのくんは哀しい瞳をしながら
肩にしがみついている子パンダの頭を
さらにモフモフしてあげた。
子パンダ「きゅぅー♪」
なんとも可愛いらしい鳴き声だった。