③
商人のおじさんは二つ返事で了承してくれた。
僕達はオークの集団を迎え撃つ為、急いで作戦を立てることにしたんだ。
変な髪型の二人組が自信なさそうに、僕達の前衛を引き受けてくれると約束してくれた。
作戦はすごく簡単だよ。
前衛の二人組が耐えてる間、
後衛である僕達二人の兄弟が、魔法を使ってオークの集団を倒していく。
シンプルな作戦。
どう?完璧でしょ?
「安心してよ。
オークぐらい、僕の魔法でイチコロさ♪」
僕は得意気になり、目を閉じては胸を張った。
おぉー!
っと、みんなから歓声が上がったが、
兄さんだけは関心なさそうに無表情で黙って眼鏡を拭いていた。
しばらくすると、
反対側からオークの集団が登って来たのだ。
その数はなんと5体!
でもその顔は、5体ともなぜか焦っているような、
そんな焦燥感が滲み出てるような表情をしていた。
オークの特徴は、
顔は豚みたいな顔。
体格は大きいけど、ぶよぶよとした、だらしない身体をしている。
例えるなら、二足歩行する身体のおっきな豚男って感じ。
オークの一体ずつの違いなんて僕にはわからない。
それは僕だけじゃないかも、、、
モンスターの個体の違いなんて、人間では
はっきりと識別するのは難しいと思う。
それはモンスター側から僕達、人間を見ても同じことだと思うよ。
人間を見ても、オスとメスの違いぐらいしか認識してないんじゃないかなぁ。
気になるオーク達の武装はと言うと、
装備は手に武器を持っているぐらい。
下半身を布で隠す程度の軽装備。
槍を手に持つオークが3体。
ロングソードの剥き出しの刃を、地面に擦り引きずって歩いているのが1体。
最後尾を歩いている1体は、盾とショートソードを装備していた。
そしてなぜか5体とも、時おり後ろを気にしては、振り向きながら急ぎ足で歩いていたのだ。
「ーー⁈」
オーク達が前方にいる僕達に気付き、一瞬だけ立ち止まった。
そしてすぐさま、勢いよくこちらに向かって突進してきたのだ。
「ブフォォォ!!」
豚の鳴き声にも似た、そんなオーク達の雄叫びが、僕達の耳に届いた。
まるでこの豚男たちはみんなして、
『そこをどけっ!!』っとでも言っているかのようだった。
5体のオーク達は地響きを鳴らしながら向かってきている。
僕達の足元を震動させた。
商人のおじさんのコネルトさんは、地響きを聞いては、すぐさま荷馬車の中へと身を隠した。
その姿はまるで、
子供がカーテンの隙間から顔を出して覗いてくるように、コネルトさんは隙間から顔を出してはこちらの様子を伺っていたのだ。
なんだかこのおじさんがちょっと可愛く見えてきた。
「き、来たぞ!」
商人のおじさんの視線の先はもちろん、
勢いよくこちらに突進してくるオーク達。
作戦通り前衛を任されている変な髪型の二人組の冒険者達は、棍棒のような武器を身構えては応戦するつもりのようだ。
しかし二人のその顔は、
勇敢に立ち向かう戦士の顔ではなく、、、
焦りと困惑が入り混じったかのような、
まるで初めて戦闘をするかのような、
怯えと恐怖を持った、そんな新米の冒険者のような顔を、この二人組は隠すこともなく晒していた。
オークの集団が変な髪型の二人組に向かってきた。
「お、おぃ!
『ザナジナブラザーズ』!
さっ、作戦通り、たっ、頼むからなっ⁈」
変な髪型の1人が、震える声でそう言っては顔だけ振り向き、少し離れている後ろの僕達の方をチラ見した。
「任せて!」
僕は頷き、
持っている杖を両手で前に押し出し目を閉じた。
そしてそのまま、僕は呪文の詠唱を始めた。
「小さき旋風よ、風の刃となり、我が敵を切り裂け、
下位魔法ーー〈風刃疾風斬〉!」
僕の杖から大きな風の刃が空気を切り裂き、オークの集団に向かって水平に飛んでいった。
これでオーク達の胴体は二つに切り裂かれること間違いないだろうね。
前衛の変な髪型の二人組に当てないように魔法を放つなんて。
さすがは僕だ。
つくづく自分の才能に惚れ惚れするよ。
誰が「優秀な兄に、ポンコツの弟」だなんて言っているのやら。
まったく。
ーーざくっ
水平に飛んで行った風の刃は、先頭を走っていたオークに見事に当たった。
そう、当たったのだ。
いや、たしかに当たったんだけどね、、、
あ、あれ??
オークの集団は何事も無かったかのように、勢い変わらず、変な髪型の二人組に迫ってきていた。
僕の目は点になっていた。
「……は、はは、これは呪文の選択を、ミスっちゃったかも。」
乾いた声で僕はそう苦笑いをしながら小声でつぶやいた。
『『おぃぃぃ!!
やっぱりポンコツじゃねーーか!!!』』
オークの集団が目の前まで迫って来ているのに、ちゃんとツッコミを入れてくる変な髪型の二人組。
その目が涙目になっていたなんてことは、言うまでもないことだった。
……ごめんなさい。グゥの音も出ないです。