⑧
「りゅのくんすごいや!
このまま勝ち進んで魔剣を貰っちゃおう!♪」
僕らはVIPルームの観客席からりゅのくんが優勝することを願った。
僕達の期待通り、
りゅのくんは順調に勝ち進んでいったのだ。
次はいよいよ決勝戦だ。
無敗のチャンピオンはどんな人なんだろ??
そう思っていた時に、
審判が闘技場の真ん中に来ては
マイクを握りしめ
声高々とマイクパフォーマンスをしだした。
『さぁ!観客の皆様、お待ちかねッ!!
決勝戦はこのカード!
ここまで勝ち進んで来た青年、
"双剣の剣士りゅのくん"
VS
我らが誇る無敗のチャンピオン、
"ハンフリーのそっくりさんドンフリー"
の登場だぁぁー!!』
ワァー
ワァー
闘技場の観客席からものすごい勢いで歓声が響き渡る。
響き渡る歓声と共に現れたのは、
見た目がハゲ頭で体格はマッチョ、
顔付きがどことなくドラクエ11に出てくるあの格闘家に似ていた。
頭にバンダナでもすれば、まさにそっくりさんだ。
ドラクエ11をまだプレイしていない人がいたら、
それは人生の半分を損しているだろう。
そもそもドラクエとはーーー
あぶない、あぶない。
怒られそうなのでこの辺で……
(……え???
あのハゲの人がチャンピオンだって⁈⁈⁈)
僕はチャンピオンの姿を見て驚愕した。
対峙しているりゅのくんも、
驚きの表情を隠せない様子だった。
「うそだろ⁈
まさかさっきのやつがチャンピオンだったのかよ……」
チラッと僕達の方を気にして見てくれたりゅのくん。
りゅのくんの言う通り、
チャンピオンはエリーナ姫を攫おうとしたあのスキンヘッドの男だったのだ。
ドンフリー「……また会ったな。
邪魔された礼は返すぜ。」
スキンヘッドのチャンピオンは目を細めてそう言った。
『さぁ!決勝戦の開始だぁー!!
レディ〜ファイ!!!』ーーカーン。
ゴングが鳴り響いたと同時に、
りゅのくんは2本の剣を構えた。
ここまで1本の剣だけで戦ってきたりゅのくん
気力を抑える為の作戦だったのだろう。
チャンピオン相手には全力で戦うみたいだ。
スキンヘッドのチャンピオンも開始早々に
自身の気力を上げ、
身体能力を最大まで高めた。
気力を纏った両手の拳が、やたらとデカく思えた。
僕はあのチャンピオンが悪いやつだとボルド伯爵にすぐに伝えることにした。
「ボルド伯爵!
今すぐあのチャンピオンを捕まえてっ!!
エリーナ姫を攫おうとした人なんです!
【光の教団】って言う、
なんか変な組織の一員みたい!!」
僕は慌てて声をあげた。
VIPルームで僕達と同じく観戦しているこの闘技場のオーナー、ボルド伯爵。
「……クックック」
ボルド伯爵はワインが入ったグラスを片手に持ち、
もう片方の手は顔を隠すようにかざしていた。
必死に笑いを堪えている様子だった。
「な、何がおかしいにょ……??
はっ、はらく……ちゅか……ま……ッ⁈
(なんだ⁈
舌が痺れて上手く話せないぞ⁈
まっ、まさか⁈
飲み物に毒がッッーー⁈⁈)
どうしよっ……
調子に乗って2杯も飲んじゃった……)
僕はだんだんと苦しくなり、
喉を抑えながら椅子からよろめくようにして、
床へと膝を突く形となってしまった。
見れば隣に座っていたエリーナ姫も、
同じく喉を抑えながら苦しそうにうずくまっていた。
「……いやはや可笑しいですね。
今頃気付くなんて。
変な組織とは失礼な。
私も【光の教団】の一員なのですよ。」
うすら笑みを浮かべながら、
エリーナ姫に近寄るボルド伯爵。
「私もザリフ司祭様のお考えには賛同しているのです。
勇者の血が流れていない王族や貴族など無用。
勇者の血を持つ者こそが、
【魔獣王】の脅威に立ち向かえる真の【英雄】なのですから!」
ボルド伯爵はグラスを手に持ったまま
両手を広げてクルクルと部屋をまわりだした。
自身の理想を掲げて夢心地なのだろう。
(く、苦しい……
この毒の苦しみさえなければぁぁぁぁ
ボルド伯爵のあの、
両手を広げてクルクルクル〜って小躍りしてるやつを、
TikTokに上げてバズること間違いなしだったのにぃー!!
おじさんがワイン片手にクルクル〜って、
リアクションに困るよ!
く、くやちぃー!!!)
僕は喉を抑えながらそんなことを思っていた。
「ジナトス、
アホは死んでも治らないことを、
その身で証明するつもりか?」(クイッ)
この声は兄さん⁈
あっ、
そう言えば兄さんは出された飲み物を飲んでなかったね。
流石だね!
僕なんておかわりしたもんね!
いいぞぉー!兄さーん!
TikTokに載せてやれぇぇぇー!!
ザナトス「……(クイッ)」
兄さんからの無言の圧力だった。
……じょ、冗談だよ。
それより、
苦しいから早く助けてください。お願いします。