プロローグ
立派な館の地下室に、
黒いローブに身を纏う怪しげな集団がいた。
その集団は〈秘密の会談〉をしていたのだ。
秘密の会談、、、それは……
『この世界で脅威となっている魔獣。
それを従えることのできる存在、【魔獣王】を復活させよう。
そして人類の味方に付けさせよう』
っと、
このように黒いローブを身に纏った集団は企んでいるのだ。
しかし、
その会談に参加していた二人の兄弟が、
自らの父親に意を唱えた。
「父さん!
何を言ってるのですか!
『魔獣を手懐』などと、
そんなことが可能だと、
本気でおっしゃっているのですか?」
眼鏡をかけた若い青年が、珍しく声を荒げてそう言った。
彼は普段は冷静な物言いだからだ。
心配そうに言葉を続けた。
「私が読み解いた【古の禁忌目録】の1ページには、
『【魔獣王】は魔獣達をパワーアップさせ、
世界に災厄や混沌をもたらすだろう』
っと、
そう記述されているのですよ?」
少し落ち着いたのか、若い青年はご自慢の眼鏡を2本の指でクイッと上げ、
〈秘密の会談〉の内容を真っ向から否定した。
この青年に同調するように、隣で聞いていたもう一人の若い魔法使いの青年も、声を震わせては兄へと続き便乗した。
「兄さんの言う通りだよっ!
父さんッ!それに他の人達もみんな聞いてっ!
この計画は良い面ばかり見てるよ!
即刻に中止するべきだよっ!!」
弟と思われる若い魔法使いの青年も、
【魔獣王】の復活には断固として反対の様子だった。
しかし、、、
優秀な魔法使い。凡才の魔法使い。この二人から反対されようが、
この怪しげな集団達の意思は変わらなかった。
「ザナトス……ジナトス……
お前たち兄弟はここに残りなさい。
この計画は、
私達の長年の夢でもあり、一族の目標なのだよ。
ようやく、"魔獣王の復活"の手段が見つかったんだ。
どこかの地に眠る【光と闇の双子】と言う存在によって、
代償を支払うことになるのだが、、、
その代わり、
その双子はなんでも願いを叶えてくれるらしいのだよ。
大丈夫さ。心配はいらない。
お前たちはここで、
私達の成功を祈って帰りを待っていてくれ。」
二人の父親らしい人物は、兄弟に向けそう言い聞かせた。
二人の兄弟を残し、
黒いローブを着た集団は立派な館を後に去っていった。
残された二人の兄弟は、怪しい集団を説得すること虚しく、肩を落とし、父親たちの無事を祈った。
結論から言ってしまおう。
黒いローブを着た集団は『魔獣王の復活に成功した』。
しかし、、、
その集団はこの館へと二度と帰ってくることはなかったのだ。
復活した【魔獣王】は凶暴で恐ろしかった。
当然、人類の味方などするはずもなく、
魔獣達を従えては世界を絶望へと陥れようと、
大陸中で暴れまわったからだ。
【魔獣王】は最初に古の知識でもある《エルフの隠れ里》を狙った。
次に〈魔法剣士〉が多数いる《赤髪の一族の村》を襲撃した。
【魔獣王】は自分達の驚異となる、この二つの強敵の存在を、
真っ先に潰しに行ったのだ。
二つの部族は【魔獣王】に対して奮闘した。
しかし残念ながら、、、
【魔獣王】に手傷を負わせたものの、大陸ごと滅ぼされてしまったのだ。
大陸が滅ぼされ、【魔獣王】の出現に世界の人々は恐怖し、混乱した。
平和な世から一転して、世界の危機と化してしまったのだ。
世界の危機を防ぐ為に、それぞれの国が団結することを誓った。
そして、いつしか人は、【魔獣王】を倒せる勇者や英雄が現れることを心の底から望んだ。
【魔獣王】が暴れ回っていることを知った二人の兄弟は、父親とその仲間達が生きてはいないことを嘆いた。
「兄さん、、、このままじゃ世界が」
弟と思われる青年が、心配そうに眼鏡をかけた兄に声をかけた。
「えぇ。……魔獣王を止めなくてはいけませんね。」
眼鏡の青年は2本の指でクイッと眼鏡をかけ直しながら、
自分達の責任だと、どこか負い目を感じていた。
「でもどうやって?
兄さんの持つ魔法がすごいのはわかるけど、
エルフの人達や、"赤髪の一族"でさえ、
魔獣王に勝てなかったんだよ?」
無知な弟が優秀な兄に問い、答えを求めた。
魔獣に対して特化した職業のはずの魔法剣士でさえ、
勝てなかった存在に、
驚異的な存在に、
たかだか人の身である魔法使いが圧倒的な強さの【魔獣王】に勝てる未来が想像できなかったからだ。
その問いに、優秀な兄は静かに答えた。
「……。
遥か昔に、
『勇者』が【魔王】を倒した際に集めたと伝えられている【7本の魔剣】。
それらを私達で集めてみるしかないですね。
もしかしたら、、、
それで魔獣王を討ち倒せるかも知れない……」
優秀な兄が答えてみたものの、彼にもそれが正解か本当かもわからず、伝承に対しての確信は持てなかった。
そんな兄の気持ちなど理解せず、
「わかった!集めてみようよ!」
っと、
驚くほど楽観的な返事を弟が告げた。
兄とは対象的だった。
兄に対して絶対の信頼をしているのか、
都市伝説にも似た、神話のような話にもかかわらず、
弟は兄の言葉を信じた。
「兄さんが言うなら間違いない!」っとでも言っているかのような、そんな強い信頼と自信がそこにはあった。
こうして二人の兄弟は、【魔獣王】を倒すべく、
【7本の魔剣】を探す旅へと動き出した。