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中学でイジメに合い、引き篭もり続けて早30年。
進学も就職も何も気力を持てなかった。
それほどに、イジメは過酷で、死のうともした。
けれど…
『居てくれるだけでいいんだ』
そう言っていつも支え続けてくれた両親を思うと、死にたくてもその選択を選ぶことは出来なかった。
グダグダと引き篭もり生活を続ける私がハマったのは、某錬金術のゲームだ。
多数シリーズ化されており、その全てのシナリオを見て、イベントを埋め、何度となく繰り返してきた。
そんな惰性な生活を送っていて尚、両親は優しかった。
働けなど言われたこともない。
私はさらにゲームの世界にどっぷりと浸かっていった。
そんな30年。
昨日、両親が亡くなった。
久々に見る親戚は、私がいることさえ忘れていたのか、見つけると驚く様子を見せる。
驚いた後は、親戚たちが塊になってこちらを見ながらもコソコソと話しをしている。
結構広めの会場を用意したつもりだったけれど、想像以上の親戚たちの塊がそこらに点在する。
これだけ多くの親戚が葬式に現れたのには理由がある。
私の両親の遺産だ。
両親は医者をしていたので、経済的には裕福な家庭だったと思う。
周りの親戚は、普通の一般家庭、もしくは私とどっこいどっこいな人も。
そんなわけで、私を久しく見ていなかった彼らは、両親の遺産を貰えると思って出てきたのだろう。
「***ちゃん、本当に突然のことだったね…
おばさんたちで良ければ、力になるよ?」
「いやいや、私たちの方が力になれるよ!」
私が生きていたとわかると、今度は私に群がる親戚たち。
「結構です。私ももう大人なので、誰の力も借りず、1人で生きていきます。」
「何を言っているんだ!
今まで引き篭っていたのに1人で生きていけるものか!」
「これだから引き篭りは…」
「世の中の事なんてこれっぽっちもわからないんだから…」
チラッと覗く彼らの本性。
この引き篭もりめってどうせ人を蔑んで見てるんだろ。
「両親が私に残してくれた遺産もあります。
1人で十分生きていけますのでご心配なく。
それでは、皆さん、そろそろお暇させて頂きます。
こちらのお料理やお酒は皆さんでどうぞ。」
そう言って葬式の式場を後にする。
わざわざ家に呼ばず、全てを式場で葬式を執り行ったのは、絶対に親戚連中が煩わしくなると分かっていたから。
本当に家に来させないで良かった。
1人溜息をつき、呼んでいたタクシーに乗り込み帰路に着く。
家のテーブルには、両親が残してくれた遺産とその相続について、これからの段取りなどが広げてある。
これは、もしもの時を思い、私が慌てず行動出来るよう、親戚に乗っ取られないよう、両親から預けられていた物だ。
これがあったから落ち着いて行動できた。
これからやらなければならないこともわかる。
だけど…
私は、私の最大の理解者を一夜にして2人とも亡くしてしまった…。
2人しか居なかった私の理解者…。
「一人にしないでよ…」
今まで我慢していた涙が堰を切ったように止めどなく溢れ、子どものように声を上げて泣き叫ぶ。
ここには、涙を拭ってくれるあの優しい指先も、大丈夫だと掛けてくれる安心感のある声も、抱きしめてくれる大きくて暖かな体温もない。
あるのはただ、冷たく重たい空気だけ。
『おばさんがいい歳こいて恥ずかしい』
そう言われたとしてもいい。
切なくて、寂しくて、これからの虚無な生活を思い、また泣いて。
そのまま床の上で崩れ落ちたまま眠りに落ちる…
両親が亡くなり、更に気力の無くなった私は、ただ只管ソファーに座り、庭の景色を眺めて過ごす。
幾つもの季節が変わり、幾つもの年が流れる。
面白いことに、それでもお腹は減るし、トイレには行きたくなる。
今までの習慣から、時間になるとお風呂にも入った。
生活リズムを作ってくれた母を思い、また涙する。
そんな意味の無い生活を送り、ふと気が付いた。
両親のいないこの世界で頑張って生きる意味などあるのだろうか。
うん、ないな。
それからは行動が早かった。
まず、子どもの虐め問題にフォーカスを置き、子どもを支援する団体の中で、資金をきちんと子どもの為に使っている団体を調べる。
その中で、資金繰りに困っている団体幾つかに両親や両親が掛けてくれた私の死亡保険金、その全ての分配を法的に遺書として弁護士に預ける。
愛してくれた両親の欠片さえも親戚たちに渡したくない。私や両親にした仕打ちを覚えてすらいない親戚たちには。
彼らの悔しそうな顔を思い浮かべ、少し胸がスっとする。
あとは手に入れた睡眠薬を多剤大量摂取するだけ。
何も思い残すことはない。
薬を口の中に放り込み、水で飲み下す。
それを何度か繰り返してから、布団に入る。
あぁ、これでやっと終えられる。