ヒューマロボティア -王女と侍女-
その昔、ストロシア王国は一体のヒューマロボティアという人工生命体によって滅亡した。その真実が人類の歴史として消え去られた500年後、ヒューマロボティアを巡る物語が再び始まる。
----作者より
もし、序盤の話の背景が知りたいという方がいらっしゃいましたら、以下に短編がございますので、一緒に読んでいただければと思います。
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ヒューマロボティア ー感情の芽生えー
上空にミサイルやビーム兵器の弾道が飛び交っている中、高速に動く小さな3つの人型の影がストロシア王国に向かっていた。
「ルーム、ショア、可動部に問題はない?」
リリアは隣に一緒に高速移動しているルームとショアに話しかける。
「はい、可動部およびエネルギー残量共に問題ありません。目的地までの電磁迎撃は想定どおりです。目標地点まで残り15km。予定通りショアをここに残して敵をひきつけ、私は任務妨害の5%の可能性がある電磁砲の破壊を実施します」
ルームはリリアに回答しショアをみる。ショアも頷いている。
「ありがとう。あなた達のおかげで助かったわ。ただ、1分30秒の経過後、あなた達を巻き込むことになるの。先に言っておくわ、ごめんなさいね」
「一つ質問があります。まず、何故アーク・リリアは謝罪されるのでしょうか? 任務は順調に遂行されています」
「さあ、何故でしょうね?」
「そして、何故アーク・リリアは微笑む事ができ、微笑みながら悲しい顔をされるのですか? まるで人間のように?」
「たぶん、それは可愛い妹たちを巻き込んでしまうからよ。でも、マスター・シュミットの命令は確実に遂行されるわ。感謝しているわ。お願いよ。出来れば私のように笑って」
「わかりました。口角をあげる動きをします。でも、やはり解析できません。ミッション遂行は当たり前なのに、何故人間のように感謝という言葉がアーク・リリアから出るのでしょうか?」
ルームとショアは、ぎこちないながらも微笑む表情を作る。それが合図というように3体は別々に行動を開始する。リリアはストロシア王国の中央に単独高速移動を開始し、ルームはリリアの移動を妨害しようとする敵の電磁砲に向かう。
リリアが宣言した1分30秒後の30秒前、リリアの後ろでは大量の爆撃が始まり、敵の電磁砲で大きな爆発が発生した。
「移動速度マックス……順調。目標地点到達まであと30秒。稼動維持エネルギーを広範囲爆発エネルギーに変換開始」
高速移動をしているリリアの体が光り始める。
「残り20秒……マスター・シュミット、私を造ってくださって有難うございました……」
「残り10秒……目標地点到達……ああ……マスター・シュミット……を愛してます……」
その瞬間、大きな光が輝き、人口規模500万人だったストロシア王国は文字通り地図上から消えた。
◇
それから500年程度の月日が経ったある日のこと、シュミット王国の宮廷の庭園で、一人の女性が優雅にお茶をしていた。
「アリス、お茶のおかわりを頂けるかしら?」
言葉を聞いた侍女は、ポットにお湯をいれ、その女性に近づく。
「リザベル様、そのようにお茶ばかり飲まれていらしたらお花摘みが近くなりますよ」
そう言いながら、アリスと呼ばれた侍女はカップにお茶を注ぐ。
「アリス? せっかく気持ちよくお茶をしているのに品がないですわ。花も綺麗に咲いて……」
リザベルは花が咲いている地面の土が動いたような気がした。その瞬間、土の中から何かが飛び出してくる。彼女はいきなりの事で目を見張り、体を硬直させた。
ドンっという音と共に、いきなり目の前の景色がかわり、リザベルは自分が草の上に転がっている事に気付く。
「申し訳ありません。リザベル様。放出された物が何かの判別ができませんでしたので、緊急処置をとらせていただきました」
先ほどまでリザベルが座っていた場所にはアリスが立っていた。そしてアリスの腕からは白い液体が流れている。白い液体をみたリザベルは、頭に何かが入り込んでくる気がした。
「説明は後でしますので、今は私の後方の適度に離れた場所に移動してください」
アリスはそういうと、何かが飛び出してきた土の方向に駆け出した。土の中から武器をもった黒い影が這い出してくる。アリスはその影の頭を素手で殴りつける。その頭部は砕け、アリスと同じ白い液体が噴出し、黒い影は動きを停止する。
「これは、ヒューマロボティアの亜種? いえ……別々のパーツをつなぎ合わせている? このタイプのベースは何? 認識ができない……」
アリスは襲ってきた物体の頭部に突き刺さった手で相手を持ち上げ、空いた手で物体を調べる。その様子をリザベルは見ながら言葉を発する。
「アリス? 貴女は……」
アリスは物体が動かないことを確認し、物体から腕を抜き、ポケットから取り出したハンカチで白い液体を拭きながら答える。
「私はヒューマロボティア。2号機ニーテがベースです。貴女の侍女兼護衛の任務を持っています」
アリスはリザベルに近づき、優雅なカーテシーをして微笑む。
「いえ。それはアリスの先ほどの動きで何となく分かったわ。そうじゃなくて、何故表情が豊かなの?」
「それは、王家に仕えるヒューマロボティアだからです。私は最近製造されている為、一般的な歴史記録しか説明できませんが説明をいたします」
アリスはリザベルに話し出す。
ヒューマロボティアは500年前に1号機アーク・リリアが開発され、リリアをベースに4体のヒューマロボティア、2号機ニーテ、3号機ルル、4号機ディーナ、5号機ルージュが作られた事。
アーク・リリアは歴史から突然姿を消し、その後は4体をベースに研究が繰り返され、6号機以降は番号がない事。
380年前に感情を持ったヒューマロボティアであるイブが開発され、現在のヒューマロボティアの原型となったこと。そして、イブ登場以前の記録は引き継がれていないとの事。
ヒューマロボティアは女性型しかないこと。そして人との共存のため感情レベルの操作がされており、より人に近いレベルのヒューマロボティアは王家しか保有していないこと。
「そう……死んだお父様は、そのような話はされていなかったわ」
「時期がきたら私からお話をするようにと伺っていました」
突然、宮殿の警報が鳴り出す。リザベルは、はっと考え付いた内容をアリスに話す。
「ねえ、アリス? 私が狙われた理由は王家の排除が目的? そうすると次に考えられることは?」
リザベルは立ち上がる。
「ロンド兄様があぶない!」
その瞬間、アリスはリザベルの腕を掴み、表情を消し答える。
「ロンド様にも護衛はついております。それよりも危険な場所に行くリスクのほうが問題となります。リザベル様のお父様もお母様も亡くなっております。血を残さねば、世界に混沌を招きます」
「それはアリスの判断でしょう? お願いよ。ロンド兄様のところに連れて行って! 一緒に助けてあげて!」
リザベルは、アリスの目をじっと見る。アリスは表情を崩し、微笑みながら答えた。
「リザベル様にお願いをされると何故か断れません。でも遠くから一度確認します。それでよいですか?」
アリスは、リザベルを抱えると走り出した。
◇
「ああ……ロンド兄様……」
リザベルは、継ぎ接ぎがされている数十体のヒューマロボティアに囲まれてる兄を隠れながら見て小声でつぶやく。護衛と思われるヒューマロボティアが数体床に転がっており、白い液体で水溜りが出来ている。
ロンドの周りには人の護衛がついているが、数十体のヒューマロボティアの前では時間の問題になりそうだ。そんな中、ヒューマロボティアは動きを止め、道をあけるような動きをした。
その開かれた道を、継ぎ接ぎがないヒューマロボティアが歩いてくる。
「あんたがロンド・シュミット・ミラコスタかい? 確かにシュミットに似てるね」
そのヒューマロボティアはロンドに話しかける。リザベルはその言葉を聞いてロンドを遠目に見る。また、リザベルは、頭に何かが入っていく気がした。
「君もヒューマロボティアだな? 君のベースをみたことがない。何故王家を狙った?」
「あらあら、質問は一つにして欲しいね。まあ、いいわ。答えてあげるわ。私はマチルダ。1号機リリアをベースにしているから、あんたには分からないでしょう?」
ロンドは目を見開く。1号機リリアの情報は王家の記録にも殆ど載っていない。
「私は此処に封印されている2号機から5号機を返してもらいたいのさ。シュミット一族の罪の代償としてね」
「一族の罪だと? それはどういうことだ?」
「500年前ストロシア王国を崩壊させたのはシュミット王国という事は伏せているのかい? 酷い話だねぇ? それとも王家の記録の改ざんをしているのかい?」
ロンドの護衛で残っていた2名の護衛騎士は動揺し、マチルダとロンドを交互にみる。
「あんた達も可哀想だね。こんな極悪非道の王家のために命をおとさないといけないんだからね」
そういうとマチルダは護衛騎士の一人に蹴りをいれ、壁に吹っ飛ばす。
「だから、ヒューマロボティアを使役して兵器として使った悪徳非道のシュミット王国を私がぶっ潰して、初期の4体を返して貰いに来たのさ。どうせ生体コードか何かでロックしているんだろ? 死体でも解除できるのかしら?」
「我が王国がそんなことをするわけがない!」
ロンドがマチルダに言い返すと、ロンドの横にいたもう一人の護衛騎士が、マチルダに蹴りを入れられて壁に吹っ飛ぶ。
「500年前の記録が少しでも残っているのかい? ないだろ? それが証拠さ。なぜ私が知っているかって? それは私が1号機リリアの記録を引き継いでいるからさ。さあ、そろそろ良いかしら?」
隠れてその様子を見ていたリザベルは、アリスに小声で話しかける。
「アリス、ロンド兄様の側まで行くことができる?」
「リザベル様、それは承服できません。今、出て行けば王家の血が途絶えます」
「アリス、私は出来るか出来ないかを聞いているのよ? 出て行ったらどうなるかは問題ではないの。もう一度聞くわ。ロンド兄様のところにいくことができる?」
アリスは目を瞑り、数秒後に答える。
「はい。リザベル様を無傷に届けることは100%可能です。ただし、たどり着いた後の護衛はできません」
「ありがとう。ではお願いするわ。作戦があるから大丈夫よ。ただ、その結果で、アリスを巻き込むことになるの。先に言っておくわ、ごめんなさいね」
アリスは頷き、リザベルを抱きかかえると、ロンドに向かって飛び出す。その気配を感じた継ぎ接ぎのヒューマロボティア達はアリスを一斉に攻撃する。
「目標到達まで15秒……頭部損傷予測範囲内……四肢損傷40%予測範囲内……」
アリスは攻撃を受け、体中から白い液体が飛び散る。頭も半壊し、手足もあらぬ方向に曲がる。それでもアリスはロンドの場所にたどり着く。
「ミッション終了。リザベル様を無事にロンド様に届けました」
ロンドまでたどり着いたアリスは、ロンドにリザベルを渡すとその場に崩れるように倒れこんだ。
「リザベル何故ここに来た?」
リザベルはロンドの問いに答えることなく、マチルダに目を向ける。マチルダは卑屈な笑みを浮かべる。
「あはは! 面白いね! 既に死んでいると思っていたけど、助かっていたのにわざわざ死にに来たんだ。人間はバカだね。何をしたいのか判断できない」
「そうかしら? 私は私の意志でここに来たの? 貴女は何が面白いの?」
マチルダはリザベルの答えを聞いて不愉快な表情になると指を鳴らす。すると、土の中からや壁の向こうから継ぎ接ぎのヒューマロボティア達が集まる。数十体のヒューマロボティアがシュミット王家の二人を囲む。そして、マチルダは再び卑屈な笑みを浮かべた。
しかし、リザベルは絶体絶命の状況にも関わらず、ロンドに顔を向けて微笑む。
「お兄様とは血のつながりがあるのに、お兄様を男性として愛してしまいそうです」
「こんな時に何を言っているんだ……?」
ロンドにはリザベルが落ち着いていることが理解できない。
「お嬢ちゃん、絶望しなよ。この状況で何か出来るのかい? 始祖である1号機リリアベースのマチルダ様があんた達の命を摘んであげるよ! しかし、お嬢ちゃんは何となくリリアに似てるね。よしみで助けてあげたいけど、お終いだよ……死にな」
マチルダが2人を殺す指示のため手を挙げようとした時に、リザベルが何かしら言葉では表現できない音をつぶやく。その瞬間、マチルダを含めたヒューマロボティアがその場で崩れた。同じく四肢が動かなくなり顔を動かすことしかできないマチルダが、必死でもがくように苦悶の顔をリザベルに向けた時、リザベルは微笑みながらマチルダに話し出した。
「似てるのは当たり前よ。リリアはシュミット夫人の顔をモデルに造られたのだから。1号機がベースなのに、その事は知らなかったの? そして、貴女……感情が豊かなのね。ルフィスもそうだったのかしら?」
「な……何故その名を……そして何故体が動かない! 何をした!」
「あらあら、質問は一個ずつではなかったのかしら? 動かないのは当然よ。強制停止コードを発動させたから。残念ながら貴女の思考メモリからのアクセスは出来ないから、何が起きたのかは解らないでしょうけれど……」
「お前は一体何者だ?」
そのマチルダの問いにはリザベルは答えない。そしてリザベルはアリスに向かって言った。
「アリス、まだ視聴覚回路は動作してる?」
アリスは半壊した体を動かし頷いた。
「だったら、嬉しいお知らせがあるわ。ヒューマロボティアも人に生まれ変われるの。凄いと思わない? 非科学的だけどロマンチックね。でも、今から私がする事はロマンチックの欠片も無く、アリスも巻き込んでしまうわ。ごめんなさいね」
「はい……リリアお姉さま……お会いで……き……て良かっ……た……で……す……」
アリスは、半壊した顔で笑顔を作りながらリザベルに答える。
「マチルダでしたね。嘘をつけるなんて凄いわ。約500年前のストロシア王国の消失は確かに私がしたけど、その前にルフィス達が国民全員を殺していたの。ルフィス……今は記録にも残っていない6番目の子。確かあの子は記憶領域を全身に分散させていたのよね。だから吹き飛ばしたはずなのにジャンクパーツとして記憶を残して、長い年月で組み込まれたことで復活した……500年もかけて頑張ったのね。でも、ルフィスらしいわ……あの子はイタズラが大好きだったから……では、御機嫌よう6号機ルフィスベースのマチルダさん」
リザベルは懐かしむように微笑み、息を軽く吸い込む。
「や……やめろ……」
リザベルが何かを囁くと、マチルダを含め全てのヒューマロボティアの目と鼻から白色の液が垂れる。それらは糸が切れたマリオネットのように動かなくなる。集まった数十体のヒューマロボティア全部が完全に停止した。そして例外なく半壊したアリスも停止していたが、その表情は安らかだった。
「いったい、何をしたんだ?」
ロンドはリザベルに問いかける。
「自己崩壊を促したのです。正確には思考ニューロ部の重み付けの制御を止めさせました。人で例えるところのアドレナリンを思考方向に出しっぱなしにした感じですね。脳回路を混乱させてオーバーヒートしてもらいました」
リザベルはロンドの問いに答え、いたずらっ子のように舌を出した。
「でも、ロンド兄様? リリアの記憶があるのは本当ですの。私の頭の中に突然流れてきたのにはビックリしましたが……」
リザベルはそう言うと、ロンドの胸に飛び込んだ。
「ああ……また会えました、マスター……愛しています」
ヒューマロボティアの生まれ変わりが本当にあるのかは定かではない。ただ、500年前の愛の言葉を神様が受け取り、リリアを生まれ変わらせたのかもしれない。
短編を読んでいただき、ありがとうございます。
小説を書いた感想を書かせていただきます。
SFは背景の描写が難しと感じました。ある作家様から異世界モノを読んでないと入りが難しいと指摘を頂き、なるほどと感じました。
この物語はざつくりと年表を書いて、その時にあった出来事をピックアップする感じで書きました。イメージ的にはスターウォーズみたいな感じです。なので、頭の構想ではこの物語の各エピソードがあったりします。
感想と評価ポイントをはじめて頂けた作品なので、思い入れはありますが、短編は注目されないと読まれない結果に終わるなと感じました。各エピソードを読まれたい方がいれば、長編構想を少し考えたいと思います。
皆様が良い小説に出会えることを
茂木 多弥
※2020/01/25
菁 犬兎様よりFAを頂きました。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1489201/blogkey/2490853/
(リザベルとロンド)
※2020/02/14
円雅様にイラストを描いて頂きました。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1489201/blogkey/2503343/
(ショア)
※2020/06/21
猫屋敷たまる様よりFA頂きました
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1489201/blogkey/2592102/
(アリス)
以下、2020年 02月14日の割烹に書いたイラストを頂いたときのSSです。
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「はい、可動部およびエネルギー残量共に問題ありません。目的地までの電磁迎撃は想定どおりです。目標地点まで残り15km。予定通りショアをここに残して敵をひきつけ、私も任務妨害の5%の可能性がある電磁砲の破壊をここで実施します」
ルームはリリアに回答しショアをみる。ショアも頷いている。
「ありがとう。貴女達のおかげで助かったわ。ただ、1分30秒の経過後、貴女達を巻き込むことになるの。先に言っておくわ、ごめんなさいね」
「一つ質問があります。まず、何故アーク・リリアは謝罪をされるのでしょうか? 任務は順調に遂行されています」
「さあ、何故でしょうね?」
「そして、何故アーク・リリアは微笑む事ができ、微笑みながら悲しい顔をされるのですか? まるで人間のように?」
「たぶん、それは可愛い妹たちを巻き込んでしまうからよ。でも、マスター・シュミットの命令は確実に遂行されるわ。感謝しているわ。だから、お願いよ。出来れば私のように笑って」
「わかりました。口角をあげる動きをします。でも、やはり解析できません。ミッション遂行は当たり前なのに、何故人間のように感謝という言葉がアーク・リリアから出るのでしょうか?」
リリアはルームの質問には回答せずに微笑む。ルームとショアは、ぎこちないながらも微笑む表情を作る。
それが合図というように3体は別々に行動を開始する。リリアはストロシア王国の中央の方向に向かい走り出した。
残された2体のヒューマロボティアはお互いに頷いた。シェアは立ち姿のまま、ゆっくりと腕を前に構える。それと同時にルームは背負っていた長刀を抜き、そびえる岩に向かい走り消えていく。
「ステルスを解除し、内部エネルギーを質量エネルギーに一部変換……光学攻撃用の耐バリアを展開……」
ブォンという音と共に胸のペンダントが光りだす。両手のクリスタルにエネルギーが集まり、ハニカム形状のバリアが広がる。その瞬間、上空を飛んでいた複数の哨戒機からショアにサーチライトが向けられた。
「計算上、2秒後に敵の光学兵器が……」
瞬間、大気をつんざく稲妻のような音が鳴り響き、大量のビームが大気を切り裂く音と共にショアに降り注ぐ。しかし、晴れた煙の中から、ショアは両手を構えたままで姿を現す。
「対消滅完了。次の予想は物理ミサイル攻撃と近接電磁砲兵器による防御妨害」
ショアの言葉通り、地面が盛り上がり戦車型の兵器が姿を現す。戦車の電磁砲の照準がショアに向けられるが、ショアは戦車型兵器に対して見る動作をしない。
「物理ミサイル攻撃に備え、ランドセル装備のジャマー弾装填準備。電磁砲兵器はルーム……お願いします」
戦車型兵器に向かって上空から落ちる影。ルームが剣を胸に支えて飛び込んできた。
「ルラララァァァ!」
ルームが口から発したのはAI判断を狂わすボイスパルス。戦車は電磁砲を即座にルームに向ける。爆音と同時に空間が歪むと同時にルームのコーティングボディが剥がれていく。
「光学剣を想定されていたようですが、こちらは実剣です」
重力の力で加速し胸で支えた剣が戦車型の兵器の電磁砲に突き刺さる。
バシュッという音と共に戦車兵器から溢れる高圧電流の塊がスパークする。ルームの四肢から白い液体が飛び散った。
「ミッション終了。シュア……後はお願いします」
ルームは実剣にもたれかかる様に停止する。しかし、その表情は口角が上がっていた。
「ルームの行動を確認しました。ミッション計画通り。対物理兵器用のジャマーを展開……ルーム……なぜ口角を上げたのでしょうか?」
ショアのランドセルから煙を噴出し霧が辺りを包む。上空からはミサイルの接近音が聞こえショアに向かってくる。ジャマーに邪魔をされたミサイルはショアをとらえる事が出来ず暴発を繰り返す。
「計算通りです。次の光学ビームを回避で予定時間……かはっ」
ショアが次の光学兵器に備えて両手にエネルギーを装填した時、ミサイルの破片がショアの胸に突き刺り、白い液体が飛び散る。
「想定外事象発生……対応の可能事象と判断。あと10秒の行動には問題なし……」
ショアは傷ついたボティをそのまま両手のビームバリアを展開する。
「ルーム……貴女が口角を上げた理由が……わかっ……気がします……気がしますと言葉になったの何故でしょうか……」
降り注ぐ光学兵器のビームの雨の中、最後にショアが見た映像はストロシア王国から発せられた光だった……