婚約破棄した悪役令嬢は義弟に囲われる
登場人物紹介
シシリーナ16歳 3年生 (公爵令嬢)[主人公]
カロイス 17歳 4年生(王太子)[婚約者]
エリオット15歳 2年生(公爵子息)[義弟]
エリーザ 16歳 3年生 (男爵令嬢)[ざまぁヒロイン]
[おバカコンビ]
キース16歳 3年生(魔法師団長の子息)
ガリオン16歳 3年生(騎士団長の子息)
私はローゼリア公爵家の一人娘。
シシリーナ・ヴィオ・ローゼリア
淡いブラウンの髪に青い瞳。噂によれば顔の造形こそ美しいと言われるものの、無表情で愛想の無い人形のようだと言われている。らしい。
今日はパーツハイル王立学園の卒業式。
王太子の婚約者の私は、空色のロングドレスに金糸と銀糸をあしらった夜明けの星を思わせるようなドレスを着てダンスホールの隅で佇んでいた。
王太子で婚約者のカロイス様は私より1つ上の17歳で今日が卒業式。
先輩方、婚約者のカロイス様の卒業を祝うために国内外の重鎮や卒業生の父母がパーティーに参加されている。
が、私はダンスホールの隅で佇んでいる。
もう一度言おう。私はダンスホールの隅で佇んでいる。
婚約者のカロイス様は見目麗しく、黄金色に輝く金髪と深海を思わせるような深い青の瞳を持つ涼しげなイケメンでこの国の王子。昔からおモテになられる。
私達は政略的な婚約で、私はカロイス様と結婚した後は好きに側妃を作られようが愛人を作られようがどうでもいいと思っている。
勿論、婚約したばかりの10歳当初は政略結婚とはいえ見目麗しい本物の王子様と結婚できることが嬉しくて、月に一度訪問してくれる1つ上のカロイス様が大好きだった。
しかし、見目麗しく、しかも王子となると婚約者がいようがいまいが関係ないとばかりに多方面からアプローチをかけられる。
カロイス様は私に知られてないと思っているのだろうが、過去に何人もの女性と付き合ったことがあることは知っている。
お父様やお母様は私には知らせないようにと屋敷の者たちに言いつけているが、1つ下の義弟のエリオットは「今日はテサリーヌ伯爵令嬢と朝帰りしてたらしいよ」とか「平民の踊り子を自室に招き入れて朝まで出てこなかったらしいよ」とか聞いてもいないのに毎回報告してくれるのだ。
初恋から7年。毎年毎年恋の相手が変わるカロイス様には何も期待しなくなった。
王妃となれば仕事に生きることになり、もうときめくような恋をすることもできない。
人生詰んでるな、とは思うけれど王妃として生きて行くために婚約した10歳の時から厳しい王妃教育に耐え抜いて来たのだ。
ここまで来たら覚悟を決めよう。
ということで冒頭に戻りますが、
卒業パーティーにエスコートしてくださるはずのカロイス様が我が家に来られなかったため、会場には義弟のエリオットと入場しました。
エリオットは「準備があるから、少しだけ隅の方で目立たないように待っていて」
といって先程会場から出ていってしまったので私は仕方なくパーティー会場の隅で壁の花をしています。
「はぁ。」
つい、この場にいないカロイス様に嫌味を言いたくなりました。
カロイス様は、昔は1つ年上で何事もかっこよくてスマートで…って思っていたけれど、
月日が経つにつれて、年下に見栄を張る女好きの俺様王子 という本性が見えてきて……
1番最近では私の同学年の男爵令嬢と学園内でもイチャイチャする姿が見受けられました。
私は慣れたもので、またか、なんて風に見ていましたが、今回のお相手は中々の男泣かせな方のようで、カロイス様以外にも私の義弟や騎士団長様のご子息、魔法師団長様のご子息にも声をかけて交流を持っているらしいのです。
正直、カロイス様よりもエリオットが心配です。
義弟のエリオットは私が8歳の時にできた後妻の連れ子で、1つ年下の銀髪に空色の瞳を持つ天使のような容貌をしています。
私のお母様は私が4歳の時に病で亡くなってしまい、ずっと父と2人だったので義弟と義母が屋敷にやってきてからはすぐに打ち解けました。
義母は血の繋がらない私のことも本当の娘のように大事に育ててくれて、義弟も私にすぐに懐いて、小さい頃は「ねえさま、ご本読んで。」「ねえさま、一緒に寝て?1人で寝るの怖い。」等といって本当に可愛くて。
今でも私のことを心配して「あんな王子と結婚したら絶対不幸になるよ」とか「姉さんにはもっと自分のことを愛してくれる人と結婚してほしいな。僕なら絶対姉さんのこと裏切らないのに」とか言ってくれて、本当に優しい子なのだ。
そんな純粋な義弟が誑かされては堪ったものではない。近いうちにあの男爵令嬢には釘を刺しておこう。
暫く考え事をしていると、どうやらカロイス様が入場してきたらしい。大きなファンファーレが鳴り響いた。
壇上に、カロイス様が上がり、卒業パーティーの開始を告げる。
「本日は遠いところから私達の卒業を祝うために集まっていただきありがとうございます。私達はこの学園に入学して約4年、階級や身分を超えて様々な人脈を築くことができました。それもこれもこの素晴らしい学園に入学したおかげです。」
〜〜〜〜
その後も5分ほど学園で学んだことをつらつらと話されるカロイス様。
そろそろ終盤か、というところでカロイス様が私の方を見た。
「ご清聴ありがとうございました。私からの卒業の答辞を終わらせていただきます。」
ーーパチパチパチパチーー
参加者からの拍手で話が締めくくられた…
と思ったその時、1人の令嬢が壇上に上がり
カロイス様の横に並び立った。
「失礼します。本日のこのめでたい日に、相応しくない方がおられるのです!どうか私の話を聞いてくださいませ!」
ん???大丈夫か?え、パーティー始まるんじゃないの?
みんな「なんだなんだ」「何が始まるんだ」
等と口々に話し、ザワザワしている。
すると今度はカロイス様が
「シシリーナ・ローゼリア!貴女の罪をここで清算しようではないか!出てきたまえ!」
といい笑顔で話し出すではないか。
はい???なにそれ?
あのカロイス様の横にいる子どこかで見たことあるな、誰だっけ……?
訝しみながらもホールの中央に出て行くと、周りの人たちがザッと避けて空間ができた。
「失礼します。私が何か?」
「シシリーナ!君は私とエリーザの仲を羨み、エリーザの教科書を引き裂いて捨てたり、あるはずもない悪評を流したり、睨みつけて脅したり、階段から突き落として怪我をさせようとしたりしたであろう!よって、この国の王妃には相応しくない!が、私は情に厚い男だからな。婚約破棄まではしないでおいてやろう。よって、エリーザを王妃に、シシリーナは第二王妃となりエリーザを支える役目を与えてやろう!」
はい??????
あ、ダメだわ。怒りを通り越して呆れてきた。
「失礼ですが私がそちらのエリーザ様?に嫌がらせをしたという証拠はありますの?」
「証拠だと?!エリーザ自身が言っているのだ!他にもキースやガリオンからも君がエリーナを睨みつけていたという情報を得ている!」
キース…魔法師団長様のご子息ね。後はガリオン様…騎士団長の息子か。
「あら、キース様とガリオン様はエリーザ様にご執心ですからそちらのいいように解釈なさっているのでは?私、自慢ではありませんが浮気にはとっても寛大なんですの。睨んだり、ましてや嫌がらせをしたりなんてすることはないですわ。」
「そんなバカな!君は私に会うたびに王としての自覚を持てと苦言を呈したではないか!」
「はぁ…。月に一回の婚約者同士のお宅訪問時以外には学園でも挨拶をするくらいしかしていないでしょう?婚約当初から色々な方と浮名を流されていて、今更嫉妬なんてするもんですか。私が言っているのは王としての自覚です。何人もの女性と遊ばれるのは結構ですがちゃんと把握して管理して下さらないと知らないうちに王の庶子が沢山生まれてきますわよ?」
「な、な、な、」
「なぜ知っているか?って顔ですわね?女を舐めすぎですわよ?貴方に捨てられた令嬢が社交界でペラペラと話しておられましたわよ?全く…。」
「そ、そういう生意気なところが気に入らないのだ!1つ年下のくせに私を敬わず、挙句バカにする気か!」
「敬う?馬鹿にする?いい加減にしてほしいですわね。公式の場で、7年間王妃教育を受けてきた私にありもしない罪をなすりつけて、第二王妃にしてやる?ですって?どういうおつもりなのかしら?あと、貴方はお忘れかもしれませんが、貴方の婚約者である私には王付きの暗部が付いて回っているのですよ?嫌がらせなんてしたらすぐに分かることですわ。勿論。貴方にもしっかりついていらっしゃいますからすぐに私のありもしない罪は解けるでしょうけどね。」
やけくそになって、今まで言いたかったことを言い切ってやった
すると、さっきまでカロイス様の後ろに隠れていたエリーザ様が出てきて、涙目で訴えた
「全部ウソです!だって、シシリーナ様は私がカロイス様といる時には絶対出てこないけど、私が1人の時とかに隠れて嫌がらせをしてきたんです!自分でやってないというなら他の、手下にでもやらせていたのだわ!絶対そうよ!」
「そうだ!早く罪を認めろ!シシリーナ!俺は優しいからな。許して欲しければ早くエリーザに謝るんだ!」
あーめんどくさ。なんなのこの茶番は。
「ひっ!また私を睨んだわ!誰か、キース様!ガリオン様!助けてください!シシリーナ様が私を呪い殺そうとしています!!」
は?呪い殺す?目を合わせて呪い殺せるとかどんな妄想癖なの?
「貴様!この期に及んで罪を認めないどころか呪い殺そうとするとは!万死に値するぞ!いくら見目が良くても心の無い女はこれだからな!全く!地下牢に引っ立ててやる!心を入れ替えるまで私自らが精神を鍛え直してやる!覚悟しろよ!」
おいおいおい、騎士道どこにおいてきたよガリオン様よ腕掴むのはいいけど緩すぎない?凄い簡単に逃げられそうだけど?あと凄い汗かきだね?顔めっちゃ赤いけど大丈夫かこの人。
「シシリーナ様みたいな綺麗な女の子に乱暴するのは好きじゃ無いんだけどね?ほら、君も嫉妬にかられてついやっちゃっただけなんだろ?早く謝ったほうがいいよ?第二王妃にしてくれるなんて大恩情じゃないか?もし第二王妃が嫌なら僕がもらってあげてもいいよ?」
は?いやいや、脇をがっしり抱えながら胸触るのやめてくれます?この変態キースめ!
両脇を馬鹿2人に固められ、目の前にはカロイス様とエリーザ様。
あーもうやだ!!誰か助けて!!
「お待たせ。ねえさん。」
どこから入ってきたのか、いつのまにかエリオットが私の前にいた。
両脇の馬鹿2人の手を私から離させ、すぐに腕の中に引き寄せられた。
昔は私の方が大きかったのに、
いつの間にこんなに大きくなったんだろう。
私よりもずっと背が高くなったエリオットが私をそっと抱きしめて
「もう大丈夫。これで面倒ごとは終わりだよ。」
と楽しげな声で言った。
すると、暫く呆然としていたエリーザ様が
「エリオット!なんでそんな女を庇うの?貴方も私と一緒で虐められたんでしょう?知ってるのよ!私なら貴方のことを癒してあげられるから!早くその女を離して!衛兵に渡して!」
は?
いやいや。カロイス様も馬鹿2人も私をどう思おうが関係ない。
けど、エリオットだけはダメ。
私の大好きな。大切な人だ。
あんな女には渡せない。
でも、心のどこかで思っていた。
あまりに笑わない、人形のような令嬢ってずっと言われてきて。
もしかしたら、知らないうちに誰かを怖がらせてるんじゃないかって
エリオットは私なんかよりあの甘えさせ上手で可愛らしいエリーザ様みたいな子が好きなんじゃないかって
そう思ったら、
怒りとか自分への情けなさとかで涙が出てきた。
ダメだ。こんなところで泣いたら、
「………っっっ。」
下を向いて、涙を止めようとするけどとめどなく溢れてくる。
これは悔し涙?怒りの涙?なんの涙なのか自分でもわからなくて、ぐちゃぐちゃな感情。
気がついたら、
さっきまでピーチクパーチク言ってた外野がシーンってなってた。
すると、エリオットが優しく私を抱きしめて言った。
「ごめんね。1人にして。大丈夫。何があっても僕は味方だよ。姉さんの全部守るからね。ずっと」
…エリオットが私を励ましてくれてる。
ずっと味方だって言ってくれた。
あのエリーザじゃなくて私を選んでくれたんだ。
嬉しい……
「ありがと…」
エリオットの気持ちを聞いたら感情が落ち着いて涙も止まった。
感謝の気持ちを伝えるために顔を上げてお礼を言うとエリオットが真っ赤な顔をして私をまた抱きしめた。
え?どした?
「エリオット?もう大丈夫よ。ねえさん頑張って決着つけるからね!」
「え、ねえさん、ここは僕が……」
「いいから!任せて!」
「うん…無理しないでね?」
よーし!気持ちも落ち着いたし私は無実なんだから胸を張れ!大丈夫。
気持ちを落ち着けてカロイス様と再び対峙すると、何故か真っ赤な顔をしていた。
ん?なんだ?
良く見ると周りにいる人たちも心なしか顔が赤い。
馬鹿2人はしゃがみこんでいるようだ。
なに?私が見てない間にエリオットが何かしたのか?
いや、今のこのぼーっとしてる間がチャンスだわ!
「カロイス様!」
「はっ!!お、おお。なんだ。」
どうやら意識は戻ってきたようだ。まだ心なしか顔が赤いが。
「残念ですが私の無実を信じてはいただけないようですし、私としても疑いをかけられた方に嫁ぐのはどうかと思いますので婚約破棄致しましょう!王様とお父様にはずっと前にもし婚約を破棄したくなった場合はその旨を申し出ても良いと言われておりましたので問題ありませんわ!。今日までどうもありがとうございました!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、あの、」
「では、せっかくの卒業パーティーを騒がせてしまって申し訳ありませんでした。先輩方のご活躍をお祈りしております。では、本日はこれで失礼しますわ。御機嫌よう。」
一息で言い切って、エリオットのエスコートで会場を後にする。
「待て!俺が悪かった!なぁ!」
「待ってくれ!俺の女神!」
「待って!シシリーナ嬢!僕は本気で…!」
「ちょっと!!?!?」
後ろからザワザワした声が聞こえたけど気にしない。
もう、社交界とかめんどくさいなー。
暫くは、ほとぼりが冷めて誤解が訂正されるまで家に篭ろう。
一歩手前をエスコートしてくれていたエリオットが立ち止まり、振り返った。
「ねえさん、大丈夫?落ち着いた?」
「うん。エリオットが来てくれたからね。ありがと。」
本当に、1人でも味方がいるって思ったら心があったかくなって、大丈夫だって思えたから。
「…もう…それ反則だよ…?絶対その顔ほかの人に見せちゃダメ!」
「?ああ、顔怖かった?ごめんね、顔の表情筋が死んでるから、睨んでないけど睨んでるとか言われるし、ほんと困っちゃうわ。」
「…違うよ…。でも、ねえさんの笑顔はかわいすぎるからむしろほかの奴らは睨むくらいがちょうどいいよ。」
…ボソッ… 僕は笑ってなくてもねえさんの考えてることちゃんとわかるけどね。
「そう?自分では笑ってるかどうかわからないの。でも、カロイス様はほんとバカよね。私が嫉妬なんてするわけないのに。でも婚約破棄できてせいせいしたわ。この先もあんなことがあると思うと絶対耐えられないし。」
「…でも、ねえさんカロイス…様のこと少しは好きだったんでしょう?だって、今日のドレス…あいつの…色。」
「?ふふっ。これはカロイス様の色に見せかけてちょっと違うのよ?分からない?」
「え、?でも、ブルーに金色…でも確かにどっちかというと空の色…え…っっ?」
「ふふっ!あの馬鹿王子に何か言われるのも癪だし、色を合わせないのも婚約者としてはダメだろーなって思ったからちょっとだけ意趣返し。これは、エリオットの色だよ?」
「…ほんとだ…えっ……?!」
「?エリオット顔が真っ赤よ。さっきも赤かったし、風邪でもうつされたの?あの会場人がいっぱいいたし、顔の赤い人も沢山いたからもしかしたらうつったのかも…早く家に帰りましょ!」
「俺の色…えっ……!?えっ?ねえさんも…俺のこと…」
さっきは顔色が戻っていたのに、また真っ赤になっている。
なんかボソボソ言ってるけど大丈夫かな?
早く家に連れ帰って看病してあげよう。
「ね、ねえさん!!あの、さ。」
「ん?どうかしたの?早く帰ろ?」
「俺、ねえさんのこと……好きだよ」
やっぱり熱があるみたい。顔が赤いし、喋り方もなんかおかしい。僕っ子のはずなのに俺呼びになってる。
「私も大好きだよ!暫くは社交やお茶会も休めるだろうし家にいていいよねー?これが怪我の功名ってやつかな?」
「うん。なんならもうずっと家にいていいんだよ?むしろずっといて欲しいな」
「ふふふ。じゃあお言葉に甘えて、暫くは屋敷にこもっちゃおうかな!婚約破棄された令嬢の貰い手なんていいとこないだろうし、もう一生独身でもいいかも。」
「じゃあ、俺と結婚する?」
「…他に貰い手がいなかったら貰ってくれる?」
「えっ?本当に!?いいの……??えっと、冗談とかじゃなくて本気で…。」
「ま、そんなわけにはいかないよねー。お義母様に顔向けできないもん。さ、かーえろ!」
「うん。そうだね。帰ろうか〝僕達〟の家に」
…もう邪魔者はいないから手加減しないよ。
シシリーナねえさん?
義弟くんの出番をもっと描きたかった……続編書くかどうかは評価見てから決めます!
評価低ければまたほかの短編描こうかなー
義理の〇〇っていうのが大好物なので王子とくっつけるのはあんまり描きません。
身近な存在の方がいいなって思っちゃうので
では!また、誤字脱字あれば教えてくださいませ!