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森の中の大賢者  作者: 凹村凸
東の王国編
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詰まる所、捉え方の問題

「出るなら出る。というか早よ出なさい」

「少しは心配せんか!」

「入り口でしゃがむと私が外に出られないから言っているのに」


 (ひたい)を押さえてうずくまる銀髪女性。彼女が邪魔で、私が外に出れない。


「痛た……」

「狼形態でデカいと、人間形態でもデカくなるのか。なるほどなるほど」

「心配の『し』の字も無いんか……」


 普通の人間より頑丈なフェンリルが何か言っている。空耳だろう。


 額を押さえながら外に出て、人間形態から狼形態に戻るフェンリル。

 戻り方は簡単だ。目を閉じて体が光り輝き、徐々に狼へと変化するだけ。

 そこに夢とか希望は無い。変身シーンとかも無い。現実を見なさい。異世界だけど。


 ほんの数秒で狼の姿に変わったフェンリルは、私を背中に乗せるとホーンラビット家族の所へと走り出した。

 我が家の方に振り向くと、球体と円錐形の女の子が、私にいってらっしゃいと言っているかのように、手を振っていた。



*****



 この森は広い。無駄に広い。東京ドーム何個分?と首を傾げる程広い。

 そして、歩いても歩いても同じような風景のため、この森に長い間住んでいる動物でも迷う。前に私も迷ったことがある。今では転移魔法という便利な魔法があるけれども、それを覚えるまでは夜になっても家に着かなくて、やっと辿り着いたと思っても、私を心配して待っていたあの女の子に、夜が開けるまで怒られるなんてこともあった。

 いやー懐かしいなあ。ごく最近のことだけどね。

 腕に噛み付いて魔力を食べているのに、しゃべることができないってのは不思議だよねぇ。怒られ方と言われると、頭を上げられないような圧というか、後頭部に重しを乗せられているような重圧を放つ感じかな?


 あの女の子はフェンリルによると、家事の手伝いをしてくれる妖精『ブラウニー』に近いモノらしい。

 主人と認めた者の魔力を主食とするため、特に食事を必要とせず、家事や身の回りの世話をしてくれるらしいが、彼女はあんな形の妖精を見たことがないと言っていた。

 森の外に出たことがあるのか訊いて見たところ、どうやら時々遊びに来る他のフェンリルから聞いた話らしい。こっそりと外に出たところを見られていたようである。不用心な奴め。


「グルルル……」


 フェンリルの唸り声のような鳴き声に現実に引き戻された私は、ついつい『翻訳魔法』を使用するのを忘れていた。


『ほれ、降りよ』

『ああ、すまないすまない』


 1回目の言葉で降りなかった私にフェンリルは少し機嫌が悪くなったようで、飛び降りた瞬間大きなため息をついた。


『やれやれ、なんで一回で降りぬのかね』

『翻訳魔法を忘れていただけさ』

『毎回思うが、便利じゃな、お主』


 『翻訳魔法』とは、私がこの森の動物たちと言葉を交わせるようになるために作り出した魔法さ。ウサギだろうがクマだろうがフェンリルだろうが、彼らは独自の鳴き声で会話している。人間が喋るような感じでね。

 だから、魔力で相手の鳴き声の波を捉えて、自分の耳に人間の言葉に聞こえるように調整したのが翻訳魔法。簡単に説明すると、ラジオのチャンネルを合わせるような感じかね。


 ホーンラビットの家族を探すため、辺りを見回していると足元からキュイキュイと鳴き声がする。

 下を見ると、小さなウサギが五羽ほど、私のズボンの裾を引っ張っていた。


『のむがきたー』

『あそぼー』


 うん、可愛いね。

 言葉がわかれば、小さな子供が(じゃ)れているようにしか見えないね。


『おっきなおおかみさんもいるー』

『いっしょにあそぼーよー』


 どう聞いても怖がっているようには見えない。

 そっとフェンリルの方を向く。


『?』


 わかっていないようで、彼女は首を傾げている。


『全然怖がってないんだけど。むしろ遊びたがってるんだけども』

『じゃが、いつも逃げられとるぞ。お主がいるからではないかの』


 どうやら、フェンリルとウサギ達になんらかの齟齬(そご)があるみたいだから、一応ウサギ達に聞いてみよう。


『このお姉さんのこと、怖い?』

『なんでー?』

『こわくなーい!』

『いつも逃げてるらしいけど』

『おいかけっこ!』

『いつもぼくらがかってる!』


 この子達の言葉に、再びフェンリルの方を向く。


『何じゃ?何か申したいことがあるなら、素直に申せ』

『本人達は、遊んでるつもりみたいなんだけど』

『なぬ?怖くて逃げたのではなく?』

『追いかけっこのつもりだったらしい』


 どうやら、言葉が通じていなかったらしく、お互い勘違いをしていたらしい。とは言っても、フェンリルからの一方的な勘違いであったが。自分が大きいから怖がって逃げていると思い込んでいたフェンリルと、遊んでいるつもりだったホーンラビットの子供達。

 やはり、狼とウサギでは鳴き声が違うため、言葉も違ったようだ。日本語と英語みたいなものかね。


『とりあえず、ウサギ達とお前さんに、それぞれ翻訳魔法をかけておいたから、存分に話をするといいさ』

『うむ、すまないな……』

『いいってことさ』


 狼とウサギが(たわむ)れるているところを横目に見ながら、私はついでのおつかいを済まそうと思う。

 先ほどホーンラビットのツノが薬の材料になることを説明したよね。私はこの森のホーンラビットたちから、ツノを3年周期で回収しているのさ。彼らのツノは生え変わる時期が不安定で、生え変わってもツノは自然に返らないから、私が回収して利用するってことになっている。

 そろそろ前回のツノの回収から3年くらい経つから、回収しに来たのさ。


 遊んでいるウサギと狼を置いて、ホーンラビットに指定されたツノ置き場へと向かう。

 ここら辺は木の根が入り組んでいるから地面がデコボコで、歩き慣れてない動物だとすぐに足を捻ったり、転んでしまったりしてしまうのだ。私ももちろん1回やった。


「あ、今回は少ないね」


 いつもより、ツノが少なかった。どうやら、まだ伸びるウサギがいるみたいだね。

 今年のリーダー決めは激しいものになりそうだ。どうやって決めているのかは、私は知らないけどね。


 フェンリルたちのところに戻ると、彼女は疲れ切ったように伏せの状態で寝ていた。


『おねえちゃんねちゃったー』

『たのしかったー』


 ウサギ達は満足したようで、自分たちの巣へと戻っていった。

 しかし、フェンリルが寝ているとなると、私は1人で家に帰らなければいけなくなる。


 まあ転移魔法があるからいいんだけどね。

 とりあえず、フェンリルに『疲労回復』の魔法をかけて、私は家に帰りましょうか。


 きっと女の子も心配しているだろうし、夕飯が何か楽しみだからね。

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