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森の中の大賢者  作者: 凹村凸
東の王国編
39/41

結果として

「まあ、ドンマイ?」

「なぁにが『どんまい』だい!?」


 あの少女の姿だったお婆さんは、今や少女の姿の少女になっていた。

 何を言っているかわからないって?

 簡単に説明すると、少女の姿だったお婆さんは、見た目だけは少女だったわけだ。さらに噛み砕いて説明すると、少女の皮を被ったお婆さんってことだ。いわゆる『ロリババア』って感じの部類に入るアレだよ。

 だけど、今回の実験の結果、お婆さんは少女へと若返った。そう。魔法陣を裏表反対にしただけで、若返りの魔法陣が出来上がってしまったのだ。これは流石に、約2000年生きて来た私もびっくりだったよ。


 椅子に座って拗ねているお婆さん改め少女は、床に描かれた魔法陣を羊皮紙に書き写している最中だ。

 流石に心までは若返っていなかったらしく、話し方も全く変わらない。しかし、記憶を継承しているあたり、ただ「肉体を若返らせる」だけの魔法陣として完成したようだった。うん、失敗から学ぶことって沢山あるよね。



*****



 お婆さんの部屋に閃光が(ほとばし)った後、一体どうなったのか説明しよう。


 光が収まったとき、魔法陣の中心にいたのは(まご)う事なき少女だった。失敗かな?と思い近づいてみると、少女は目をカッと開き、そして起き上がった。

 そして、自身の身体が元に戻ったか、顔や身体をペタペタと触り、言った。


「なっ……なんじゃこりゃぁぁぁあああああっ!?」


 その驚きようを見た私は冷静に思った。


 お前さん、それやるの2回目だろう?随分と慣れた仕草じゃあないかや。


 起き上がって手を見るのではなく、自然な動きで(ほお)や胸や腰など、女性として特徴的な場所を触っていたからねぇ。

 だって、手の方が大きさが把握しやすいだろう?手というのは人生の中で一番見る機会の多い場所だからねぇ。

 そりゃあもう、親の顔よりも見るものだもの。


 しかし、彼女の行動はそれで終わらなかった。

 なんと、自身の姿を確認し終わるやいなや、私に向かって魔法を放ってきた。しかも、火属性の強力な魔法を。


『紅蓮の炎に焼かれてしまえ』


 呪文を詠唱した彼女の顔は、笑顔だった。うん。笑顔だったけど、目だけが笑っていなかった。

 どうやら骨まで残さずに焼くつもりらしい。しかし、そんな威力だと部屋が焼けてしまわないだろうか?と思ったが、しかしそれは愚問だった。部屋にはすでに、お婆さんが事前に仕込んだのだろう、『反射魔法陣』が貼られていた。

 実はこの魔法陣、とても面白い形をしているんだよね。


 普通の魔法陣てさ、丸いじゃん?ほら、円形っていうの。でもね、反射魔法陣は四角形なんだ。本来はダンジョンと呼ばれる場所に、罠として貼ってある物なんだ。だって、敷き詰めるように貼ることができるからねぇ。そう、風すら通さないほど隙間なく……まあ結果がこれだよ。


「反射されすぎて威力が何十倍にも膨れ上がってるねぇ」


 なるほど……これが年老いるまで魔法や魔術、そして魔道具に生を捧げた人間。どこをどうすれば対象に効率よくダメージを与えられるか考えられている。よく見ると、微妙に魔法陣に角度が付けられており、火属性の魔法が最終的に一点に集中するようになっていた。

 そう、つまり範囲魔法を唱えた時に、何十倍にも膨れ上がった威力のまま1つの的に当てるような感じ。もっと簡単に言うとだな……複数の火炎放射器を1つの的に当てるようなそんな感じかなぁ?いわゆるオーバーキルっていうやつ。

 さすがに私はこんなこと考えなかったなぁ。


 だけど、私だって彼女とは変わらない。同じ魔法、魔術、魔道具を研究し続けている人間だ。コレの対処だって何も問題なくできる。


 水という属性がある。実はこの属性、火属性と相性がものすっごく悪い。

 どのくらい悪いかというと、お互いがお互いを打ち消しあうほど相性が悪すぎる。


 一昔前は、水と火を同時に使用する混合魔法は不可能だと言われていた。

 なぜなら、水の威力が強すぎると火を消してしまい水浸しになってしまう、逆に火の威力が強すぎると水を蒸発させ辺りを燃やし尽くしてしまうからである。ならば威力を等しくすれば問題ないのでは?と疑問が出るのだが、実は威力を等倍にしても意味がない。等倍にすればお互いを打ち消しあってしまうからだ。

 ではどうやって相性が悪い同士の魔法を混ぜるか?

 それは、お互いの魔法に相性の悪い魔力を込めればいい。火属性の魔法には水属性の魔力を、水属性の魔法には火属性の魔力をそれぞれ込めれば、火属性の水を、水属性の火を生み出すことができる……まあやろうと思う人間はまずいないだろうけどね。

 多分、こんなのやろうとするのは研究熱心な人間か、あるいは暇を持て余した人間だけだもの。


 話を戻して、威力が何十倍にも膨れ上がった火属性のこの魔法を対処するには、同じ威力の水属性の魔法をぶつけてしまえばいい。そうすれば、この炎を消すことができる。

 だけど、この炎が私のところへ到達するのにかかる時間は、目測で約10秒ほど。それまでにコレと同じ威力の魔法をぶつけなければいけない。


 まあ複数の火炎放射器に対抗できるのは、消防車のホースから出る水だと思っている。ほら、水圧とかそこら辺がすごそうじゃん?

 でも、そのまま打ったらどうなるか?


 水は真っ直ぐ飛ぶ。だけど、相手は反射された魔法だから、威力がどんどん強くなる。それに合わせて込める魔力を増やせばいいだけなのだけど、それだと反射され続けている炎は消すことができない。

 ならばどうするか?


 答えは、部屋全体を覆うくらいの水を作ればいい。


 ところで、私が先ほど使った魔法を覚えているだろうか。

 床に水銀で描かれていた魔法陣を、私が消したときのことを。あの時、水銀を私はどうやって床から浮かび上がらせて保存したかな?

 そうだね、包んで凍らせたね。


 それと同じようなことを、この炎で実践してみようか。


 眼前に迫り来る炎に向けて、私は両手を向けた。そして、水属性の魔力を使用して火属性の魔法を撃ち放った。

 出てきたのは燃え盛る水。普通の水と同じく透き通っているが、炎のように燃えている。それは迫ってきた赤い炎を飲み込み、部屋中に反射している炎すら飲み込んで消していく。


 部屋の中に貼ってある魔法陣は、最終的に私の方へ向かうように貼ってあるため、ある程度で流す魔力を切って成り行きを見守ろうと思う。


 ふと、お婆さん……もとい少女の様子が気になり、目を向けてみた。


 なにやらキラキラとした目で、私が放った魔法を目で追いかけていた。


 火と水の混合魔法が珍しいのか、それとも今まで見たことが無かったのか、それより研究者としての血が騒ぐのか……私にはその気持ちが懐かしく感じてしまった。


「……っと返ってきたか」


 部屋中の炎を消し、反射していた透き通った炎は、私の方へ向かってきた。もちろん、私が放った時よりも威力を増して。


「おや?これは少しまずいな……まあ良いか」


 何がまずいかというと、このまま魔法を消すと、ちょっと面倒臭いことになるからだ。主に、掃除が。

 だけど、怒りに任せて魔法を放ったのは彼女だから、仕方ないよね。


「さて、消すか」


 こういう時は、詠唱が必要なんだろうけど、詠唱はない。魔力だけを消す魔術を作ったのは、多分私だけだからねぇ。

 ああ、『魔力を消す』という説明だと、『魔力をこの世界から消している』という誤解を招きそうだから訂正しておこう。正確には、魔力を吸収する魔法だからね。端から見れば魔力を消したようにしか見えないからこう説明しているだけで、実際には魔力を吸収して自身が使用できる魔力に変換しているんだ。


 どうして放った魔力を再び吸収できるか?

 ああ、そのことに関してはまたどこかで説明するよ。どうしても長くなってしまうからねぇ。


 迫ってきた魔法を、私は手をかざすだけで消す。もちろん、魔力だけを消したため、残った炎は動力を失い、重力に従ってそのまま下に落ちていく。


 さて、水属性の魔力を使った火属性のこの魔法は、燃えやすい物体に触れるとどうなってしまうでしょうか?


 そりゃ燃えるだろうねぇ。火属性だもの。透き通った炎が燃えているという不思議な光景が出来上がるけども、元は炎だもの。燃えなきゃおかしいよねぇ。


「ぎゃぁぁあああああ!?も、燃えとる!?」


 混合魔法にキラキラとした目を向け、何やらメモっていた少女は我に返ったのか、目の前で起こっている惨状を見て悲鳴をあげていた。疑問系が混じっている理由は言わずもがな。


 ははっ。

 焦ってる焦ってる。


 何を血迷ったのか、火属性の魔法を使おうとしていたため、羽交い締めにして止めた。


 さすがに私も悪いと思ったよ。

 だから責任持って炎は消しました。ええ。


 このことから、私は人をからかうのはあまりしないようにしようと、心に誓ったのだった。丸。

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