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森の中の大賢者  作者: 凹村凸
東の王国編
22/41

白い女性の幽霊

「『守護神検定』?」

「ええ、彼女ほどのステルス能力があれば、『守護霊検定』じゃ味気ないからいっそ守護神になってしまえば、と思ったのだよ」

「むしろ、そんな検定が神様界にあることが驚きだよ」

「そこ、我らが住んでいるのは『神界』だって言ってるでしょうに」


 神界か……。


「海の底の……」

「それは『深海』」

「新しい……」

「『新世界』」

「え……」

「『死海』では?」

「……」


 死神のツッコミがいつもよりキツい……仕事を奪われたことに対して、やっぱり根に持ってるのだろう。まあ、悪いことをしたとは全くこれっぽっちも思ってないけどねぇ。


 さて……私たちは今、ヒューレー国から家に転移して、一時的に帰ってきている。いや、門を通ってないけどバレないでしょ。すぐに戻ってくれば。

 そう考えて普通に帰ってきたんだけど、家の中に入ると幼女がぶっ倒れてやんの。ブラウンのふわふわな髪で、白を基調としたメイド服を着てる幼女が……真っ白ですな。まるで誰かを彷彿させるような姿ですな。

 どう考えてもソルちゃんです。はい。

 魔力が無くなっていたため、どうしようかと思い抱き上げたところ、いきなり動き出した彼女によってファーストキスを奪われました。ハイ。


「お熱いですな」

「〜〜〜〜っ!?」


 ヒューヒューと囃し立てながら、私をからかってくる死神。口が塞がれて喋れないから、とりあえず死神はあとでぶっ飛ばす。

 あと幽霊。手で顔を隠しているけどそれ、指の隙間から見てるでしょ。顔が真っ赤だぞ、こっちからじゃ髪の毛で見えないけど。

 しかし、死神はポンッと手を打つと、「そういえば……」と思い当たる節があるかのように話し始めた。


「魔力を口から摂取するしか、魔力を回復させる術がない生き物は、そうやって口づけして魔力を回復させるらしい、というのを聞いたことがあります」


 まじか。

 そういえば、魔力を回復する際、ソルちゃんは毎回私の腕に噛み付いて回復していた。


「んんっ!?」

「どうされました?」


 こいつ……舌を絡めてきやがった!いろんな人から石とか魔法とか言刃(ことば)とかぶつけられたらどうするんだ!!

 ……あ、なんか甘い。


 じゃないくて、いつまでコレ続くのかな!?



*****



 結果、ソルちゃんの意識が戻るまで続きました。

 死神は途中で、「飽きましたねぇ」とか言って、女性の幽霊を連れて神界へと帰って行った。

 意識が戻ったソルちゃんはトロンとした顔をしていると思いきや、天真爛漫で無邪気な笑顔を向けて「ごちそうさま!」と言ってきた。うん、無邪気なのはいいことだよ。私なんてほら、やましいことしか考えてなかったからさ。

 ロリコンじゃないよ。本当だよ。


「いや待って、喋れるの?」

「喋れるようになりました」


 なんと、人間の姿になったことで喋れるようになったらしい。今までの落書きのような姿では話すことができなかったのに、幼女の姿になった途端話せるようになるとか……不思議だ。


「これで後100年は大丈夫ですね!」


 一体この子はいくつなんだろうねぇ?と、そう思いながら苦笑した瞬間、ソルちゃんは微笑みながら言った。


「わたしに年齢なんてありませんよ」


 うわ、微笑んでいるだけなのに、その表情が眩しすぎる。

 いや、ちょっと待とうか。今、何も喋ってないのに彼女は言葉を返したよね?


「2000年以上一緒なのですから、表情やジェスチャーで意思が伝わるのなんて、別におかしくもないでしょう?」

「2000年!?」


 あれ?600年とかそこらじゃないの!?いつ2000超えたの!?


「混乱されてますね?ちょうどいい機会ですから、教えて差し上げましょう」


 私の混乱した表情を見て、悪戯(いたずら)が成功したような顔になった彼女は、胸を張りながら説明してくれた。


 つまり、私が呪いを研究していた際に、『悪夢の呪い』『永眠の呪い』の2つにかかってしまったことがあったらしい。「らしい」というのは、彼女も近くで見ていたため、どの魔法陣がどの呪いかというのを理解しているのだ。その時に呪いにかかったのは私だけらしく、彼女は運良く呪いにはかからなかった。

 なぜ私に呪いがかかってしまったか?それは、呪いの魔法陣を作っていた時、魔法陣の術式を一部間違えてしまい、魔法が暴走してしまい、呪いが飛び散ってしまっていたのだ。彼女がかからなかったのは、単純に飛び散った呪いが当たらなかったからだろう。

 この家には『自動解呪』の魔法式が書き込まれているため、呪いが飛び散ってもすぐに解呪されたが、私はそうもいかなかった。なぜなら、その時の私は『自動解呪』の術式を服に刻んでいなかったからだよ。それで、その呪いを解くために私は眠りながら解呪する羽目になり、それを完了するまで300年ほどかかったのだという。


「つまり、私自身の失敗でかなりの時間を無駄にしたと」

「研究者として有り体に言えばそうですね」


 わお。

 いやいや。

 わお。

 えー……


「嘘ずら」

「本当ですよ」


 いやいや、前世の方言が出るほど焦ってるんだけど……え、まじで?


 だとすると、私が500歳以上だと思っていたことが勘違いってことになるじゃないか。実際には2000年経ってるから、つまり私は2000歳以上。ソルちゃんでも正確な年齢はわからないみたいだけど、ソルちゃんと出会ったのは私が500年以上春っぽい季節を数え終わった後。つまり、ソルちゃんが2000年以上一緒と言ったことを考えると、少なくとも私の年齢は2500歳を超えている……笑えんわ。


「…………」

「どうしました、ノム様?」

「…………よし、依頼をこなしてこよう!」

「逃避をしたくなる気持ちもわかりますが……逃げないでください。これが現実です」

「妖精に現実を突きつけられるとか……」

「正確には妖精ではないのですがね……」


 ボソリと小さな声で何か言われたが、うまく聞き取れなかった。


 orzの体勢になって現実を嘆く大賢者と、その大賢者を慰める幼女の図が出来上がった瞬間だった。



*****



 さて、いつまでも凹んでいるわけにもいかないため、気を取り直してヒューレー国に戻ってまいりました。

 え、だって、最後の依頼である『草取り』がまだ残ってるのだから。


 転移した場所は人通りの全くない路地裏。なぜかって、人通りが多い場所に転移したら、絶対騒ぎになると思ったからさ。下手すれば、騎士とか騎士とか女騎士とか呼ばれるかもしれないし……あの執事だけとは戦いたくないし……なんでって、面倒臭いからさ。

 あと、まだ私のことを嗅ぎ回っている連中がいるからねぇ。戦争にでも駆り出すつもりかね?


「ってことで、場所がわからないんですけど」

「そういうのは、先に聞いてくださいよ」


 『ロンブス・ユーディキウム』っていう依頼人の居場所がわからないため、冒険者ギルドに戻って聞き出している最中でございます。はい。

 受付さんは、私の冒険者カードとドリュースさんからサインを貰った依頼書を受け取りながら、苦笑してそんなことを言った。相変わらず、子供っぽい印象がある受付さんだなぁ。


「えーっとですねぇ……この国の南側に学園があるじゃないですか。その学園を正面に見て、左に曲がって少し行くと孤児院があるのですが、そこに依頼者がいます」

「孤児院か……」


 孤児院……今じゃ、児童養護施設とか児童相談所とか、色々な名前があるみたいだけど、ここは異世界。日本みたいな呼び方はされていないか。いや、さすがに私でも2000年前がどうだったとか知らないからねぇ。だって森にずっといたんだし。

 しかし……こんな住みやすそうな国に孤児院?おかしくないかや?


「ええ、不思議でしょう?」

「そうだねぇ。ま、深くは訊かんけど」


 深くは訊かないさ。行けばわかるのだからね。


 さて、行きますか。


 こうして、私は依頼者がいる孤児院へと向かうのであった。

 後ろをこっそりとついてきている女性幽霊には気づかないふりをしよう。きっと試験中だろうから。

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