冒険者とはうんぬん
冒険者ってのは、増えすぎた魔物を討伐したり、薬草を採取したり、困っている人間を手助けしたりと様々な依頼をこなす仕事らしい。もちろん、死と隣り合わせの危険な仕事だから、度胸のない人間はまず就かない仕事のようだね。
ただ、この仕事は依頼を受けて、それを成功させての繰り返しらしいから、ランク付けされているみたいだ。前世で読んだラノベの中ではA、B、Cなどアルファベットで順位付けがされていたみたいけど、この世界は違うみたいで、色で順位付けされるみたいだね。全部で六つのランクがあって、最下位が黒で、最上位が白銀だそうだ。黒の次はなんだろうね?白銀から下はなんとなく予想できるんだけど。金、銀、銅、てな感じで。
どうやってランクが上がるんだろうね。そこは説明してくれなかった。
へー、タブーもあるんだ。
冒険者同士の理由なき諍いや、獲物の横取り、裏での取引。あとは国内にいる時というのが条件で、冒険者ギルドの徴集に従うことかな?国外にいる時は強制ではないらしいね。なら、私は研究に集中出来る。多分、私はそのタブーに触れることはないだろう。これ以上言及するとフラグになりかねないため、もう何も言うまい。
「それで、これがあなたの冒険者カードです。無くしますと再発行に金貨1枚が手数料としてかかりますので、お気をつけください」
「はいはい、金貨1枚ね」
私はギルドの役員からカードを受けとった。カードがどんなものか見てみると、表には自身の名前。そして裏には『Rank.B』と書かれていた。『B』って『Black』の『B』かな?わかりにくっ!もしかして、翻訳魔法の影響かね。この魔法、一応言語にも対応できるようにしたから。いや、言語の勉強をサボっているわけではないんだよ。これはちょっと事情があってだね……魔物とも会話できる翻訳魔法の研究をしていたら、偶然言語にも適応できることがわかって以来、ずっと使い続けているだけであります。ただ単に魔法を切り忘れていただけであります。ハイ。
閑話休題。
さらっと金貨とか言われたけど、はっきり言って私はこの世界の相場なぞわからんからな。もしぼったくられたとしても、嘘発見器もどきの魔道具があるからどうとでもなるが、もし丁度持っていたらわからんかもしれないねぇ。ちなみに、今は持っていない。家に置いてきた。
「また、このカードは身分証明書と併用しておりますので、国の門を通る時はこちらをお見せください」
「了解した」
これで仮身分証明書をあの門兵に返せる。帰る時で良いかな。この後寄るところあるし……ん?
何か視線を感じて後ろを振り向くと、先ほどザワザワとしていた冒険者たちがいなくなっていた。が、一人だけ私の方を見ている女性が一人いた。真っ白なワンピースらしき服を着ている。
もしかしたら、ただ受付の方を見ているだけで、私は眼中にないのかもしれないけど。まあ一応声をかけておこうかな。
私はカードを懐にしまうと、女性の方に近づいていった。
「お前さん、何で一人で座っているんだい?」
「…………」
「ん?」
女性は私の方をチラッと見る……いや、髪が長すぎて本当に見たかどうかがわからないが、チラッと見ると次の瞬間、煙のように消えてしまった。
ふむ。幽霊の類だったか。私、そういう系のやつ苦手なんだけどなぁ……まあ、どうにでもなるでしょう。
とりあえず、依頼を見るために掲示板の方でも行きましょうかね。
掲示板はこの部屋の奥、例のギルマスがいた受付の目の前にあった。どうやら冒険者たちは、ギルマスがいなくなったことでやっと依頼掲示板(命名)を見に行くことができたようだ。なるほど、そんなにギルマスは怖かったのか。おじさん、そんなに人の気持ちに敏感ってわけじゃないから、そういうのわからなかったんだよねぇ。半分嘘だけど。
さて、掲示板の前に着きました。
色々な依頼がありますなぁ。
なになに……?
『魔力草を2束ください:銀貨20枚:魔法屋主人』
『家の掃除を手伝ってくれ:無償:ドリュース』
『ホーンラビットのツノが欲しい:1本につき銅貨20枚:冒険者ギルド』
『草取り手伝って:金貨10枚:ロンブス・ユーディキウム』
よし、全部受けよう。一つはボランティアで手伝ってと言っているが、知り合いだから問題ないし。魔力草もホーンラビットのツノも沢山あるからね。あとは……草取りってどこの草取りだろうねぇ?報酬が多いから、きっと広いんだろうねぇ。
とりあえず、剥がして受付に持っていけばいいのかな?剥がす前に聞いてみよう。
「どうされました?」
「いや、依頼の受け方を訊き忘れてしまってね」
「依頼書を剥がしてからこちらにお持ちください。そうすれば、依頼を受注いたします」
「なるほど、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらも頼っていただけるとありがたいので」
とても優しい役員さんだね。若いっていいねぇ。あの受付、男性なんだけどまだまだ20歳になったばっかりって感じで若々しいというか、初々しいというか、そんな感じがするんだよ。いや〜、私の若い頃を思い出すねぇ。
「ではこれをお願いしたい」
「4つも受けるんですか?いえ、特に数は決まっておりませんので良いのですが」
「期間も書いていないのでね。問題ないでしょう」
「う〜ん、まああなたが言うのであれば、こちらも受注いたしますが、本当によろしいので?」
私は笑顔で頷く。すると、男性受付員は受付の下から小さな判子を取り出して、依頼書の右上に印を押した。
『受注
完了』
印にはそう書かれていた。
さて、冒険者としての初仕事だ。頑張ろう。