気のせいかもしれない
新王アレシュ・ウルラは悩んでいた。
金の髪に褐色の肌を持つ武威に秀でた若き王は、その玉座が血まみれであっても、周囲の糾弾が嵐のように吹き荒れても全く気にせず、自身の進める道を突き進んでいる。
その王の悩み。
玉座にて眉間に皴を寄せ、家臣たちの報告や進言を聞きながら、頭の中にはある疑問が付きまとっていた。
長く御側に仕えている腹心、サリュースは主君がこれほど悩む姿をかつて見たことがなかった。いったいどんな難題が王を悩ませているのだろうか。
王の御心を忖度するなど恐れ多いことではあるが、腹心として主君の悩みを僅かでも取り払うことは義務である。
なのでサリュースはこの国が現在直面しているいくつかの問題を頭の中に思い浮かべてみた。
真っ先に考え付くのは隣国との関係か。
アレシュ・ウルラの王位簒奪によって荒れた国内により、うやむやになりはしたものの、弟王子が隣国の王子と手を組んで、この国の重要な鍵を盗み出したことは、国際問題だった。
王子という身分で、その上唆したのはこちらの弟王子なのだから、時間の経った今責任追及がしにくいし、なにより隣国に戻ってしまっている。今更どうこうするには、何か策を考えなければならないことだった。
次に、アレシュ・ウルラの即位を快く思わない諸侯についてだろうか。
若い軍人、騎士たちには絶対的な支持を受けているアレシュ・ウルラ王だが、昔からの貴族には受けが悪い。これは彼自身が昔からの習慣を一切気にしない政策、血よりも実力を重視した結果で、アレシュ王を嫌う連中は自業自得の逆恨みでしかないのだが、そういう連中に限って力を持っていたりする。
彼らはアレシュの外見が明らかに異国の血を引いていることも気に入らないらしく、あんな外見の者を王にするなど冗談じゃないと、アレシュの即位式に持病があるだの身内に不幸があったのだの言い訳をして、出席しなかった。
あとは北部の方に巨大な竜の巣が発見されたとか、南の方で干ばつが起きているとか、アレシュ・ウルラの統治は全く落ち着かない。
そのうちのいくつかを自分が引き受けられるだろうとサリュースが考えていると、家臣たちが去った謁見の前にて、アレシュ・ウルラの溜息が響いた。
「陛下」
「……」
「どうかそのお心の負担を僅かでも、我ら家臣にお分け与えください」
「……」
「ここ数日の陛下のご様子、これは並々ならぬ問題が陛下を煩わせていることであるとお察しいたします」
「……俺は最近、そんなに変か」
「いえ、そのような。アレシュ・ウルラ陛下こそ常に威風堂々とされ、自信に満ち溢れた覇気あるお方でございます」
「世辞はよい。…………考えていることがあるのだが、どうも、俺の思い違いではないような気がしてな」
「……と、申しますと?」
サリュースは首を傾げる。
自分が思い浮かんだ、陛下を悩ませるあれこれの中に陛下のこの言葉が該当するものがあるだろうか。
しかし、あれこれサリュースが考える必要はもうなかった。
少し待って、アレシュ・ウルラが口を開き、答え合わせをしてくれたのだから。
「もしかすると、ライラ・ヘルツィーカは俺のことが好きではないのか?」
そうだよ!




