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番外:兄妹6


「どっちでもいいのなら……彼らのことを、どちらでも、なんでも、同じだと……思っているのなら、そう見えているのなら、関わるな!」


 腰にさしていた剣をジルさんが抜いた。


 ぶわっ、と、何か、魔法の力のようなものが私にも感じられるほど膨れ上がる。


「ちょ……お兄さま、もしかしてジルさん……お強いんじゃないですか!?」

「この国では今のところ五人しかいない聖騎士の一人だね」

「強いじゃないですか!!」


 いかにも悪の魔法使いです、魔王です、みたいなお兄さまが……ここで聖なる騎士と対峙するとか、敗北フラグじゃないのか!?


「そう?」


 しかしお兄さまはのんびりとされていて、あたふたとする私を面白そうに眺めるばかり。


「風の大守護者シルフよ! 僕に力を!!」


 ジルさんの叫びと共に、ゴォオオと、暴風が吹く。私は立っていられなくなりお兄さまの服を掴むと、お兄さまは嬉しそうに笑った。







 結論から言うと、ジルさんは秒殺(比喩)された。


 お兄さまが、顕現した風の大精霊とやらを一瞥して「頭が高い」と一言仰った途端、風の大精霊が地面にめり込む勢いで平伏したからだ。


 けれどお兄さまはそのままジルさんを惨殺することはなく、山の人たち、村の人たちの件についてはジルさんが全部決めるようにと言って、私を連れて王都へ戻ってきた。


「山を焼くか、村を焼くか、私はどっちでも構わなかったんだけど。今回の目的は可愛い妹とのピクニックだったしね」

「……は、はぁ……」


 木間みどりの私の身体から、ライラ・ヘルツィーカの身体に指輪を移し替えて、お兄さまは微笑む。


 私は瞬き一つ、銀の髪に青い瞳の美しい少女。ライラ・ヘルツィーカの身体で目覚め、眉を顰めた。


「私があの時、村に行く選択をした場合、どうなっていたんです?」

「その時は、ただ普通に村にあの兄妹を置いて終わったと思うよ」


 そうかなぁ……。


 平然とお兄さまは答えるけれど、なんだろう。


 村が焼かれていた可能性が、私には見えた。


 いや、お兄さまが燃やさなかったとしても……山の人たちに再度説得されたジルさんが、悩み抜いた末に「もとはと言えば、今の村の人間たちが、山の人々を襲ったから彼らは罪を犯さなければならなくなった」と辿り着いた、とか。


 考えてみれば、結局お兄さまは私が疑問に思った謎の答えを知る手伝いをしてくれただけで、村のこと、山のことは本当にどうだって良かったのだろう。



 後日、人に調べて貰った所によると、グェン家の次男は……あの村を風の大精霊の力で全て吹き飛ばして更地にしたらしい。家屋も田畑も全部。


 なんでも、大声で涙を流しながら「これで全て、やり直そう! この土地で、皆で、力を合わせてやり直そう!」と、村人と山の人を集めて訴えて……両方からタコ殴りにされたそうだ。


 村人からすれば、穏便に平穏に暮らすための数々の努力が台無しにされたわけで、山の人たちからすれば、十年前の惨殺をなかったことにされたわけで……。


 グェン家の人間が暴行されたと、領主家は騎士団を率いてこの騒動を鎮圧して、結果、女子供以外は捕らえられ、流刑地に送られたとか……。


「選べば片方だけでも助ける事ができたのにね」


 と、その報告を聞いていた私に同席していたお兄さまが気の毒そうにつぶやくが、多分、お兄さま、こうなることをわかっていらっしゃったんだろうな。



 私は暫く息抜きの外出は良いです、とお兄さまに伝え、お兄さまはいつものように「そう?」とだけ返された。




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