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番外:兄妹4

「……うわぁ」


 思わず私は声を漏らす。


 夜襲をしかけた私たちの真上には煌々と光り輝くお兄さまの魔法の灯り。その眩い光に照らされる黄金のような金の髪に、サファイアのような瞳。真っ白い肌の、十人いれば十人が認める「美形」の青年が現れた。


「盗賊とは思えない顔の良さ……」


 いや、それは偏見だろう。だが盗賊に似つかわしくない上品な、貴族的な雰囲気のあるその青年は私とお兄さまに敵意を露わにし睨み付けてくる。


「僕は盗賊ではない! そして彼らも、盗賊などではなく、憐れな被害者、善良な村人だ!!」

「若旦那! こいつら魔法を使いやすぜ! お気をつけて!」

「ありがとう! 君たちは早く安全な場所へ……! ここは僕が引き受ける!」

「……君、グェン家の次男じゃないかい? ここの領主のグェン伯爵家の」


 ドン、と「ここは通さない!」というように、盗賊たちを背に庇い槍を地面に激しく打ち付ける顔の良い青年に、お兄さまが声をかけた。


「お兄さま、お知り合いですか?」

「面識はないけれど。あの容姿に、あの頭の悪そうな一方的な正義感。宮中で噂に聞いたことくらいはあるからね」


 今、さらりと悪口っぽいものを言われたような気がするが、お兄さまが人を悪く言う筈がない。


「ところで君は、あぁいう顔の男が好きなのかい?」

「え? いえ、顔の良い人は人類の宝だとは思いますが、好みの問題で言えば、私は渋さの滲み出るナイスミドル、すなわちイケているオジさまが好みですので、若造はちょっと……」

「そう? ちなみに私はこれでも君よりずっと年上なんだよ。具体的にはアレシュより年上だよ」


 突然の告白。いえ、お兄さまがおいくつなのか確かに知らなかったけど……それは今、聞いておくべき話題なのだろうか。


「うん? 僕を知っているのか、君たちは。見たところ、旅人のようだが……」


 えぇ……貴族のお坊ちゃんらしい顔の良い青年。こちらが「貴方のことを知っていますよ」と示した途端、敵意が綺麗に消えてしまう。えぇ……いいのか、それ。


 ちなみに逃げようとしていた盗賊たちはお兄さまが全員足首を石にする魔法をかけて逃亡できなくなりました。





「む……誤解だ誤解! 彼らは盗賊などではない! 確かに僕も、当初は兄上より、山に住み着いた彼らの討伐を頼まれたのだが……」


 顔の良い青年、名前はジル・グェンというらしい。こちらが特に名乗らなくても「王都の夜会でおみかけしましたので」と言えば、勝手に「そうか! 貴族家の方か!」と納得してくれた。


 ちなみに私のことはお兄さまの侍女か何かだと思っている様子。


 まぁ、煌びやかなお兄さまの隣にいる黒髪の見るからに異邦人が「妹」とか名乗ったら、この単純そうな青年もさすがに怪しむだろう。


「盗賊じゃないって、それじゃあ、何なんです? 移民とか?」

「いや、違う。彼らは……ここから少し離れた村の村人なのだ」

「……」


 おーや?


 なんだか、ちょっと話が変わってきたぞ??


「わ、若旦那! そいつらと何で急にそんな親しそうに……!」

「まさかまた、俺たちを裏切るんじゃ……!」


 同じ貴族同士ということで警戒心ZEROになってしまったジルさんに、盗賊……じゃなかった、善良な村人だと主張しているらしい人々が声をかける。


「ち、違う! 僕は、君たちを裏切るつもりは……君たちの境遇は本当に気の毒だと思ったし……力になりたいと、本気で思っているんだ!」


 善良な村人(自称)たちに疑われ、ジルさんは狼狽えた。


 話の展開はこうである。


 ジルさんは騎士として親類の領地で立派に修行を終えて、実家の騎士団に入るべく舞い戻ってきた。

 立派な騎士になったジルさんを、領主になったお兄さんが喜んで迎えてくれて、弟の実力を見込んで最近領内の山に住み着いたという盗賊の討伐を依頼した。


 敬愛する兄上のお役に立てるのなら! と、意気揚々とまさかの単身で盗賊討伐に挑んだジルさんは、盗賊のアジトを発見し「成敗!」しようとしたのだけれど、彼らは必死に命乞いをして、自分たちは《村を奪われた村人だ》と訴えたらしい。


「それ信じたんですか!?」

「あぁ! 本人たちがそう言っているんだ」

「えぇぇええ……」

「私は領主家の人間、そしてこの土地を守護する騎士。グェンと、治める兄上の威光の前には誰が嘘などつこうものか」


 え、えぇええぇええ……。


 私はお兄さまによって拘束された自称村人たちを眺める。


 男女比率で言えば、男が圧倒的に多い。女性もちらほらいるにはいるが、か弱い村の女性というより、ちょっと露出が多いというか……その道の御商売の女性に見える。


 ジルさん曰く、十年前に彼らは今の村に住んでいる連中に突然襲われたそうだ。生き残った彼らは狩りに出ていた者、街へ買い出しに行っていた者、つまり男性がメインで、その留守を狙われたのもだろうとも語っていた。


「それで僕は、そんな非道な連中は許しておけないと、彼らの奪われた村へ向かったのだが……」


 村は平和、平穏、善良そうな村人たちが普通に生活をしていた。


「……最初は、よそ者の僕を警戒して、村全員が演技をしているのではないかと疑ったのだが」


 疑う心があったのか、ジルさん。


「村の子供たちは可愛く素直だし、村人たちも皆親切にしてくれた。それに、兄上からもどこかの村が税の支払いをしていない、とは聞いたことがない。彼らがもし……非道の盗賊“だった”としても、今は改心し、土地に落ち着き、領民として生活しているのなら……」

「あ、リドくんの言っていた先生って、ジルさんのことですか?」

「あの子を知っているのか?」

「えぇ。まぁ」

「そうか。あの子はとても勇敢な良い子なんだ」


 ふわり、とジルさんが微笑む。


 うーん……悪い人じゃない。


 つまり、まぁ、つまり。


 ジルさんは山の人たちの言葉を信じて、村人を成敗! しようと意気揚々と向かったけれど、その先にいたのは平凡な人たち。


 もう十年も前のことだから。もう過去のことで、彼らは今、きちんと生活しているのだから、ジルさんは「彼らを許してあげられないか」と、山の人たちを説得しようとしたそうだ。

 




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