番外:兄妹3
「さて、それで、どっちにする?」
栄養補給も済んで、片付けをし終えた私にお兄さまが尋ねる。
リドくんたち兄妹はお腹がいっぱいになったのと、ここまで歩き通した疲労からか眠りに落ちてしまっていて、お兄さまの馬が二人の側に膝を折って風よけになるよう守ってくれている。
「どっち、というのは?」
「選択肢が二つあるだろう? 二人を村に連れていくか、それともその盗賊団の元まで付いていくか。君の性格を考えると、二人とこのまま別れるというのはなさそうだしね」
「それは、えぇ、まぁ、そうですね」
「私はどっちでも構わないよ。同じことだしね」
村人に子供を返すのと、盗賊団を相手にするのは大分違うと思うんだけど、お兄さまからしたら変わらないらしい。
私はあどけない顔をして眠る二人を眺めた。
「……ちょっといくつか、疑問があるんです。どうして、盗賊は先生をボコボコにしたあと……村長の娘さんでなくて、先生を連れて行ったんでしょう?」
リドくんの話では日頃の腹いせをしてやりたいからアジトへ、ということだったのだけれど、それはそれとして、なぜ当初の目的通りユリさんを一緒に拐わなかったのか。
盗賊に対して、領主に討伐の訴えを出さない村。
リドくんたち孤児を育てくれるほど大切にしているのに、連れ戻しにこない村。
「……このまま、リドくんたちを村に戻していいのかしら?」
先生を見捨てることにはなるが、私にとって簡単な方といえば、二人の子供を村に送り届けること。リドくんは抵抗するだろうがミラちゃんは協力してくれるだろう。
リドくんの話をまとめてみると……
・二人は村の子供で孤児である
・リドくんは“先生”を助けるために盗賊のアジトへ向かっている
・“先生”は善人である
・村の大人たちは“先生”を助ける気がなく、放っておくことを選んだ
ここに、お兄さまの<①なぜ領主に助けを求めないのか>という疑問。人の語る情報《》から浮かび上がる疑問を<>で表すとすると……
<②盗賊はなぜ村長の娘を狙っているのか>
<③なぜ村長の娘を拐わず“先生”だけ連れて行ったのか>
<④村の人間たちは何故リドくんたち兄妹を放っておいているのか>
と、現在一方的にリドくんの話を聞いただけではわからない問題が浮かび上がる。
このまま村へ二人を連れてけば①④の疑問については答えがわかるだろうけれど、そのままハイ、さようならをしては②③の疑問が不明なままで、気になってしまうと、どうも……うーん。
「……お兄さま、ちょっと寄り道して頂いてもいいでしょうか」
と、私はハヴェルお兄さまにお伺いを立てた。
*
「と、言うわけで、初手攻撃魔法を撃ちこんでおこうか」
リドくんに教えて貰った場所と、お兄さまの感知魔法で見つけた盗賊団のアジトがあるらしい洞窟へお兄さまの掌が向けられる。
ハイ、ドゴォオオオォオン、と。
軽い調子、明るいお顔とは正反対な、わりとエグめのエフェクトのついた魔法陣が空に浮かび上がり、地獄の窯の蓋でもあけました??? と思うほどの爆音が響き渡った。
「わぁ、お兄さま。まぁ、お兄さま。……やりすぎていらっしゃいませんか?」
「そう? でも、ほら、確か……君たちの世界の物語に……盗賊は人権がないからどう扱ってもいいっていう名言があるとか……異世界で盗賊いびりをするのはそっちの人間にとってロマンだとか……聞いた覚えが」
誰でしょう。その独断と偏見に満ちた知識を異世界に持ち込んだ迷惑人は。
しかしお兄さまは音と光はハデだけれど「威力それほどないよ」と仰って、実際、ワラワラと蜘蛛の子を散らすように洞窟から這い出てきた盗賊らしい人達は殆ど無傷だった。
「な、な、なんだ……あんた達……!」
「なんだァ!?」
「通りすがりの魔術師とその可愛い妹だよ。とりあえず、服従するか死か選んで貰ってもいいかな」
私たちに気付いて怒鳴ってくる盗賊たちに、お兄さまは朗らかに微笑みかける。
「は? は……?」
「な、なんなんだ……?」
「よ、よくわからねぇが……俺らを捕まえに来たってことか……? おい、若旦那はどこだ……!?」
若旦那。
ほう。
盗賊たちがこんな時に咄嗟に呼ぶのは、頼りにしている存在に違いない。リーダーとかそういう立ち位置の人だろうか。
「君たち……!! 突然、何の罪もない憐れな民に向けて……なんという暴挙! なんという蛮行! すなわち、悪!」
私が盗賊たちの首を飛ばそうとしているお兄さまを止めていると、洞窟の奥から、救援したらしい人を背負って誰かがやってきた。