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14/25

*私は、ただのジュリア*

次で終わると言いましたが、終わりませんでした。

申し訳ない。

わたしはジュリア。

ただのジュリア。


生まれた場所は知らない。

物心ついたときは、もうあの教会の屋根うらでお母さんと二人で暮らしていた。


国境沿いの小さな村。全員で百人いるかいないかくらいの、貧しい村。

そこにひっそりと、わたしとお母さんは息を潜めて住んでいた。


お母さんはとても美しい人だったと、教会の神父さまはおっしゃっていた。


けれど、わたしの知るお母さんは、顔がぐじゃぐじゃに溶けていたし、わたしと同じ色だったらしい薄紅色の髪はすっかり抜け落ちてしまっていたから、わたしにはよくわからなかった。


「こんな姿にならなければ殺されていた」


そう、お母さんは話してくれる。わたしの髪を梳いて、わたしの体を洗いながら、何か嫌な物を見るようにわたしを見て、そう話す。


「いいかい、ジュリア。お前もきっと美しくなる。でも、男の心を蕩かすような女じゃあない。お前の瞳は男が自分の姿を映すために、お前の頬が染まるのは男の自尊心を満足させるために、お前の唇は男に奪われるためにある、そんな美しい娘になるんだよ」


あぁ、残酷だ、とお母さんは言う。

わたしは美しい娘になることが良い事なのか、悪いことなのかわからなかった。

けれど、私の背が伸びて、少しずつ胸が膨らんでくるようになると、わたしとお母さんはとてもひもじい思いをするようになった。


これまでは教会の神父さまがわたしとお母さんのお世話をしてくれていたのに、「子爵様からの援助が止まった。この貧しい教会でお前達を食わせる余裕はない」とおっしゃった。男の子が生まれたとか、そういう話を聞いたけれど、よくわからない。


お母さんは必死に神父様に頼んでくれた。

せめて娘の、ジュリアの分だけはとそう縋ってくれて、わたしはどうして、これまで優しかった神父さまがそんな意地悪を言うのかわからなかった。


暫くして、神父さまはお母さんを夜中に連れ出して朝まで帰ってこなくなるようになった。そうした次の日から暫くは、わたしとお母さんはパンとスープを食べさせてもらうことが出来た。


村の子供たちとは遊んだことがなかった。

ただ教会の屋根うらで暮らしていただけの小さな世界だった。

教会にやってくる村の人たちを、屋根裏からこっそり覗くような生活だった。


そのうちに、神父さまがわたしも何か働くように、とおっしゃって、屋根裏から見かけた村の子供たちと一緒に薪を拾いに行ったり、そういうことを私もしていいようになるんだとドキドキしたけれど、わたしがする事はとても痛くて体が辛くなることだった。


神父さまや、わたしに仕事をさせる村の男の人たちは「どのみち日陰者。どうせロクな生き方はできやしない」とそう言った。


だから、そういうものなんだと思って、わたしはお母さんが神父さまにしなければならないことを、わたしもするようになるのは、きっと仕方ないことなんだと、そう思った。


お母さんは顔中に真っ赤な水ぶくれが出来て、死んでしまった。


わたしは神父さまにたくさんお願いして、なんでもして、お母さんを助けてくださいって言ったけれど、お母さんを治す薬はとても高いから駄目だって、助けてくれなかった。


朝から夜までずっと、屋根裏のベッドの上で過ごした。いつも天井を見ていて、いろんなことが終わるのを待っていた。時々優しくしてくれる人もいるけど、そういう人は村の中で他の村の人にいじめられたり、からかわれている人だった。


わたしに優しくすれば、わたしの方がみっともなくて可哀想になるから、優しくしてくれるだけだって、知っていた。


わたしが十六になった頃、村にとても立派な、これまで見たこともないくらい、とても綺麗な服を着た男の人がやってきた。わたしはそれを屋根裏で見ていたのだけれど、すぐに神父さまが真っ青な顔をして、わたしを呼びに来た。


わたしは下着しかもうずいぶん長い事身に着けていなくて、服なんて持っていなかったから、神父さまの大きな服を着せてもらって、立派な服の男の人の前に出された。


男の人が神父さまと何を話したのかはわからない。

だけど、わたしはそのまま馬車に乗せられて、子爵さまのお屋敷に連れていかれた。


そこでわたしは、子爵さまの血を引く子供で、きっと魔力があるだろうと手を切られた。真っ赤な血が流れて、それをお皿の上で伸ばしたり、水につけたり、していたのだけれど、わたしの血はお皿の上で勢いよく燃えだして、あっという間になくなってしまった。


そして、わたしは屋根裏のジュリアから、子爵令嬢のジュリアになった。


「お前の母親はとんでもない恥知らずな女でした。何もできない、か弱い顔をして、瞳を震わせていれば、なんでも思い通りにできると考えていたのよ」


お屋敷で、わたしのお義母さまになる方は、わたしを何度も打ちながらそうわたしに話した。


【泥棒猫】

【恩知らずの、おぞましい女】


それがお母さんのことだと、わたしがきちんと理解するように、何度も何度も頬を叩かれた。

お屋敷には、わたしのきょうだいになった子供が何人かいたけれど、わたしはきょうだいではなくて、めかけのこだと、そう言われた。


水をかけられて一晩中外に出されたり、わたしのごはんにだけ泥が入っていたり、虫がいっぱい、ベッドに這っていたり、そういうことばかりだった。


わたしは村から出る時、少しだけ、自分は幸せになれるんじゃないかって、そんなバカな夢を見ていた。

でも、あの屋根裏でひっそりと生きていけるだけで、生かして貰えるだけでわたしは十分幸せだったって、わたしは思わなくちゃいけなかった。


だってわたしは泥棒猫で恩知らずな女の娘で、どうせロクな生き方ができないんだもの。







17歳になって、わたしは貴族の人たちが通う学校に通わせて貰えるようになった。もう一年もないうちに卒業する年で、先生たちが何を言っているのか全くわからなかったけれど、でも、そこに一年通えばお父さまは良いっておっしゃってた。


そこでわたしは初めて、わたしのおじいさまという人に会って、おじいさまはわたしを抱きしめて「今まで助けてやれずすまなかった」とそう涙を流してくださった。


わたしはおじいさまが抱きしめてくるから、きっと足を開かないといけないんだわ、と思って綺麗な制服を脱ごうとしたんだけど、おじいさまは「そんな恥知らずなことをする必要はない!」と、わたしを怒鳴って止めた。


でも、綺麗な服を貰って、あの意地悪ばかりする人たちの家から出してもらって、学校に通えるようにしてくださったのはおじいさまだったから、わたしは足を開かないといけないのに、おじいさまは「違う、それは違う」と何度も何度も何度もおっしゃった。


学校で、わたしはいつもひとりぼっちだった。


授業にもついていけないし、貴族のひとたちは皆、わたしをいないものだってそう思っているみたいだった。


あのお屋敷だと、わたしはそこにいちゃいけないから、意地悪されたけど、でも、学校の貴族のひとたちは皆、意地悪なんてしなかった。当然よね。だって、わたしはいないんだもの。みんなの目に見えないから、誰も何もしない。


気に入らないなら、そう言ってくれればいいのに、何か間違えているなら教えてくれればいいのに、わたしが貴族の女の子がしないようなことをしても、誰も何も言わなかった。透明な人間になったみたいだった。


「どうして皆、わたしのことを無視するの?」


学校に通って三か月くらいして、わたしは放課後、一人教室に残っている同じクラスの女の子に聞いてみた。


その人はちょっと驚いたようにわたしを見て、その綺麗な青い目を細めた。


「わたくしが貴方に関わらないのは、あなたに興味がないからですわ」

「わたしのことが気に入らないから?」

「いいえ。あなたが何をしようと、どうでもいいの。わたくしにはわたくしの選んだ道があって、あなたに構っている暇はありません」

「皆そうなのかしら?」

「それはわからないわ。人には人の事情があるもの」


銀色の髪に、とても綺麗な顔の、お姫さまみたいな女の子だった。

おじいさまが、わたしに文字の勉強をするようにってくださった絵がたくさん描いてある本に出てくる、お姫さまみたいだった。


「わたしはここに相応しくないでしょう?」

「振る舞いのこと?それとも身分の事?」

「どちらもよ。だって、わたしは恥知らずな女の娘で、貴族の作法なんてこれっぽっちも身についてないんだもの」

「身分であれば子爵様があなたを認知され、学園長が保証人となられていると聞いています。魔力を持つすべての貴族の子供はここへ通う資格と義務があるのですから、あなたがここにいることは、あなたの身に流れる血の義務だわ」


銀色のお姫さまは、わたしにもわかるようにゆっくり易しい言葉で言ってくれた。


「振る舞いに関して恥じ入る心があるのなら、身に着ける努力をすることをお勧めするわ。わたくしたち学生はあなたの振る舞いを指摘して正そうとはしない。あなたが十歳にも満たない子供ならそうしたけれど、もうすぐ成人になる貴族の娘がそう振る舞っているのなら、それは自分でそう選んで振る舞っているのだって、考えるからです」

「どうすればいいかわからないの。ねぇ、あなた、わたしに教えてくれない?」

「……いや、あたしがなんでヒロイン育成しないといけないの?」

「え?なぁに?」


最後の言葉の意味だけわからなくて、きょとん、と首を傾げると銀色のお姫さまは慌てて手を振った。


「なんでもありません。わたくしにも都合があります。もう半年ほどで卒業ですから、生徒会の仕事の引継ぎとか、花嫁修業とか、フラグ折ったりとか」

「わたし、あなたみたいになりたいの」

「……」


わたしは必死にお願いした。男の人なら、足を開いてお願いすればよかったけど、銀色のお姫さまはわたしの体なんて欲しくないだろうし、どうすれば聞いてもらえるかわからなかったけど、でも、必死でお願いした。


きっと今のままじゃだめだって、そう、わたしにもわかってた。


銀色のお姫さまは放課後、短い時間だけわたしと一緒に過ごしてくれた。

二人でいるところを誰かに見られたら、余計な噂が立つから、会う時は誰にも見つからないようにこっそりと会った。


歩き方とか、話し方、貴族の女の子はどういう風にするのが作法なのかって、それを教えてくれた。


「どうしてお作法通りにしないといけないの?窮屈じゃないかしら?こういう風に、きちんとできていることが立派ってことなの?」


マナーを教えてもらうのは嫌じゃなかったけれど、どうしてそうしなければならないのか、よくわからなかった。

それで、銀色のお姫さまはこういうのが好きなの?と思って聞くと、お姫さまは首を振った。


「嫌ならしなくてもいいと思います」

「いいの?」

「マナーは自分の為のものじゃありません。相手のためのものです」

「できてると自分が素敵ってことじゃないの?」


自分の価値をよく見せたりするものだって、思ってたけど、お姫さまは違う、と言った。


「相手に不快感を与えないためです。たとえばテーブルマナー。手づかみで食べたっていいけれど、誰かが自分と一緒に食事をしているのなら、相手が気持ちよく食事を出来るように、礼儀正しく振る舞う方がいいでしょう。立場がある同士なら、お互いマナーを守って振る舞えば互いに敬意を示しあう事が出来る。それが礼儀作法です」

「……わたしがマナーを知らないでお話ししていると、嫌な気持ちになった?」


心配になって聞くと、お姫さまはすぐには答えてくれなかった。

少し間をあけて、困ったように笑ってくれた。


「実はわたくし、あなたのことは嫌いじゃないの」


あぁ、その時、わたしがどんなに幸せだったか、きっとお姫さまは……ライラさまは御存知ないのだわ。

わたしのことを嫌いじゃないって言ってくれる人がいたことが、どんなに嬉しかったか。


わたしはライラさまのことが大好きになっていたの。







「母親が平民、というのは君か?」


ライラさまに礼儀作法を教えて頂けるようになって暫くして、恐れ多くも王太子殿下がわたしに声をかけてくださった。


最初は、ライラさまの婚約者である王太子殿下だから、ライラさまから何かわたしのことを聞いて興味を持ってくださったのだと、ライラさまに認めて頂けた気がして嬉しくて、一生懸命、王太子殿下に気に入られるよう、わたしがきちんと振る舞えていることを殿下からライラさまに伝えて頂けるよう、がんばったの。


マレク殿下はわたしにとても良くしてくださった。授業でわからないことがあればなんでも教えてくださって、とても親切にしてくださった。


だけど、マレク殿下と親しくなってから、ライラさまはお忙しくなったとかで、わたしと会ってくださらなくなった。


「少し、手伝って貰いたいことがあるんだ」


留学されている隣国の王子さまとマレク殿下はご友人同士だった。

でも、あまり仲が良い事を人に知られてはいけない、とかで会う時はわたしが殿下からの手紙を隣国の王子さまに渡していた。


わたしはお二人にちゃんと気に入られるよう、ライラさまから教えていただいた礼儀作法を一生懸命守った。


隣国の王子さまがお国に帰られる、という時、おじいさまからとても大切なものを預かった。これを国境沿いの村まで持って行って、待っている王子さまに渡すように、そうしたら、わたしは将来、マレク殿下の寵姫としてお城に上げて貰えるって、そう、おじいさまと約束してくれたらしかった。


マレク殿下の寵姫になれば、ライラさまと卒業しても一緒にいられる。

わたしはとても嬉しかった。

だから、あまり近づきたくない村……あの、貧しい村に行くことも苦じゃなかった。


貴族の娘として引き取られてからも、何度か村には帰った。

お母さんのお墓参りをするためだった。


わたしの昔を知る人たち。


「立派になったもんだ」なんて言いながら、わたしが帰る度にお金やその他のものを寄越せと言ってきた。


「あれだけ良くしてやったんだから当然だ」と誰もが言った。


その日も、わたしが鍵を持って村へ行くと、村人たちはわたしがお金を渡しにきたのだと群がってきた。貴族の生活を知り、いろんなことを学んだ私には、彼らが虫に見えた。

甘いお菓子に群がってみっともなく貪り食うだけ貪って、お腹を大きくして動けなくなったところ踏みつぶされる馬鹿な虫。


わたしの体は虫に集られていたのかと、気持ちが悪くなった。


鍵を、村の外れで待っている隣国の王子さまに渡さなければ。そう思って、わたしは村人たちを追い払って、出ようとして、ライラさまがいた。


どうして、どうしてライラさまがこんな汚い場所にいるのかわからなかった。

だけどライラさまはわたしに近づいて、鍵を返しなさいと言った。


嫌よ、駄目。

この鍵を渡せば、わたしは王太子殿下の愛人になれる。

そうしたら、ライラさまと一緒にいられる。

だから、渡したくなかった。


ライラさまはわたしに怒鳴った。


「これがどんなに恐ろしいことかわかっていないのよ!!あなただけじゃなくて、あなたのおじいさまも破滅するのよ!!?」


いつもの美しい毅然としたお姫さまの態度ではなくて、なりふり構わない必死な様子でライラさまはわたしに怒鳴る。


あぁ、わたしのことを嫌いになってしまったんだわ。

わたしは嫌われてしまったんだわ。

わたしなんかが王太子殿下の愛人になるのが、嫌なのだわ。


わたしは悲しくなって、鍵を投げ捨てた。それをライラさまが拾い、茫然としている隣の国の王子さまに何か言って、そしてわたしはライラさまの馬車で一緒に帰った。


ライラさまは王太子殿下と何かを話し、鍵を持ちだしたのはライラさま、そういうことになった。


それで、それからのことは、わたしにはどうしてそういうことになったのか、わからないの。


わたしはライラさまにいじめられている可愛そうな女の子、ということになって、優しくしてくれる人が増えた。


ライラさまは独りぼっちになった。


わたしが王太子殿下と一緒にいると、ライラさまがすごい剣幕でやってきて、わたしの腕を掴んで殿下から引き離す。


「もうこの子には手出しをしないと約束したはずでは?」


わたしを背に庇い、ライラさまは殿下を睨み付ける。

そのたびに殿下は目を細めて笑い、わたしに手を伸ばす。


「俺が他の女に目移りしているのがそれほど気に入らないのか?」

「この外道……ッ」


どうしてそういうことになったのかわからない。


でも、わたしが王太子殿下といると、ライラさまが飛んできてくれる。

わたしのこと心配してくださって、守ろうとしてくださる。

それが嬉しくて、わたしは殿下の傍にいた。


それからひと月ほど経つかというくらいに、中庭でライラさまが殿下から婚約解消を言い渡された。


学校の在中騎士さまたちに体を拘束されて、殿下から罵倒されるライラさまは毅然とされていた。髪を引っ張られても、無理矢理地面に膝をつかされても、ライラさまはいつもとお変わりなく、いいえ、いっそう美しかった。


あれ?でも、そうなったら、もう殿下なんかどうでもいいんじゃない?


ライラさまと殿下は何の関係もなくなった。

ライラさまは独りぼっちだわ。


だったらもう、殿下の愛人になんかならなくても、ライラさまのお友達になれればいいんじゃない?


殿下は短いし、早いし、しつこいから本当は嫌だったの。

もうおべっか使わなくていいって、わたしは気付いてとても嬉しくなった。


でも、ライラさまは鍵を盗んだってことになっているから、わたしがそれをうまく解決したら、きっとわたしのことを許してくれる。


わたしとおじいさまは騙されただけってことをちゃんと知って貰えて、殿下が犯人なんだって、どうすればわかって貰えるかしら?


ライラさまに相談できればいいけど、そうしたら、わたしに感謝して貰えなくなる。


一生懸命考えているうちに、一週間経ってしまった。


「そうよ、村の皆に証言して貰えばいいんだわ」


村のひとたちはきっとわたしの味方になってくれる。今までさんざん、わたしは彼らのために尽くしてきたもの。

わたしが利用されて困っていた、って、村の皆に、そう、神父さまに相談していたってことにすれば、わたしとおじいさまが鍵を隣国に渡そうとしていたことも、仕方ないって思ってもらえるし、ライラさまの所為じゃなかったってわかって貰える。


わたしはこの考えがとっても素晴らしいものに思えて、いつも通り殿下の馬車を借りて村へ向かった。


村の皆は、とても機嫌が良かった。


「お前が捕まったりしたら、故郷の村までお咎めを受けかねないからな。なんでも協力するよ」


皆そう言ってくれて、わたしはほっとした。

そうしたら、その中の男の人たちがニヤニヤしながら続けた。


「でも安心しろよ、あの銀髪のお高く留まった女なら、もうおれたちがうんと懲らしめてやったからよぅ」

「え?」

「ようは、あの女が全部わるかったってことにすればいいんだろ?そうすりゃお前は王太子妃だ。俺ら村人全員、王都で暮らせるようにしてくれよ」

「あの女、おれら全員で相手してやったよ。家畜小屋で、両手両足を縛って、魔法何か使われちゃ困るから布を噛ませちまったから、まぁ、声は楽しめなかったが」

「殴っても蹴っても大人しくならねぇ。気の強すぎる女ってのはやっかいだな」

「もう一週間くらい前か?あの女がノコノコ現れて、お前のことや隣の国の王子がここで誰を待っていたかとか、詳しく聞こうとするもんだからよ」


動かなくなったので裸にして森に棄てた、あとは獣の餌になってるだろう。


男の人たちはそう言って笑って、笑って……。


気が付いたら、わたしは村を燃やしていた。

わたしは村を燃やしたのは突然現れた盗賊の所為にしようと思って、王宮に駆け込んだ。


そこで、冷たい氷のような眼をした背の高い黒い騎士の人が、わたしを保護してくれて、わたしの衣服も綺麗なものにしてくれて、そして。


「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ!マレク殿下!!」


王宮に、ライラさまがいらっしゃる。

わたしは謁見の間の隅に隠れるように立たされながら、ただただ驚いて、それを見ていた。


あの村人たちの言った事は嘘だったの?

それとも、そんなことがあってもライラさまは何も穢れなく毅然とされているのだろうか。

いいえ、いいえ、そんなことはどうでもいい。


わたしは嬉しくなって、ライラさまに駆け寄ろうとして、でも、そこで気付いてしまったの。


あの方は誰?


違うわ。

違う、あれは、ライラ・ヘルツィーカさまじゃない。

髪が短いからとか、着ているドレスが違うからとか、そんなんじゃない。


あれは【ライラ・ヘルツィーカさまじゃない】って、わたしにはわかった。


途端に、わたしは目の前の不思議な令嬢が何をしているのか気になった。

ライラさまの体で、彼女は何をしているの?

どうしてライラさまの体を使っているの?


わからないことばかりだった。

でも、剣を持って、マレク殿下に挑むその姿を見て、わたしはとっても、簡単なことに気付いてしまった。


あぁ、そうなの。

女の子が剣を持って、戦っても、よかったのね。




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