[勇者]使命からの解放と、暴かれた偽り
「光輝、その話は本当か?」
俺は、光輝に確認する。
「ああ、本当だ。とは言え、元々信じていない人もいたし、大きな騒ぎって程ではないけどな」
光輝が頷く。
魔王が消えた。
正確には、竜王が魔王ではなくなったらしい。
教会がそう発表したのだ。
前代未聞の話であり・・・そもそも本当に魔王だったのか、と、人々はそんな事を考えたらしい。
教会、信用ないなあ・・・
魔王出現、自体も疑っていた人は多かったらしく。
しかし、王族にとっては魔王扱いは都合が良かったので、受け入れられていたようだ。
各国の態度としては、魔王でなくなったと受け入れ、兵を呼び戻す国もあり・・・
今俺達がいる国のように、魔王は依然として存在する、と主張する国もある。
特にこの国の場合、竜王の国と国境を接しているため、魔王でない、と言われても困るのだ。
竜王の国が兵を引くわけではないのだから。
「王女様がお呼びです」
侍女が、呼びに来た。
この話だろうか。
広間に行くと、王女が待っていた。
王女が言う。
「皆様、お集まり頂き、ありがとうございます。実はこの度、魔王軍が更に侵攻し・・・辺境の村が脅かされています。つきましては、皆さんにその村の救助・・・そして、魔王軍の砦の攻略を御願いしたいのです。皆様の実力は、あの砦の敵くらいなら十分に対応できるだけになりました」
ややこしい事になる前に使い潰そう、といった所だろうか。
「いや、王女様。実は、竜王は魔王ではなくなった、という噂を聞きましてね」
光輝が言う。
「ええ・・・魔王軍がそのようなデマを流しているのは承知しております」
王女が悲しそうに言う。
嘘判定が出てるけど。
「いえ、魔王軍ではなく、教会が発信しているようです。元々魔王認定を行ったのも教会。これは信憑性は十分だと思います」
光輝が否定する。
「・・・しかし、このままでは罪もない者が危険に晒されます。どうかお助け下さい」
王女が言う。
「魔王軍ではなくなった以上、これは国家と国家の小競り合いです。私達が戦いに参加する必要は無いはずです」
光輝が言う。
そもそも王国軍が存在するしなあ。
「・・・皆様は、この国に育てて貰った恩がある筈ですよ?その恩を少しくらい返しては頂けないでしょうか?」
王女が言う。
「それは違います」
否定の言葉を発したのは・・・大賢者、百識烏頭。
「そもそも、我々を異世界から無理矢理召喚したのは貴方達です。我々を速やかに、元の世界に帰らせて下さい。我々は、貴方達に恩を感じる必要は有りません」
烏頭の言葉に、
「ぐ・・・」
王女が呻く。
「あ・・・貴方達を召喚したのは・・・魔王がいて・・・この世界の危機が・・・仕方なく・・・」
王女が言うが、
「その魔王がいなくなったのです。速やかに送還するのが筋ではないでしょうか?」
淡々と、烏頭が言う。
王女が、言葉に詰まっていると、烏頭が畳みかける。
「それで、元の世界に帰るにはどうすればいいですか?」
王女が言う。
「送還する方法・・・等・・・ない」
烏頭が尋ねる・・・と言うか、分かっていて、念を押すように言う。
「我々を騙していたのですね?」
「ぬぬぬ・・・」
王女が唸る。
「とりあえずこの城を出ましょう。此処にいても仕方ありません」
烏頭がみんなに提案する。
それは断る理由はない。
王女も、兵士をけしかけるか迷っているようにも見えるが・・・兵士の間にも動揺が見られるし、俺達も全員揃っている段階で攻撃をしかけられても、それなりに抵抗は出来る。
こうして、俺達は城から抜け出した。
「さて・・・これからどうするか」
俺が言うと、
「まあ、なるようにしかならないだろ。とりあえずはのんびり暮らすしかないかな。王女の追っ手とかが来ないかが不安ではあるが」
光輝が答える。
「教会に行ってみたら、何か知っているかもしれないですね」
耀が言う。
「案外、彰一に聞いてみたら何か教えてくれるかも」
冥利が言う。
「教会に行ってみて、駄目なら彰一に聞いてみて・・・とりあえずギルド登録とか、生活の仕方とか、彰一なら色々知ってそうだね」
麟が言う。
・・・とりあえずそんなところだろう。




